上高地ちょっぴり登山

谷底をうろうろするだけじゃつまらない。少しは高い所に行ってみたい! でも登山なんてしたことないし…。そんな人におすすめのコースを紹介します。必ずしも登山靴である必要はありませんが、底の厚いしっかりした靴で足ごしらえし、水・行動食と日焼け対策も忘れずに。

なお、以下の記述は筆者が実際に歩いた経験を基にしていますが、毎年のように調査歩行しているわけではありません。大雨などで通行止になることもあるので、最新のコース状況は現地にお問い合わせください。

穂高連峰の展望が素晴らしい徳本峠へ

徳本峠から見る穂高連峰

昭和になって釜トンネルが開通するまでは徳本峠(とくごうとうげ)が上高地の入口でした。ウェストンも高村光太郎も芥川龍之介も、みなこの峠を越えて上高地入りしました。島々の分岐から20km、昔の人はよく歩いたのですね。

島々から歩くのはちょっと大変ですが、上高地側からはゆっくり日帰りで徳本峠に登れます。河童橋から梓川左岸の道を歩いて約1時間、明神を過ぎてすぐに徳本峠への分岐点があります。ここから峠まで約2時間。ゆっくり登っても3時間もあれば着けるでしょう。

分岐からしばらくは、コマドリやミソサザイの囀りを聞きながら緩い勾配の幅広い山道を歩きます。やがて急に道幅が狭くなるあたりからは急登となり、いいかげん嫌になる頃に霞沢岳への指導標を見るともうすぐそこが峠です。トイレは徳本峠小屋の脇にあります。

峠には広場もあり、穂高連峰の素晴らしい展望が楽しめます。が、ここで終わってしまわずに、少し登って展望台まで行ってみましょう。ゆっくりと座っておにぎりでも食べながら穂高連峰を眺めれば、登りの辛さも吹き飛ぶことでしょう。

帰りは来た道を引き返します。登りと違って展望を楽しみながらの降りです。途中何人かとすれ違いますが、峠に登る人はあまり多くないようです。

※この記述は、1996年7月の歩行記録を基にしたものです。

西穂の尾根から上高地へ

ロープウェイの新穂高温泉駅

西穂の尾根をはさんで上高地とは反対の岐阜県側にある新穂高温泉からは2,000mを超える地点までロープウェイで登ることができ、多くの観光客・登山客でにぎわいます。1997年12月の安房トンネルの開通で、上高地からタクシーで新穂高温泉へ行って尾根越えで上高地に戻るプランが日帰りのコースとして考えられるようになりました。お金がかかるのが難ですが、上高地から登ることを考えるとはるかに楽です。上高地からロープウェイの新穂高温泉駅までタクシーで約60分、15,000円くらい。4人で行けばかなり経済的です。

西穂独標(緑色のピークのすぐ左の丸い岩)
と西穂高岳(左端のピーク)

ロープウェイは第一ロープウェイ(4分)と第二ロープウェイ(7分)に別れており、それぞれ20〜30分間隔で運行されています。終点の西穂高口駅まで、上高地から2時間あれば十分です。西穂高口駅には食堂もあり、朝食をここでとるのもいいでしょう。西穂高口駅から1時間ほど登ると西穂山荘(2,385m)です。あれ、もう着いたの? というくらい簡単にここまで登れてしまいます。森林限界とほぼ同じ標高で、焼岳とその向こうの乗鞍岳の眺めが素晴らしい所です。

朝早いうちに西穂山荘に到着できれば、西穂独標(2,701m)に挑戦することも可能です。独標まで行けば、眼下はるかに上高地を見下ろすことができるほか、山荘周辺とは比較にならないほど素晴らしい展望が得られます。山荘から独標まで往復3時間、正午までには戻りたいところです。たくさん人がいて修学旅行の中学生も登る一般向けコースですが、ガスが出ていたり大気の状態が不安定な時は無理は禁物。独標付近は急な岩場で、雷が来たからといって安全な場所まで走って逃げられるような場所ではありません。実際、1967年8月には落雷事故で13人が亡くなっています。

