著作権
<西洋絵画の著作権について>
  皆様、世に「著作権」と呼ばれる権利が存在することはもちろんご存じのことと思います。あらゆる著作物に必ずついて回り、その著作者を一種の専制君主にする権利のことです。
  うっかり侵害してしまうと、著作者の怒りようによっては告訴されて損害賠償を請求されたり、ひどい場合は逮捕されたりしてしまうシロモノですから、自分のものでない著作物を扱う際は神経質にならざるを得ません。絵画ももちろん著作物ですから、神話画の紹介コンテンツを作るに当たっては以下の問題について法的に吟味する必要がありました。
 
(1)絵画の画像を無断でサイトに掲載することは画家の著作権を侵害する行為ではないか?
(2)絵画を写し取った写真に関しては、それの撮影者に著作権が発生するのではないか? 他人が撮影した絵画の写真を無断でサイトに掲載することは撮影者の著作権を侵害する行為ではないか?
(3)画集や絵葉書などの出版物から絵画の画像をスキャンし、無断でサイトに掲載することは出版者の著作権を侵害する行為ではないか?
(4)美術館や博物館、あるいは個人が所有する絵画の画像を無断でサイトに掲載することは所有者の権利を侵害する行為ではないか?
(5)絵画の画像にトリミングなどの加工を施すことは画家の著作権を侵害する行為ではないか?
 
  結論から申しますと、以上5点をクリアできる範囲内で「テオポリタン・ミュージアム」は作成されております。以下、それぞれの問題について詳述させていただきますが、その前に基礎知識として、著作権に含まれるさまざまな権利の内容をごく簡単にご説明しておきましょう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  今回の場合は特に「複製権」「公衆送信権」「同一性保持権」の侵害が焦点となります。それでは参りましょう。
 
 
(1)絵画の画像を無断でサイトに掲載することは画家の著作権を侵害する行為ではないか?
  画家の著作権が著作権法によって保護されている期間内にそのようなことをすれば、当然ながら著作権侵害です。絵画を複製したデジタル画像をインターネットを通じて不特定多数の人が閲覧できるようにするわけですから、複製権と公衆送信権の侵害に当たります(複製については(2)で詳述します)。
  しかし日本では、著作権の保護期間は著作物の創作時から始まって著作者の死後50年が経過するまでと定められていますから(著作権法第51条)、それを過ぎてしまうと著作権は消滅し、著作物はパブリックドメイン(公有財産)として誰でも自由に使用できるようになります。
  たとえそれが外国人の著作物でも同様です。日本が批准するベルヌ条約は加盟国の著作物には自国のそれと同等の保護を与えるべしという「内国民待遇」を採っていますから、いちいち相手の国の著作権法がどうなっているかを調べなくても自国のものと同じと考えて差し支えありません。ただし、相手国における著作権保護期間が日本の50年よりも短い場合は、相手国の定める期間だけ保護が与えられます(これを著作権の相互主義といいます)。
  以上が原則ですが、しかし日本の場合は注意しなければならない例外があります。というのも、第二次世界大戦の敗戦国である日本は、戦時中敵対していた連合国側の著作物に十分な保護を与えなかったという理由で、それらの国の国民が大戦前及び大戦中に取得した著作権についてはそれぞれの国と戦争状態にあった期間分保護期間が延長されるというペナルティを課せられているのです(これを戦時加算といいます)。
  「戦争状態にあった期間」とは開戦日である1941年12月8日から平和条約発効前日までの実日数を指し、それぞれ以下の通りと定められています(大戦中に取得された著作権については、取得日から平和条約発効前日までとなります。また、ロシアと中国については平和条約が締結されていないため戦時加算はありません)。
アメリカ・イギリス・カナダ・フランス・オーストラリア・ニュージーランド・スリランカ・パキスタン:3794日
ブラジル:3816日
オランダ:3844日
ノルウェー:3846日
ベルギー:3910日
南アフリカ:3929日
ギリシア:4180日
レバノン:4413日
  つまりこれらの国の著作物については、50年に戦時加算をしただけの期間(ざっと60年半から62年ほど)を経ないと著作権は消滅しないので要注意です。
  しかし逆に言えば、どこの国のものであれ著作者の死後63年経っている絵画に関しては画家の著作権について心配する必要はないのです。というわけで、当サイトでは既にパブリックドメインとなった絵画のみを扱っております。現代の作品を期待して来られた方はごめんなさい。
 
