Those who love Traveler


優しい言葉なんて嘘くさくて信じられない。
満面の笑顔なんてたまに見るから感動できるもんだ。
皮肉げな笑みを浮かべて告げられる辛辣な言葉の方が俺は嬉しいね。
こんな自分の考えがちょっと普通じゃない自覚はある。
でも、まあ、好きな相手がおまえだから、俺のこんな考えも仕方ないんじゃねえの。
なあ、そうだろ? リボーン?







目の前に白煙が立ちこめたのは突然のことだった。
驚く暇もなく一瞬のうちに見慣れた景色がガラリと変化した。

「あら?」
自分の側にいたのは一人だったはずなのに、白煙が消えるとその場には良く知る顔が沢山あった。
「あらら?」
とぼけた声を出しつつ、山本は自分をジッと見てくる幾つもの顔を眺める。
そこには長年の付き合いの親友達とリボーンとランボがいた。

「や、山本、大丈夫?」
「おい。頭でも打ったのかよ?」
「平気ですか?」
「山本?」

自分に声をかけてくる顔を順々に眺めていく。
見知った、だが、とても懐かしい顔に驚愕がやがて喜びにかわっていく。

「まじかよ」
感極まった声を漏らし、そして次の瞬間には山本はリボーンに抱きついていた。
「うわっ。リボーン。ちっせえのな。懐かしい。つうか、めちゃくちゃ可愛いぜ」

帽子を奪い取ってわしゃわしゃとリボーンの黒髪をぐしゃぐしゃに撫で、リボーンの頬にキスをする山本を前に、
山本以外の人間が凍りついた。
珍しくリボーンでさえ絶句している状態だ。


それはある春の日の出来事だった。












「武器チューナのジャンニー二って、あのジャンニー二?」

過去の出来事を思い出したのか、露骨に不安そうな表情をして、
ボンゴレのボスであるツナは正面に座るランボに問いかける。
「たぶんそのジャンニー二ですよ。ぜひボンゴレ上層部の武器のチューナをさせて欲しいと言ってました」
勧められたティラミスを美味しそうに食べながらランボは告げた。
ボス・ボンゴレの執務室にはボスとその右腕、そしてボヴィーノのボスからの手紙を持ってきたランボがいる。
「父親のジャンニーイチになら喜んでチューナしてもらうけど、あの息子は遠慮するよ。
改造してもらって威力が減るのはまずいからね」
「そうですか」
笑顔であっさりと断られてシュンとするランボに「もしかしてジャンニー二と親しいの?」とツナは聞いていた。
「友人です。あいつ面白い改造はしてくれますから、パーティ用の面白グッツなんかはジャンニー二に頼んでますよ」
それは武器チューナとしてどうかとその場にいた誰もが思った事実だが、
一応その場にいるのはランボより精神的にも大人な人物ばかりだったので、あえて誰も口にはしなかった。
「でも父親に追いつくべくジャンニー二も努力はしてますよ。いつまでも子供の頃と一緒だったら問題です」
言いながら荷物からとある物を取り出す。
「うわ。10年バズーカじゃないか。懐かしい」
子供の頃にランボが多用した代物である。
「数年間ほったらかしにしてたのをジャンニー二にチューナしてもらいました」
にこにこと告げるランボとは対照的に周囲は不安顔になる。
「おい、それ大丈夫なのかよ?」
ジャンニー二の武器の悪改の一番の被害者になった獄寺があからさまに訝しげな顔をする。
「まだ試し撃ちはしていないですよ。なんか自分に撃つのが少し怖くて」
心なし落ち込んだような声。
まだ幼さの残る整った顔立ちの少年は物憂げに己の武器を見つめる。
「未来が怖い?」
やっぱりこの人はすごいなと、言葉に出さなくても自分の不安を言い当ててしまうボンゴレのボスにランボは感動した。
「俺はまだまだ未熟ですから」
子供の頃のように10年後バズーカを撃てなくなったのは、未来への不安があったからだ。
もし入れ替わるはずの10年後の自分が存在していなかったらと、そう思うとこの武器は自然と使えなくなった。

