ずっと一緒に・・・

                           by みあ様
                           「みあの泉」様2000Hits記念フリー小説  




「プロージット!」

シャンパングラスを眼前に翳して、ラインハルトが一気にそれを飲み干す。

「プロージット!」

「乾杯!」

会場に集まった者達も、ラインハルトに習ってグラスを空ける。

幼年学校の制服を身に纏った少年達がグラスを下げ、変わりに豪華な料理が運ばれてきた。

その料理に真っ先に飛びついたのはファーレンハイトで、彼は食べると言うよりも、用意したタッパに料理を詰めることに熱心である。

そんなファーレンハイトのもとに、ラインハルトが歩み寄る。

「ファーレンハイト、よくきてくれた」

「これは、陛下・・・私のようなものをご招待くださり、光栄の極みにございます」

「うむ・・・ところで、卿はなにをしているのだ?皆のように、皿に取って口に運べばよいではないか。なにゆえ、タッパなど持参している?」

ラインハルトがちらりとファーレンハイトの手元に視線を投げると、ファーレンハイトは血色のあまりよくない顔を、薄く染めた。

「はっ・・・お恥ずかしいことで、私はここ三日、食べ物をろくに口にしていないのです」

そこまで生活に困っていたのかと、ラインハルトの眉が曇る。

「それは気の毒なことだな・・・だが、それならば、今、思う存分食せば良いではないか。卿の事情を知れば、この会場のほとんどの料理を卿が食べてしまったとしても、誰も文句は言うまい」

