人狼


2000年 日本映画
監督:沖浦啓之
原作・脚本:押井守
声の出演:藤木義勝 武藤寿美


『攻殻機動隊』で一躍国際的なカリスマ・アニメクリエーターにのし上がった押井守の原作・脚本。


設定は実際の戦後史とは異なる昭和30年代、安定経済の繁栄を享受する直前の高度経済成長期が舞台。強引な経済政策がいまだ実らず、凶悪犯罪の横行や学生・労働者の反政府武装闘争が激化し、社会不安が深刻化している。その中で都市ゲリラの非合法活動を阻止するために結成された特殊治安部隊「首都警」に属する男と、反政府セクト活動に身を投げ込んでいた少女がある事件がきっかけで遭遇する。この二人が中心となって展開する淡い、非情なラヴストーリーと権力の権謀術数についての架空のルポルタージュ色を帯びた物語。


手っ取り早く言えば二人の主人公が国家の機関同士の対立や反乱分子の目論見といったパワーゲームの狭間で、利用され、翻弄され、最後は非人間的に押しつぶされて消えていく、というようなまるで70年代のサブカルチャーの題材に出てきそうなアイテム。多分に押井守の思春期の時代感覚を回想させたような作品。押井氏はその昔赤軍派の大菩薩峠の軍事訓練に参加しようとしたとかしなかったとか。実際作品の中の風俗はあさま山荘事件手前、万博以前の史実としての日本の当時が匂ってくる感じだし、過激なセクトの連中みたいなのも出てくる。主人公の女の属していたセクトの呼び名は「赤頭巾」。まるで赤軍派と東アジア反日武装戦線の狼グループを意識させるようなネーミング。


設定だけでなくこのセクトの女のキャラクター設定、なにか虚無的な疲労感を帯びてあらゆるものへの失望感に病みきったような気だるさ、そういった心理描写はまるで井上陽水「傘がない」中島みゆき「アザミ嬢のララバイ」である。よくは知らないけれど、なんか『二十歳の原点』だとかいう類の文献に垣間見える安保闘争敗北に殉じてしまった世代の当時の共有感覚みたいな感じである。この映画はアクションはそれなりに面白いしやカルトアニメ的なアイテムの創出も抜群のセンスを発揮している。ただ、押井アニメをカルト的に偏愛するファンのみならず、あのセクトや内ゲバやらの時代感覚を記憶する人たちが見てもなかなか痒みに手が届くような好感を得られるのではないか。


連合赤軍事件を映画化しようとすればいろいろな作り手のだらしなさが反映されて『光の雨』のようなスカしか作れない。実写の製作者たちが弱体化しているのに比べ、日本のアニメ・特撮分野には非常に緻密な世界感覚を軽々と地図を広げるように傑作に埋め込んで受け手を圧倒させるクリエーターが大量に参入している。わたしは『光の雨』の質的貧しさに対する失望を、アニメのこちらの方を見て溜飲を下げさせてもらった。


いっそのこと連合赤軍映画も押井氏がアニメによって手がけた方がよほどリアリティもクオリティも頭二つ分抜き出るような秀作が期待できるのかもしれない。