「ランボも大人になったね。嬉しいよ。自分の未熟さを認めるのは大事なことだよ。恥ずかしいことじゃない。
自分を知ってれば自分の力を過大評価しないだろ?」

美貌のボス・ボンゴレの惜しみない微笑みを向けられ、さらに癖のある黒髪を撫でられ、
思わずランボはうっすらと赤面した。
ツナの温かく優しい笑顔は誰もが見とれずにはいられないほど魅力的である。
なので例え兄同然に思っていて、邪まな気持ちなど小指の先ほどもないランボでも、
間近でツナの微笑みなど見てしまったら赤面ぐらいはする。
むしろ赤面しない人間がいたら会ってみたいと思うのがランボの正直な感想だった。

だからそんなに睨まないでくださいよ。獄寺さん。

鋭い眼差しで睨んでくる獄寺に、ランボは赤から青に顔色を変えて泣き出しそうな目で訴える。

「獄寺君。ランボを睨まないように」
ランボの無言の訴えは獄寺ではなくツナに届いたらしい。
傍らにいる側近にさらりと注意をする。
「すみません」
学生時代からかわらず獄寺はツナには絶対服従だ。
過去にいろいろあったらしいが、この二人が仲良くいる姿を見るのはランボも嬉しかった。

「おまえは10代目から特注の鞭頂いて、10代目自ら指南してもらっただろ。
練習を見たことあるが、あの絶望的なアホガキの頃から比べれば十分にモノになってるぜ」
褒められているのか貶されているのか微妙な言い回しの獄寺の発言である。
意味がわからなくてランボは沈黙した。

「一応褒めてやってんだぜ」
なぜか再び不機嫌そうな目で睨まれて、慌ててお礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
既に子供の頃からの条件反射なのか、獄寺を前にすると身構えて脅えてしまうランボだ。
「ああ。ランボもそんなに脅えなくていいから。今のは獄寺君の照れ隠しだからね。
獄寺訓もランボを睨んじゃダメだよ」

二人の間に入って説明をするボス・ボンゴレ。どんなに偉くなっても面倒見の良いところは昔からかわらない。
「こいつに対して言い慣れないことを言ってしまったのでつい。10代目に気を使わせてしまって申し訳ありません」
土下座しそうな勢いで頭を下げる獄寺だった。
「いいよ。気にしてないから。
ランボ。そういうこと。別に獄寺君は怒ってるわけじゃないから、そんな泣き出しそうな顔はしないでいいよ」
「はい」

あの、ボンゴレ10代目。
あなたがそうやって俺の頭を撫でるから、獄寺さんが不機嫌になるのですが……もしかしてわかっていてやってるんですか?

再び頭を撫でられて、再び鋭い獄寺の眼差しをヒシヒシと全身に受けて、
泣き出しそうな潤んだ瞳でランボはツナを見上げた。
ランボだけにわかるようにツナが悪戯っぽく微笑んだのを見て、確信犯であることを理解してしまった。

ボンゴレ10代目。俺で獄寺さんの嫉妬心を煽らないで下さい。俺はまだ命が惜しいです。


ランボの心の叫びは誰にも届かなかった。










「それでさ、その10年後バズーカ使ってみない?」
唐突に言い出したツナの発言。即座に獄寺が反論した。
「で、ですかジャンニーニのチューナです。なにが起こるかわかりません。
ボンゴレ内部でこいつになにかあるとボヴィーノのボスが黙っていないと思います」
「誰がランボに使うって言ったの? オレが使ってみたいんだよ」
「反対です!」
「すっごい即答だね」
「当然です。もしジャンニーニのチューナがうまくいっていたら、10代目が10年後へ行ってしまうってことになります。
俺がお側にいないのに、何があるかわからない世界に10代目をお一人で送り出すなんて、俺には絶対にできません」
「でも10年後のオレが見れるってことだよ。興味ない?」
「そ、それは……とても渋い10代目がいらっしゃるとは思いますが、10代目の身の安全が最優先になります。
俺は絶対に反対です。もしチューナが失敗していて、以前の俺のようになったら大問題になります」
「体が十歳若返るんだっけ。それも面白そう。ピチピチの十代のオレに獄寺君は興味ない?」
「きょ、興味ないと言えば大嘘になります」
真っ赤になりつつ潔く獄寺は認める。
男らしくて立派だな〜とランボは二人のやり取りを見守りつつ、ぬるくなった紅茶を飲む。
「ですが、俺の興味よりは10代目の安全の方が大切です」
「つまらない。10年後の世界をちょっと見てみたかったのに」
きっと獄寺君は渋くてカッコイイ大人の男性になってるんだろうなと、ワザと獄寺に聞こえるようにツナが呟く。
とたんに獄寺は今まで以上に赤面して絶句した。