「ありがたきお言葉、感謝に絶えません。それでは、料理を半分ほどテイクアウトさせていただいてもよろしいでしょうか・・・これで、二週間食いつなぐことができます」

「ファーレンハイト・・・よかろう、許可する」

それ以上見ていられなくて、ラインハルトはそこから立ち去った。

ファーレンハイトには、今度、手作りのお菓子でもプレゼントしてやろう。

あのままでは、憐れすぎる・・・。

目尻に滲んだ涙を拭っていると、そっと白いハンカチが差し出された。

顔を上げると、タキシードに身を包んだシェーンコップが、口の端に笑みをたたえて立っていた。

「あまり擦ると赤くなるぞ。このパーティーの主役が目を腫らしていたら、お前さんの忠実な臣下たちは動揺するだろう、大袈裟なほどに、な」

「・・・すまない」

受け取ろうと伸ばしたラインハルトの手を、シェーンコップが強く引く。

油断していたラインハルトは、簡単にシェーンコップの大きな腕の中に収められてしまった。

「シェーンコップ?」

「泣きたいのなら、俺の胸の中で泣けばいい。こんなハンカチよりも、よほど役に立つだろうさ・・・」

「・・・・・」

そこまで悲しいわけではないのだが、シェーンコップの体温が心地よくて、ラインハルトは少し、このまま甘えることにした。

「シェーンコップ、卿には感謝している・・・予が、このヴァルハラに来て一年。色々と卿には世話になったな・・・これからも・・・卿とはうまくやっていきたいものだ」

「まあ、お前さんには、なんだかんだと迷惑をかけられたりはしているが、おかげで楽しませてもらっていることだしな・・・俺達は案外、相性がいいのかもしれん」

よしよしと頭を撫でられ、ラインハルトは照れくさくて、その手を退けた。

「予は子供ではないのだから、こういうことはやめるように言っているだろう」

シェーンコップから視線を逸らして言う。

本当は、彼に子ども扱いされるのは嫌ではない。

他の者には、それがたとえキルヒアイスであっても、ラインハルトには許容できないのだが、なぜかシェ−ンコップは特別だった。

「ラインハルト陛下」

柔らかい声に呼ばれて、ラインハルトはそちらを見やった。

収まりの悪い黒髪をなんとか撫でてセットしたヤンが、似合わないタキシードを着ているので、ラインハルトはつい笑ってしまった。

「ヘ、陛下・・・ひどいではありませんか・・・笑うなんて・・・」

「す、すまない、ヤン・・・だって、に、似合わないぞ・・・その服・・・」

見慣れた同盟軍の軍服でないためか、それとも、やはり単にタキシードが似合わないのか、とにかくラインハルトは笑いを収めるのに一苦労した。

「これは・・・無理に着せたのは失敗だったかもしれませんな。提督には、どうも儀礼服は似合わない」

シェーンコップも堪らず吹き出している。

「だから、同盟軍の正装でいいだろうと私は言ったんだ・・・それを・・・」

ぶつぶつ呟いて頭を掻き回すヤンに、ラインハルトは笑みを深くした。

「卿にはその髪型の方が似合っているぞ。ヤン、予と卿が始めて会ったときも、卿はそのような、ぐしゃぐしゃの頭だった」

「・・・・・」

ラインハルトは指を伸ばして、複雑な表情を浮かべたヤンの髪に滑らせたが、ウェーブがかったヤンの癖は直らなかった。

「流れるようでいて、その実、容易に形を変えようとしない・・・まるで、ヤンそのもののようだな・・・やっぱり、この方がいい・・・」

「・・・・・」

なんと答えればいいのかわからなくて、ヤンは曖昧に微笑んだ。

まるで、愛の告白のようだ・・・この人に限って、そのような意図はないのだろうが・・・。

それがわかっていても、心を掻き乱されてしまう。

ヤンはもう一度頭を掻こうと手を上げたが、すぐに思い改まって下ろした。

せっかくラインハルトに撫でてもらったのだから、しばらくはこのままにしておこう。

そんなヤンを見て、シェーンコップが隣で楽しそうにニヤついている。

「ラインハルト様!」

人の山を上手にかわしたキルヒアイスが、ラインハルトのそばにやってきた。

一見、自然にラインハルトとシェーンコップの間に、身体を滑り込ませる。

だが、そのキルヒアイスの動きの意図に気付かないシェーンコップではなかった。

焼きもち焼きめ・・・。

内心そう思っても、シェーンコップはキルヒアイスを一瞥しただけで、なにも口にしない。

その余裕に満ち溢れたシェーンコップに、キルヒアイスは今まで何度も、不安な気持ちにさせられていた。

大丈夫、今日は特別な日だ・・・そのために、こうしてパーティーを催しているのだし・・・。

キルヒアイスは自分にそう言い聞かせ、ラインハルトの手を取った。

「ラインハルト様、こちらに来ていただけますか?お話したいことがあるのです」

「なんだ、改まって・・・その話というのは、ここでは駄目なのか?」

「・・・とても大切なことなので」

真剣なキルヒアイスの青い瞳に、ラインハルトは頷いた。

「わかった・・・ヤン、シェーンコップ。また、後で会おう・・・失礼する」

「失礼します、ヤン提督、シェーンコップ中将。よい夜をお過ごしください」