(2)絵画を写し取った写真に関しては、それの撮影者に著作権が発生するのではないか? 他人が撮影した絵画の写真を無断でサイトに掲載することは撮影者の著作権を侵害する行為ではないか?
  これについては、まず著作物の定義がいかなるものであるかをご覧いただきましょう。著作権法第2条1項によれば、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であるとされています。
  さて、平面的な絵画を真正面からそっくりそのまま忠実に再現しただけの写真は撮影者の思想や感情の創作的な表現と言えるでしょうか? ……言えませんよね。ただ単にその絵のコピーができあがっただけであり、撮影者の個性は何ひとつそこに反映されていないのですから。
  よってそのような写真は著作物とは認められず、「複製物」として扱われます。もし、もとの絵画に著作権がまだ存在するならば、無断でその複製を作るという行為は複製権の侵害に当たりますが、既にパブリックドメインとなったものであればその心配はいりません。
  できあがった写真は著作物ではないのですから、撮影者に著作権はありません。よって、他人が撮影した絵画の複製写真を使っても著作権法上の問題はありませんし、逆に自分が撮影した写真を無断で使われてもそれをやめさせる法的根拠はないということになります。
  ただし、上記はあくまでも平面的な作品の場合です。彫刻のような立体物の写真の場合は、カメラアングルや光線の当て方などに撮影者の個性が表れますから、著作物と見なされ著作権が発生し、使用するには許可が必要となります。よって当サイトでは彫刻は避け、絵画のみをご紹介しております。
 
(3)画集や絵葉書などの出版物から絵画の画像をスキャンし、無断でサイトに掲載することは出版者の著作権を侵害する行為ではないか?
  名画の画像の入手法としてまず真っ先に考えられるのが出版物からのスキャニングです。しかし、中には「無断複製・転載を禁ず」のような注意書きがあるものもありますよね。そこで、そもそも出版者はどのような権利を持っているのかを考えてみましょう。
  まず真っ先に思いつくのは「出版権」です。出版権とは、複製権を持つ者がその著作物を文書または図画として出版することを引き受ける者に対して設定することができる権利であるとされています。平たく言えば、著作権者が出版社などに対して「著作物を複製して出版してもいいよ」という許可を与えたとき、その出版社は出版権を得たということになるわけですね。出版権者は最初の出版日から3年間、「著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有」(著作権法第80条1項)します。
  「複製する権利を専有」と聞くと、スキャンは難しいように思えますね。しかし、ここで注目すべきなのはむしろ「出版権を設定するのは複製権者である」というところです。著作権が消滅し、複製権を持つ者がいなくなってしまったパブリックドメインについては出版権が発生するはずがありません。ですからこれに関してはまったく心配する必要はないわけです。
  しかし、たとえ出版者が昔の名画に対する出版権を持っていなくても、それらの写真を集めてレイアウトし、画集などにして出版すれば、その画集は「編集著作物」と見なされ「編集著作権」が発生します。編集著作物とは素材の選択や配列などに創作性が認められるもののことで、編集著作権とはそのような選択や配列によって作り上げられた全体的な構成に対する著作権です。
  ですから、仮に画集の内容をその構成ごとパクったりすれば、明らかに編集著作権の侵害となります。しかし編集著作権は個々の素材そのものについては影響しませんから、画集の中から気に入った絵画を数枚個別にスキャンしてサイトに掲載するというのは問題ありません。もっとも個々の素材そのものの著作権が生きている場合にはその著作者に掲載許可を得なければなりませんが(たとえば解説などにはそれを書いた著作者がいるはずですから)、パブリックドメインとなった絵画に関してはノープロブレムです。
  以上のことから、著作権切れの絵画の画像のみをスキャンするのであれば、いかにその出版物に「無断複製・転載を禁ず」などと書いてあっても大丈夫ということになります。自分が権利を持たないものにまで禁止を及ぼす力は、今のところ出版者にはありませんから(しかし、あまりの無力ぶりに業を煮やした出版者側が文献複写に関する自分たちの確固とした権利を著作権法に追加してもらうべく奮闘中のようです。もしかしたらそのうち法改正があるかもしれません)。
  ちなみに、スキャン画像も写真と同じく複製物として扱われるため、スキャンした人間に著作権はありません。当サイトに置いてある「THP」マーク付きの絵画画像は自由に転載してくださって結構ですと申し上げているのはそのためです。
  この理屈でいけば、当サイトが他のサイト様からお借りしている分の画像も同様に転載可ということになりますが、中にはご自分がスキャンされた画像に愛着をお持ちで使用条件を定めている方もいらっしゃいます。よって私といたしましては、お世話になっているサイト管理者の方々に敬意を表する意味もあり、また単純にもとのサイトの画像の方が大きくて質が良いためもあって、お持ち帰りはそちらからなさることをお勧めしている次第です。
 