ボンゴレ10代目はすごいですね。


アメと鞭。恋人である獄寺を見事に翻弄している。
自分もいつか正一とこんな風にいちゃいちゃしたいと、
今は日本にいる想い人を思い浮かべて、ランボは少しだけ遠い目をする。

「な、なら、俺が10年バズーカを使います。10代目が危険を冒すぐらいならっ」
獄寺がバズーカを抱えあげる。慌ててランボは席を立った。
「ちょっ、獄寺さん」

バズーカの弾は獄寺とは逆方向から発射された。
「それ逆です!」
「おせえよ!」
そして絶妙のタイミングで執務室内に入ってきた山本にバズーカの弾は命中した。









「そっか。あれは今日だったのか」
10年後バズーカが命中するまでのやりとりの説明を聞いた山本は納得したように、うんうんと何度かうなずいた。
「山本は見たところ変化ないみたいだけど」
現在の山本は27歳の山本の姿のままだ。
説明で既に5分以上の時間は過ぎている。

誰がどう見ても山本武その人なのだが、この場にいるみんなが知っている山本は、
少なくとも公衆の面前でリボーンを抱きしめたりキスをしたりはしない。

誰だこいつは?というのが、この場にいる者の一致した疑問だった。

「ああ。悪い。まだ言ってなかったっけ。俺は10年後の37歳の山本だ。
どうやら精神だけ10年後と入れ替わっちまったみたいだな」

再びその場が驚愕の嵐に襲われた。

「10年後の山本?」
「そうだぜ。ツナ。相変わらず美人なのな」
「10代目が美しいのは当然だろ」
「あはは。獄寺も変わらねえな。しかも若いから妙な感じだ」
ちなみに山本は両手でがっちりと背中からリボーンを抱きしめたままだ。
憮然としたリボーンの表情から察するに、自力では抜け出せないらしい。
恐るべし10年後の山本武である。
「とりあえずよろしくな。俺の記憶だと二日ぐらいはこっちで世話になる予定だからさ」

呑気な笑顔で山本武は朗らかに告げた。








「おお。なんか懐かしい感じがする」
自分の部屋に戻るなり山本は嬉しそうにベッドに腰掛け、そのままばったりとベッドに倒れ込んだ。
中身が三十代の山本だが、行動は現在の山本とそう変わりないと、苦々しい気分でリボーンは内心舌打ちした。

『じゃあ山本の上司のリボーンに山本のことはまかせるから』
正真正銘、ボンゴレトップで、リボーンよりもはるかに山本の上司である人物は、
今の山本に関する対処を笑顔でリボーンに一任した。
『だって、常に山本の一番近くにいるのはリボーンだろ?』
妙にわざとらしく言ったあとに『不慣れな過去で山本になにかあったら大問題じゃないか。
リボーンの近くにいるのが一番安全だ』とボスの表情で山本を守れと命令してきた。


「なあ、そんな難しい顔すんなよ。可愛くて見ていてニヤニヤしちまうだろ?」
寝台に転がったまま、山本は本人の宣言通りににやにやと笑っていた。
「十年経っても能天気な性格は変わってないらしいな」
「三つ子の魂百までってな。その不機嫌そうな顔も相変わらず綺麗で嬉しいぜ?」
「さっきといい、十年後の山本はずいぶんとナンパな男になったらしいな」
現在の山本はここまでリボーンに対する自分の感情をストレートに言葉に出すタイプではない。

ふと山本が勢いをつけて寝台から起き上がった。
愉快そうに笑ってジッとリボーンを見つめた。
体は現代のまま。いつも通りの山本の漆黒の瞳と目が合う。

…………

だが、山本の眼差しに不思議なぐらいに気圧されている自分に居心地の悪い気分になった。
「リボーンにだけだぜ」
「ナンパ男の常套句だな」
すげなくリボーンは言い捨てる。

「相変わらず冷たいな。武切なくて泣きそう」
わざわざ目元の涙を拭う小芝居つきである。
露骨かつ盛大にリボーンはため息をついた。
「成長してないにもほどがあるぞ」
「リボーンに関しては死ぬまでかわらねえ自信はある」
自信満々に言い切る笑顔をなぜか殴りつけたい衝動に襲われた。

「……言動には気をつけろ。未来を語るのはご法度だろうが」
「ああ。そういやそうだったな」
思い出したように鷹揚に頷く。
「でも今の俺を見ればわかるだろ? 俺は十年かそこらで心変わりするような可愛い性格じゃないぜ?」