「お前さんが皇帝を連れて行かなければ、もっとよい夜を過ごせたのだがな」と、シェーンコップは皮肉を言いかけてやめた。

今日は彼らにとって、大切な日だということを理解していたからだ。

ヤンもそのことは心得ていて、残念そうではあるが手を振って二人を見送っている。

そう、今日は彼らが再会した、特別な日なのだった。



パーティーの喧騒から離れた一室で、ラインハルトとキルヒアイスは窓から星々を眺めていた。

この部屋に来る途中、ロイエンタールに呼び止められたのだが、ラインハルトが2人きりにして

欲しいと頼むと、渋々去っていった。

いつもこうなら楽なのにな・・・キルヒアイスは苦く笑って、自分の肩にもたれ掛かるラインハルトを見下ろした。

長い金色の睫毛が、真っ白な頬に影を落としている。

この美しい友人と再会できた、一年前のことを思い出す。

冥界の門を潜り抜けたところにある青バラの園で待っていたキルヒアイスを見つけたラインハルトは、一も二もなくキルヒアイスの腕に飛び込んできたのだった。

体当たりのような再会に驚いたキルヒアイスは、後ろからバラの中に倒れこんでしまい、ラインハルトに反射神経が鈍ったな、と笑われてしまった。

キルヒアイスは、こんな風にラインハルトが笑ってくれるとは思っていなかった。

いや、笑ってくれるだろうかと、不安だった。

喧嘩別れを・・・あのような別れ方をしてしまったのだ。

再会する喜びはもちろん、言葉では言い尽くせないほどあったが、やはり、前のような関係ではいられないと、そんな気持ちが胸に燻ぶっていた。

「キルヒアイス・・・」

腕の中のキルヒアイスが、小さく声を発する。

ラインハルト様が・・・震えていらっしゃる?

「ラインハルト様?」

「・・・キルヒアイス・・・ごめん・・・キルヒアイス・・・」

「・・・ラインハルト様」

キルヒアイスは、ラインハルトを包む腕の力を強めた。

すると、キルヒアイスの背中に回されたラインハルトの腕にも、きゅっと力が篭る。

二人は無言で抱き合い、唇を合わせた。

それは、遠かった二人の時が戻ってきた瞬間だった。

「キルヒアイス・・・なにを考えている?」

急に現実に引き戻されて、キルヒアイスは何度か目を瞬かせた。

アイスブルーの瞳が、キルヒアイスを見上げている。

「・・・あなたのことを。一年前の、あの日のことを思い出していました・・・」

「そうか」

ラインハルトは口元にうっすらと笑みを浮かべると、キルヒアイスの胸に柔らかい頬を押し当ててきた。

甘い香りの漂う髪が、キルヒアイスの鼻をくすぐる。

「ラインハルト様は、なにを考えていらしたのですか?」

「俺も・・・お前と同じこと思い出していた・・・」

「そうですか・・・」

目を閉じると、パーティーの賑やかな音が耳に届いた。

「話というのはなんだ?キルヒアイス」

「・・・特別なお話というよりも・・・あなたとこうして、二人でいたかったのです。今日の夜だからこそ・・・」

「ふふ・・・すると、俺はヤンとシェーンコップに今夜はもう会えないな。さっきは後で、と言ってしまったが・・・」

楽しそうなラインハルトの声が、あの二人には申し訳ないが、キルヒアイスには嬉しい。

夜空に視線を戻すと、ちょうど星が細く流れ落ちた。

ラインハルトが慌てて願い事をしているのが、気配で伝わってくる。

「これからも、キルヒアイスと一緒にいられますように・・・そう願い事をなさったのでしょう、ラインハルト様?」

「・・・違う」

顔を背けて頬を膨らませるラインハルトに、キルヒアイスは抑えきれなかった笑みを零した。

ラインハルト様は以前と、ぜんぜん変わっておられないな。

今も昔も、とても嘘が下手で、とても素直じゃない。

「ラインハルト様。私は今の流れ星に、こうお願いしたのですよ。ラインハルト様とずっと一緒にいられますように、と。これで、きっと、私達はずっと一緒にいることができますね」

「一緒に・・・」

「はい、ずっとずっと一緒にいましょう、ラインハルト様。これからも、ずっと・・・」

指をラインハルトの指に絡めて、もう片方の手で顎を捕らえる。

わずかに力を込めて、こちらに顔を向けさせると、ラインハルトは笑っていた。

ラインハルトの透明な瞳が、星の光を映して煌いている。

「ずっと一緒だな、キルヒアイス」

「はい、ライン、ハルト・・・様・・・」

キルヒアイスの言葉の最後の方は、ラインハルトの唇に吸い込まれていく。

瞼を閉じながら、キルヒアイスはラインハルトを全身で感じていた。

きっと、自分もラインハルトのように幸せな笑みを浮かべているのだろう。

この人のそばで、これからも。

これからもずっと二人で・・・。

星々が祝福するかのように輝きを増し、優しく恋人達を包み込んでいった。




                       Ende













(二人がこのままで終わるわけがありません!
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