西穂独標から上高地を見下ろす(正面は霞沢岳)

さて、帰りは上高地に下りるだけですが、山荘から上高地への高度差860mの降りが実はこのコース最大の難所です。全行程のほとんどが石だらけの急坂で、両手を使わなければ通れない場所も少なくありません。登山用の地図ではコースタイム2時間となっていますが、3時間〜3時間半くらいみておいた方がいいと思います。

ロープウェーを使うことで簡単に登れてしまいますが、特に独標まで行った場合は距離も時間も長くなり、標高が高く酸素が少ないこともあって、気付かぬうちにかなり体力を消耗します。帰りが大変だということを頭に入れて行動しましょう。石だらけの急坂で転倒したら大怪我につながる可能性もありますから、山荘に到着した時に疲れていたら無理に歩いて下山せずロープウェーで降りてタクシーで帰る方が無難です。

※この記述は、1998年7月の歩行記録を基にしたものです。

氷河地形の涸沢へ

朝の横尾山荘

穂高連峰のベースキャンプである涸沢は氷河による侵食でできたU字谷で夏でも雪渓が残り、秋は紅葉の見事さで知られます。上高地からは長い距離を歩くため日帰りは無理ですが、多くの登山者が歩くため道はよく整備されていて、涸沢で1泊して下山するプランなら無理なく歩くことができるでしょう。

本谷橋

上高地から梓川沿いの平坦な道をひたすら歩いて約3時間半。横尾山荘まで来ると、観光客の姿もなく、すっかり登山の世界です。この先は涸沢まで水場がないので、出発する前に補給しておきましょう。槍ヶ岳への道と分かれて涸沢方面へ、左頭上に屏風岩を仰ぎ見つつさらに歩くこと1時間半、本谷橋に到着します。ここから先は今までと違って本格的な登りになります。橋のたもとで休憩し、エネルギーも補給しておきましょう。なお、沢の水は一見きれいですが、上流にキャンプ場があり汚染されているため飲料には適しません。

橋から先はいきなりの急登です。15分ほど登って緩やかな道になったと思ったのも束の間、すぐにまた急な登りになります。ガレを横切り傾斜が緩くなると前方に遠く涸沢が見えてきますが、それからがまだまだ長い。やがて道は沢沿いとなりますが、この沢の水もやはり飲めません。さらに歩いて石畳の道が左右に分岐するところまで来ると、ここが涸沢ヒュッテのすぐ下。左へ行けば涸沢ヒュッテへ、右へ行けば国設涸沢キャンプ場へ、もうひと頑張りです。

涸沢カールの雪渓

キャンプ場のすぐ上、池の平からは涸沢カールに残る雪渓を間近に見ることができます。カール正面の緩やかな稜線は奥穂高岳と前穂高岳の間の吊尾根で、上高地とは反対側から見ていることになります。右へ目を転じれば涸沢岳から北穂高岳へと3,000m級の山々が眼前に迫り迫力充分。涸沢ヒュッテの売店では生ビールとおでんをいただくこともできます(これが美味い!)。

涸沢ヒュッテに荷揚げのヘリが到着した瞬間

登山客でにぎわうシーズンには涸沢ヒュッテと涸沢小屋の2件の山小屋への荷揚げのヘリコプターがひっきりなしに飛来します。左の写真は、涸沢ヒュッテに荷物を運んできたヘリコプターが到着した瞬間。ホバリングしている間にロープで吊るされた荷物を下で受け取り、ふたたび戻っていくまでわずか数秒。この輸送態勢のおかげで、標高2,300mの涸沢で生ビールが飲めるわけですね。

翌日は登りと同じ道を引き返します。急がずゆっくり、慎重に歩きましょう。途中、登ってくる人と頻繁に出会いますが、すれ違うことのできない場所では登り優先で。本谷橋まで約1時間半、本谷橋から上高地まで休憩を含めて約5時間です。

※この記述は、1999年7月の歩行記録を基にしたものです。

3,000m峰の乗鞍岳へ

この県境が日本道路最高所(2,715m)