笑顔で飄々としていながらその実食えない態度は、変わらないどころかむしろ磨きがかかったように思える。

なぜだかリボーン本人には理解できないが、今目の前にいる山本は不快で苛立たしかった。
山本であって山本ではない存在。
間違いなく山本本人であるのに、その存在と態度が苛立たしくて視界から消し去りたくなる。

不意にリボーンが見舞った拳を軽々と山本は受け止めた。
「お? やっぱり二十代の体は軽くていい具合に動くな。三十代になると結構あちこちガタがくるんだぜ」と
リボーンの拳を止めた右腕を見たあと、嬉しそうに軽く柔軟などはじめる。

「それでなに苛立ってんだよ?」
「いまの山本は不愉快だ」
「そりゃまあそうだろうな。未来のことを知っていて、なにもかも見透かされているようで気分が悪いんだろ」

存在を拒絶されながらあっさりと山本は頷く。
現在のリボーンが知っている山本だったならば、リボーンに拒絶された時点でわかりやすいぐらいに落ち込んだはずだ。

「心配すんなよ。今だって未来だって俺は変わってねえよ。リボーンが思ってる通りのバカでひよっこな山本武だ」
にかりと二十代の体で少年のように笑う。
「十年後ぐらいはひよっこから卒業しろ」

「一応卒業証書というか、免許皆伝というか、そんなのはリボーンからもらってんだけど」
ぽりぽりと頬を掻きながら山本は呟く。
「免許皆伝?」
不穏な響きに「あらら、もしかして俺ってば墓穴ザクザク掘っちまった?」と山本は数歩後ずさった。
「面白そうじゃあねーか。その腕前見せてもらおうか」
有無を言わせずに山本に銃口を向ける。
「いや、ほら、過去の人間と、戦うってのは、まずいだろ」
続き様の銃声。そしてキンッと響く鉄を削るような高音が響く。
「喋りながら器用なヤツだ」
至近距離のリボーンの早撃ちを悉く山本は愛用の日本刀によって弾く。
「未来の情報の流出はご法度なんだろ?」

未来の人間が持つ強さも情報のひとつになる。

「俺が他言しなければ問題ない」
「まあそうだけど。いまの本気だったろ。さすがに速すぎて撃ち殺されるかと思ったぜ」
「俺が免許皆伝をやるぐらいだ。あれぐらいは日本刀で弾いて当然だ」
しかも喋る余裕すらあるのだから、少しだけプライドを刺激されてムッとする。


もっと殺す気で撃ってやればよかったか。


ふと数人の足音が近づいてきた。
ノックもせずにドアを蹴り破って室内に入ってくる。
「おい、山本なにごとだ!」
乱入者は獄寺とその部下数人だ。
「よお。お仕事ごくろーさん」
敵による銃撃戦、もしくは未来からの山本がリボーンを怒らせて抹殺されそうになったと予想をつけていた
獄寺の表情は強張っていたが、山本の気の抜ける返事を聞いて、がっくりと肩を落とした。

「何事ですか。リボーンさん?」
いまだ銃を持ったままのリボーンに、日本刀を抜いたままの山本。
室内には硝煙の匂いが充満している。
壁にはいくつかの銃弾の穴が開いていた。
殺気立った空気こそないものの、明らかに普通の状況ではない。
「山本を鍛えてやってるだけだ。気にするな」
獄寺を一瞥して短く言い放す。
それ以上の追求を許さない冷たい一瞥の眼差しに、苦々しく獄寺は内心舌打ちする。

「内部でのもめごとは勘弁してくださいよ」
10代目が心配しますからと、慇懃無礼に言外に告げて獄寺は部屋を出て行った。


「んで、この破壊されたドアは一体誰が直してくれんだろうな?」
「山本に決まってる」
「あ、やっぱしそうなるわけだ」
そして楽しそうに山本は蹴破られたドアの修理をはじめたのだった。





十年前の世界を懐かしむ三十代の山本はボンゴレ本部内をちょろちょろと歩き回る。

本音、『ガキじゃねえんだから好きにさせておけ』と言って、放っておきたかったが、
ボス直々に監視を命じられたのだから、放っておくわけにもいかない。
監視役というよりは図体の大きな子供のお守りをしている気分だった。
ボスが山本の外出を禁止したために、山本が自由に動き回れるのはボンゴレ本部内だけなのが幸いだった。

