性暴力事件が裁判員裁判の対象となることで起きる弊害について述べます。


1. 選任手続き


● 被害者のプライバシーは本当に守られるのか


  1. 名字・名前は出さずに、まず「被害者は28歳の新宿区在住女性」などとぼかして説明する。

  2. 知り合いに心当たりのある候補者には名乗り出てもらう。

  3. 名乗り出た候補者に対し、別室で「心当たりのある女性はなんという名前ですか?」と聞いて確認する。

  4. その後、調書等を確認して知り合いであったと判明した場合は、裁判員を解任して補充裁判員と交代して貰う。


 上記は最高裁が発表した選任手続きにおける性暴力犯罪被害者のプライバシー保護の対策ですが、これはあくまでも提案であり、最高裁はこれらを指針として通達したわけではなく、各担当裁判官の判断に任せるといっています。

 担当裁判官によって対応が変わらないことを祈るばかりですが、上記の対策を確実にとったとしても、市民から選ばれた裁判員(6人+補充裁判員数名、公訴事実に争いがない場合で裁判員4人+補充裁判員数名)に知られてしまうことに変わりはありません。あって無いような守秘義務(注1)で、被害者のプライバシー保護が出来るとは思えないのです。



(注1)まいまいクラブー記者の目より引用

https://my-mai.mainichi.co.jp/mymai/modules/weblog_eye103/details.php?blog_id=774


>前検事総長の但木(ただき)敬一弁護士は「ある裁判員経験者が『評議で○○さんがこう言った』と公にすれば、これから裁判員になる人は率直に意見を言えなくなる」と、罰則付きの守秘義務が定められた理由を解説する。ただ「評議の内容をネットに流したり、お金に換えたりといった悪質なケースでなければ、処罰されないだろう。むしろ、裁判員に体験を語ってもらうことが制度の定着につながる」と強調した。複数の法務・検察幹部も「形式的には違法でも、処罰するかどうかは別。もしネット上に守秘義務違反の内容が出ても、悪質でなければ削除要請などで済ますだろう」との見方で一致している。<


 なお、但木敬一弁護士(裁判員制度推進論の中心人物)は5月21日の「朝ズバ!」でも同様の発言をしていたそうです。(裁判員を問い直す議員連盟総会での民主党 川内博史議員の発言より)



● 過去に性暴力被害を受けた人が同様の事件の裁判員候補に選ばれたら


 選任手続き期日の質問票には「あなた又は家族など身近な人が今回の事件と同じような犯罪の被害にあったことがありますか」という質問があります。(不公平な裁判をするおそれがないかどうか判断するための質問。裁判員法三十四条)


 1つの事件に対して50人〜100人の候補者が選ばれるのですから、その中には性暴力被害を経験した人(男女に関係なく)が、少なくとも数人は含まれると思います。

 質問票には全て答え無ければなりません。もし、過去に性暴力被害を受けた経験がある人が候補者に選ばれれた場合、その項目に「いいえ」と書いてしまうと罰せられてしいます(虚偽の記載をした場合三十万円以下の過料又は五十万円以下の罰金)。


 また、質問票の内容は、その後の面接で面接官が参考とする資料です。「はい」と書いた場合も、面接では、裁判員として不公平な判断をしないかどうかを知るために、そのことについてさらに深く質問される可能性もあります。その質問に答えない場合は三十万円の過料、虚偽の陳述をおこなった場合は三十万円以下の過料又は五十万円以下の罰金が課せられます。



2. 裁判で被害者が受ける二次被害


● 証人尋問


 被告人が犯行を否認している場合あるいは公訴事実を争っている場合には、被害者は裁判に出廷し証人として尋問されることがあります。

 現在は、衝立による遮蔽、ビデオリンクシステム、あるいは被告人や傍聴人の退廷などの措置によって、いくらか被害者の心理的重圧は軽くなっていますが、被害者にとっては忘れてしまいたい体験を警察や検察の事情聴取に引き続き、再び詳細に語らなければならないのは苦痛以外のなにものでもありません。また、弁護人からの尋問は被告人の利益を誘導するために、被害者にとっては過酷なものになりがちです。

 裁判員制度の導入によって、司法関係者の前ですら語るのが辛い体験を、裁判員(と補充裁判員)という一般市民の前で語らなくてはならないのです。


 未だ世間には性暴力被害者に対して偏見が根強く残っています。そのような一般社会から選ばれた裁判員(性暴力被害者は公平な判断が出来ないとして裁判員に選任されない可能性が高い事に注意すべきです)は、証人に質問する権利を持つため、その場でどのような質問が発せられるか想像もつきません。悪気もなく(偏見に基づいた)二次加害が行われることを、私は非常に危惧しています。



● 証拠調べ


 性暴力事件の証拠品には、調書(被害者の性体験も書かれています)、凶器、被害を受けた直後の写真(全身写真、顔、胸、背中、太もも、局部、など、傷のある部分は全て写真を撮られます)、診断書、現場の見取り図、実況見分(警官やダミー人形を使って、その時の体位などを再現したもの)の写真、事件の時に身につけていた衣服や下着(中高生であれば、制服から学校が分かってしまう危険もあります)も含まれます。


 検察庁は、裁判員制度導入に当たって、一般市民である裁判員に対して「わかりやすさ」をもっとうに立証手段の徹底的なビジュアル化を図っています。今まで裁判官が行っていた膨大な調書を読み込む変わりに、検察官による読み上げやパワーポイントを使い、また調書に添付していた証拠写真を現物の提示にといった具合です。

 それ以外にも、調書を読むのではなく、その場で被告人に再現させたり、見取り図を指ささせるなどもするそうです。


 司法関係者でも医療関係者でもない裁判員に、(しかも)ビジュアル化した形で証拠品を見せられるのは、被害者にとってはどれほどの苦痛でしょうか。


参考資料:裁判員裁判における検察の基本方針

 http://www.kensatsu.go.jp/saiban_in/img/kihonhoshin.pdf