朝の畳平駐車場(8時にはもう満車)

穂高連峰ではありませんが、松本方面から上高地入りする場合は途中で乗鞍岳へ寄り道するのもいいでしょう。標高2,700m付近まで車で行けるので、わずか300mあまりの登山で3,000m峰を征服することができます。

前川渡トンネル出口の信号を左折して乗鞍高原に向かいます。乗鞍エコーラインの急な山道を登るとやがて長野・岐阜の県境で、ここが日本道路最高所(2,715m)。そのすぐ先が畳平で、無料の駐車場が2ヶ所あります。平湯温泉側からも有料道路(乗鞍スカイライン)が通じていて朝早くから車で埋まり、週末は8時にはもう満車で順番待ちの車が列を作り渋滞します。

畳平から車も通れる道を右手に不消ヶ池を見下ろしながらゆるやかに登り、富士見岳と摩利支天岳との鞍部を越えると道はわずかに下り坂となり、乗鞍岳の主峰剣ヶ峰(3,026m)が見えると、まもなく肩の小屋に到着。ここからは急な登りです。

肩の小屋手前で剣ヶ峰が見える(左端のピーク)

頂上小屋から剣ヶ峰を目指す登山者の行列

標高差わずか300mほどとはいえ、既に高度は標高2,700mを超え、酸素が薄くすぐ息切れします。無理せずゆっくり歩きましょう。そのうち体が高所に慣れれば楽になってきます。朝日岳と蚕玉岳の鞍部に出ると右手に権現池を見下ろしながらもうひと踏ん張りです。

蚕玉岳を過ぎて少し登ると頂上小屋があり、神社の建つ剣ヶ峰はすぐ目の前。たくさんの登山者が作る行列はノロノロと山頂を目指します。山頂には乗鞍権現の社が信州側と飛騨側を向いて背中合わせに置かれ、狭い頂上部は人であふれそうです。

帰りは同じ道を引返しますが、ザレて歩きにくい道や岩場では登り以上に慎重に。肩の小屋で熱いうどんを食べるのもいいでしょう。

※この記述は、2000年8月の歩行記録を基にしたものです。2003年シーズンより、乗鞍エコーラインと乗鞍スカイラインは共に一般車両の通行が禁止されました。

上高地を一望する岳沢へ

天然クーラー「風穴」

上高地で最も有名な風景は、河童橋から見上げる穂高連峰でしょう。その正面、奥穂高岳と前穂高岳の間の谷が岳沢(だけさわ)です。上高地からよく見えるということは、向こうからも上高地がよく見えるということ。上高地を一望できる展望台です。岳沢の中腹にある岳沢ヒュッテは標高2,230m。河童橋から約3時間、標高差約700mの登りです。

岳沢ヒュッテ下からの眺望

岳沢ヒュッテ

梓川右岸の道を明神方面へ歩いてしばらくすると「穂高岳沢登山路」の大きな表示板があり、ここが登山道の入口。よく踏まれた道を1時間ほど登ると風穴があります。岩の間から冷気が吹き出す天然のクーラー。火照った体に冷たい風が心地よく、思わず休憩せずにはいられない所です。風穴から少し昇ってガレ場に出ると、すぐ近くに西穂の稜線が迫り、奥穂高岳もかなり近くに見えます。

さらに1時間ほど登ると小屋見峠で、岳沢ヒュッテまであと10分ほどです。最後にガレ場を渡るとき左手を見ると、眼下に上高地、正面には遠く乗鞍岳が見え、素晴らしい眺めに疲れも吹き飛びます。岳沢ヒュッテのテラスで展望を楽しみながらゆっくり風に吹かれるのはなんとも言えません。

帰りは登りと同じ道を引き返します。下りなので楽なものですが、樹林帯に入るまでは日光を遮るものがなく、晴れているとかなり暑い。登りでこの暑さはたまらないので、早朝に出発して、前穂高岳の日陰になっている間に登ってしまうことをお勧めします。

※この記述は、2003年8月の歩行記録を基にしたものです。