「十年かそこらで本部内も変わっちゃいねえだろ」
「そうだな。でも俺にはあちこちに思い出の地ってのがあってさ。それを見て回るのも楽しいんだ」

どんな思い出があるのか、山本は始終にやけた顔のままである。

ボンゴレ内部のカフェに通路。幹部の人間が集まる会議室。地下射撃場。

「懐かしい」
しみじみと感慨深い声。その横顔はどこか遠くを見ているように見えた。

「過去を懐かしむのは年寄りのすることだぞ」
「ひでぇな」

ふと山本がリボーンを見る時の視線の位置が妙なことに気がついた。

「山本」
「ん?」
「俺はおまえと同じぐらいに身長が伸びるのか?」
「なんでそんなこと聞くんだ? 未来を語るのはまずいはずだろ?」
「俺が他言しなけりゃ問題ねーぞ。
俺を見る時におまえの目線が一瞬俺の上を見てる。いつもはそのあたりに俺の顔があるってことだろ?」
「あらら。無意識の癖ってのはまずいな」
まいったなと苦笑いしながら頭を掻く。
それはつまり肯定の意味だった。
「なんか急に機嫌が良くなったように見えるけど、もしかしてちっこいの気にしてたのか?」

現在絶賛成長期中ではあるが、まだ十代前半である。
幹部の中ではリボーンが一番背が低い。
実力は誰にも負けないヒットマンではあるが、いつまでも周囲に見下ろされる立場にいるのは気にいらない。

外見が子供なだけで格下の連中に侮られる事実は不愉快極まりない。
背が伸びるのならば、はやく大きくなりたいのが本音である。

「急いで体まで大人にすんなよ」
ふといつにない真剣な声音にそちらを見る。
「おまえそれでさえ赤ん坊の頃から中身は大人だったんだから、体ぐらいゆっくり大人になれよ。
リボーンの身長が伸びるのは俺が保証してやるぜ」
「山本がちゃんとした年上の大人に見えるぞ」
思わず唇から漏れた本音だった。

「まぁ、今の山本武よりは歳食ってるからさ。多少は大人ぶったことも言える」
ポンポンと帽子の上からリボーンの頭を撫でる。

「……………」

他人に頭を触れられるのは好きではない。
今までの人生でそれを許してきたのは山本だけだろう。
大きなゴツゴツとした手で頭を撫でられるのは心地よくて、そして妙に安心できる気持ちになる。


こいつだけは俺を徹底的に赤ん坊扱いしたからな。


マフィアの人間だと知り、ヒットマンだと知り、さらには山本自身に人を殺める道を導いた張本人であると知ってなお、
山本は変わらずにリボーンを子供扱いした。
まだダメツナだったボス・ボンゴレが当然のようにリボーンに頼り、そして獄寺がリボーンに対して敬意を示すなかで、
マイペースに変わらずにリボーンを子供扱いし続けた。
それはつい数ヶ月前までかわらなかったぐらいだ。

アルコバレーノは普通の赤ん坊ではない。それは周知。
だから周囲がアルコバレーノを子供扱いすることなど皆無だ。むしろ人間扱いすらしていない傾向すらある。
子供であって子供ではなく、人の姿をした異形。

呪われた赤ん坊を恐れ得体の知れない化け物のように遠巻きにしながら、
心の中では体の小さなまだ子供だからと侮っている者がマフィア世界には多くいる。
恐れているくせに虚勢を張るように侮ろうとする。
めざわりなくだらない格下の輩ばかりが周囲にいた。

外見で子供扱いされたことはあっても、それはリボーンの本性を知ればすぐに相手の態度が変わる。
いっそまったく態度が変わらなかった山本を不思議に思えるぐらいだった。

山本の側では子供でいることが許された。


その時間を気に入っていたのは誤魔化しようのない事実だ。否定する気もない。

らしくない考えに思いを巡らせていたことに気がついて、リボーンは苦く笑う。
最強のヒットマンがいつまでも子供でいては話にならない。
なのに『ゆっくり大人になれ』と言う山本の言葉が嬉しく感じている自分が滑稽でならなかった。

「山本は何年経っても山本だってことか」

この男は十年の時を経ても憎らしいぐらいに本質が変わっていない。
それはリボーンには思った以上に喜ばしいことだった。



帽子を片手で押さえ付けるように深く被る。
甘い笑みを浮かべた口元に、隣りを歩く山本は気づかなかったようだ。













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続きます


ひたま