(4)美術館や博物館、あるいは個人が所有する絵画の画像を無断でサイトに掲載することは所有者の権利を侵害する行為ではないか?
  美術品の原作品の所有者には「所有権」があります。この所有権は「物体としての著作物」を自分のモノとして支配する権利です。これに基づいて所有者は、「その絵画ちょっとの間貸し出してくれない?」とか「その彫刻の写真撮らせてよ」とか言われたとき、自分の貴重な財産であるそれを束の間相手に委ねる対価として使用料などを請求するのです。
  しかし、この所有権は「物体としての著作物(有体の著作物)」が宿す「それを著作物たらしめているもの(無体の著作物)」を支配する権利ではありません。わかりやすく言えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの手によって謎の微笑を浮かべる女性像が描きつけられた板は所有者たるルーヴル美術館のものですが、そこに表現された芸術作品《モナ・リザ》はルーヴルの専有ではなくみんなのものである、ということです。
  無体の著作物を支配するのはあくまで著作権者のみであり、著作権が消滅した後は、それを宿す有体の著作物が誰のものとなっていてもパブリックドメインとして万人に開放されます。ですから、絵画の画像をどこかから入手して利用したところで所有者に気兼ねする必要はありません。所有権と著作権は別物であり、所有者が文句を言えるのは自分の私物である原作品を勝手にどうこうされたときだけ、ということさえ理解すればこの問題は解決です。
 
(5)絵画の画像にトリミングなどの加工を施すことは画家の著作権を侵害する行為ではないか?
  絵画の画像に改変を加えることは同一性保持権の侵害に当たります。
  でもどうせパブリックドメインの場合はそんな権利消えてなくなってるから大丈夫って言うんでしょ、と思われたあなた。ここまでの冗長な説明を丁寧にお読みくださり、まことにありがとうございます。
  ですが、残念ながらこの問題に関しては今までとは少し話が違います。というのも、たとえ著作物がパブリックドメインとなっても同一性保持権は消滅しないからです。
  同一性保持権は著作権の中の「著作者人格権」に属します。この著作者人格権は著作者本人のみが有する譲渡不可能の権利と定められていますから(著作権法第59条)、本当なら著作者の死亡と同時になくなるはずのものなのですが、しかしそれを否定する条文が著作権法には存在するのです。
「著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない」(著作権法第60条)
  要するに、著作者人格権はそれ自体著作権の一部であり、しかも著作者の一身に専属する権利とされているにも関わらず、著作者の死亡後も著作権の消滅後もそれ単独で生き続けるというのです。もっとも、問題の行為が天国の著作者の気分を害しないだろうと思われる程度なら差し支えはないのですが……。
  しかし、そんな曖昧かつ主観的な基準で物事を判断すると痛い目に遭いそうで怖いですよね。では仮に、亡き著作者を不快にさせてしまうかもしれない改変を加えた場合、何が起こるのかを考えてみましょう。
  著作権法第116条1項によると、著作者の死後第60条の規定に反する行為をした者に対しては遺族が侵害行為の停止を請求することができます。この請求ができる遺族は配偶者・子・父母・孫・祖父母または兄弟姉妹です(この他著作者の遺言によって指定された人物も請求可能です)。
  現実的に考えれば、この請求を行ってくるのは主に配偶者・子・孫というところでしょう。では仮に今、私がティツィアーノの《フローラ》の顔にヒゲを描き、頭にチョンマゲを付けた画像をネットで公開したとしましょう。果たしてティツィアーノの奥さんや子供、あるいはお孫さんが謝罪と画像削除を要求してくるでしょうか?
  答えは明らかに否ですよね。
  古の名画については、人格権侵害行為の停止を訴え出る遺族が既にこの世に存在しません。そして著作権侵害は一部を除いて「親告罪」なので、被害者の告訴がなければ罪に問われることはありません。
  禁じる権利だけは永遠に保持されているものの、実際にはそれを侵したところで何も起こらないというのが、過去の名画の画像改変の実態です。もちろんあまりにも侮辱的なひどい改変は非難の対象となるでしょうが、それはどちらかと言えばやった人の品性と見識が疑われるためですね。トリミングやサイズ変更・色調補正などをはじめ、常識的な範囲内の加工についてはまず心配無用だそうです。
  なお、極端に色調を変えたものや、加筆あるいは文字入れをしたもの、他の素材と組み合わせてあるものなど、元の画像にない特徴的な加工が施されたものに関しては、加工者に二次的著作権が発生する可能性がありますので無断使用は避けた方が無難です(どの程度の加工で二次的著作物と認められるのか、その具体的な境界線は私も知りません)。使用したければ加工者の許可を取るか、あるいは絵画の元画像を手に入れて自分で加工すればよいでしょう。
 
 
<追記:商標権について>
  以上は著作権に関するお話でしたが、稀にそれとは別の権利が絡んでくることもあります。たとえばミュシャの作品を扱う場合などがそうです。
  チェコ人の芸術家ミュシャは1939年に亡くなっており、既にその著作権は消滅しています。しかし、彼の孫に当たるジョン・ミュシャ氏が設立したミュシャ財団が今は亡きミュシャの作品を片っ端から商標登録しているというのです。
  商標――この言葉をどなたも耳にしたことはおありでしょう。よく企業などが自社の商品やサービスなどについて「○○は□□社の登録商標です」などと主張していますよね。では、この「商標」とは一体どういったものなのでしょうか?
  答えは簡単、読んで字のごとく「商品を識別するための標(しるし)」です。つまり、自分の提供する商品あるいはサービスを他者の類似品から区別するため、「これはウチのものですよー!」と主張して付ける名札のことです(正式な定義は商標法第2条をご覧下さい)。
  例を挙げて言うならば、同じ宅配業務であってもヤマト運輸のサービスは「宅急便」という名称によって、日本通運のサービスは「ペリカン便」という名称によって、他社の類似サービスから厳然と区別されていますよね。「宅急便」も「ペリカン便」もそれぞれの社の登録商標です。これらを使用することによって、クロネコもペリカンもよそとごっちゃにされることなく自らの独自性や信頼性(俗に「ブランドイメージ」と呼ばれるもの)を保つことができているわけですね。
  この商標を他者が無断使用することは許されません。たとえばこれから宅配業に参戦しようとする後発企業が、クロネコヤマトの高い信頼性に便乗しようとして自社サービスを「シロネコニホンの宅急便」と名付けたりしたら、ヤマト運輸から速攻で文句を付けられることは想像に難くないでしょう。商標登録者には「商標権(登録商標の独占排他的使用権)」がありますから、無断使用は商標権侵害となり、差し止め請求や損害賠償請求、あるいは刑事罰の対象となります。
  さて、以上を踏まえた上で本題に入るといたしましょう。ミュシャ財団がミュシャの作品を商標登録しています。すると、当然次の問題が浮上してきます。
(6)商標登録されている作品の画像を無断でサイトに掲載することは商標登録者の商標権を侵害する行為ではないか?
  使用差し止めならともかく、損害賠償を請求されたり高い使用料を徴収されたりしたら……ああ恐ろしい! と思ってしまいますよね。でも大丈夫です。個人が趣味で運営している非営利サイトの場合ならまったく心配はいりません。
  なぜなら、商標を気にしなければならないのは、事業として何らかの商品またはサービスを提供している場合に限られるからです(これは営利・非営利を問いません。具体的な権利侵害の規定は商標法第37条をご覧下さい)。
  たとえば「テオポリタン・ミュージアム」にはミュシャの作品画像が数点掲載してありますが、私はそれらの画像をビジネスの一環として皆様に提供しているわけではありません。完全に一個人の趣味の範囲です。ですから、あのコーナーに載せたミュシャの画像は「商標」にはなりえませんし、商標として画像を用いていない以上、商標権侵害に問われるはずがありません。
  商標権は大変強力な独占排他権ではありますが、著作権と違ってはるかに適用範囲の狭いものです。各法律が何を禁じ、また何を禁じていないのかを知り、それに沿った行動を心がければ、法は別に怖いものでも何でもありません。せっかく美しい画像でサイトを飾ろうというのですから、同じことならきちんと学び、不必要な恐れを捨てて気持ちよく使わせてもらいましょう。
 
 
  以上については管理人自身も法律の条文や判例等を調べ、また社団法人著作権情報センターの「著作権テレホンガイド」に直接問い合わせて確認もいたしましたので、おそらく間違いはないと思いますが、万一誤っている箇所を発見されましたら是非メール等でご指摘ください。その際、誤りである根拠も必ずお書き添えください。
  また、以上の文章を参考としてお読みいただくのはもちろん結構ですが、絵画画像の使用に関してはあくまで自己責任でお願いいたします。あなた様の画像使用によって生じたいかなるトラブルについても管理人は一切の責任を負いません。ご心配な方はご自分できちんとお調べになることを強くお勧めします。
 
参考サイト
社団法人著作権情報センター
日本ユニ著作権センター
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