年間チャート回顧・1987年(アルバム編)

▼1987年 年間アルバムチャート▼(売上=万枚)
1 68.8 ノン・ストッパー 荻野目洋子
2 68.5 アラーム・ア・ラ・モード 松任谷由実
3 60.1 Crimson 中森明菜
4 58.5 トップガン オリジナルサウンドトラック
5 54.5 BAD マイケル・ジャクソン
6 49.6 PSYCHOPATH BOOWY
7 46.5 安全地帯V 安全地帯
8 45.8 realtime to paradise 杉山清貴
9 44.9 BREATH 渡辺美里
10 42.9 Strawberry Time 松田聖子
11 40.6 REMIX REBECCA レベッカ
12 38.8 LOVE ハウンドドッグ
13 38.4 ホイットニーII ホイットニー・ヒューストン
14 36.1 ROCK CONCERT KUWATA BAND
15 35.8 LICENSE 長渕剛
16 35.5 Mind Note 稲垣潤一
17 34.6 REQUEST 竹内まりや
18 33.2 I'm Here 小比類巻かほる
19 32.2 Cross my palm 中森明菜
20 32.0 Crystal Night 1986 OMEGA TRIBE
TSU-KA(以下 T):ということでアルバム編です。
まこりん(以下 ま):こちらも全体的に前年よりもセールスが落ちているんだけれども、シングルほどではない感じで。
T:まあ、ゆるやかに落ちたという感じで、そんなにギャーッというほどではないですね。
ま:アルバムのCD移行ってのは、シングルほど劇的ではなかったことがここから見てとれるよね。
T:そうですね。シングルのほうが混乱してたんだな、アルバムのほうがスムーズにいったのかなと。 この年のチャートはちゃんとCD・LP・カセットを合わせた数字でしたっけ?
ま:総合チャートは87年10月からスタートなので、ここに載せているのは、それぞれのものを合算して出してみたものだね。 この年の売上集計は、まだ混沌としている。
T:あ、そうか。オリコンさんはまだ追いついてなかった、という状況ですね。

J-POP時代到来の予兆としての、荻野目洋子「ノンストッパー」

T:ということで栄光の第1位は荻野目洋子「ノンストッパー」です。ダンシングヒーローです。今夜だけでもシンデレラボーイです。
ま:アイドルが年間アルバム1位という快挙。
T:快挙だよね。
ま:実にね、77年のピンクレディー以来なんだよね。
T:すごいすごい。
ま:ほかを探しても、72年の天地真理、88年の光GENJIしかない。 現在に到るまで、明菜も聖子も安室もアルバム年間1位は獲っていないのに、そこで荻野目ですよ。
T:グレートですね。
ま:このアルバムは色々とエポックが多くて、語ることが多いと、まこは思うよ。
T:でもその、なんでそんなに売れたんだってのが、正直なところ。 パッと見は、「ダンシングヒーロー」と「六本木純情派」をフィーチャーして出しましたという、 売れたシングルに何曲か足して出したよ、っていう感じがしますけど。
ま:うん。まさしくそんな感じ。はっきり言ってさ、このアルバム、こう言っちゃなんだけれども、 クリエイティビティーは、あんま、高くないアルバムだと思うんだよね。
T:まあ、そう思うよな。
ま:シングル4枚入っていて、うち2曲が大ヒット曲。さらに長山洋子がヒットさせたユーロカバー「VENUS」と…
T:石井明美のこれもユーロカバー「CHA-CHA-CHA」が入ってますね。
ま:で、あとアルバム用に4曲突っ込んで、という。
T:結構、安易ですわな。さくっと作りました、という感じだよね。
ま:うん。でも、はっきり言って今のヒット歌手のアルバムって、みんなこんな感じじゃない?
T:そうね、おんなじだね。アルバムトータルでどう、とか関係なくて、 シングルとキャッチーな曲が何曲も入っていればいいという。90年代の売れたアルバムって、だいたいこうですよ。
ま:小室時代以降のヒットアルバムの構成そのものでしょ。
T:あのころ何百万売れたアルバムって、こんな作りですよね、ほとんど。
ま:ベスト盤でもあり、オリジナルアルバムでもありという、小室哲哉が作り出した路線と思っていた このハーフベスト形式オリジナルアルバム―
T:だから、globeの1stが分かりやすかったんだよね。あれはシングル5曲も入ってたし。
ま:これが実は、荻野目が端緒だったんでは、と。 しかも、このアルバムタイトルになった「ノンストップダンサー」が小室哲哉作曲だという。
T:そうだねー。しかもそれが年間1位を獲ったと。
ま:因果だなぁ、と。
T:本格的にこういう構成のアルバムがうじゃうじゃ増えるのって、95年ぐらいからかなという感じがあるけども、 確かにこのアルバムはそういう構成になっているな。
ま:この1位は、この形式がどれだけセールス面においては強いか、というその証左でもあると思う。 荻野目洋子の最高売上シングルのダンシングヒーローって34〜5万枚だし、アルバムに目を転じても、 このアルバムの次の売上記録がベストの「POP GROOVER」で、これも33万枚くらい。 このアルバムはその倍、稼いでるんだよね。
T:まあ、「ダンシングヒーロー」と「六本木純情派」聴きたかったら、シングル2枚買うより、これを 買えばおまけに「CHA-CHA-CHA」とか「ヴィーナス」も入ってるし…というようなバリュー感がありますよね。
ま:まさしくライトユーザー直撃っていう。
T:でまあ、この形式を突き詰めていくとベスト盤だしね。90年代後半はベスト盤か半ベストアルバムがばんばん売れるようになる。
ま:だからその始まりにあるアルバムですよ、これは。
T:なるほどそうですね。
ま:これまた荻野目のユーロ歌謡が、ウォークマンとかカーステとかでスルーっと聴くのに合っているんだわ。
T:レコードプレーヤーで聴くより、カーステのほうがいいわなこれは。
ま:ほどほどに上手くて、嫌味じゃないボーカル、派手だけれども主張のないサウンドがBGMに最適。
T:CDのお手軽感にもマッチしているね。引きのいい曲何曲かぶちこんどけ、という作りでも、別に困らなかったりするしね。
ま:ユーザーで適当にエデット可能だからね。
T:CDだと引っかからない曲は簡単に飛ばせるしね。CD的なアルバムだなあとは思いますよね、これは。
ま:CDは、アルバムにそんな始まりから終わりまでの一貫した世界観、とか必要ないわけで。 そんなCD時代の到来を象徴する一枚でもある。
T:それが年間1位っていうのもまあ、時代っていうのは後から見ると良く出来ているね(笑)。
ま:そこで荻野目、ってあたりもまた絶妙で。
T:絶妙か。
ま:ぶっちゃけ、アイドル的な人気を博した歌手ではないっしょ、彼女。
T:そうだよね。荻野目さんが世間を席巻したっていうよりは、「ダンシングヒーロー」が席巻したという感じですね。
ま:このアルバムが売れたのって、MAXのアルバムがミリオンいったようなのと、おんなじ文脈だよなぁ、と私は思う。
T:そうね。MAXの内実とか曲に関係ないもんな。音としてだけあればいい、という。
ま:歌手としての匿名性が高いんだよね。
T:このアルバムも別に荻野目さんの物語がどう、とか全然関係ないもんな。聖子とか明菜のアルバムの作りとは、全然違うわけで。
ま:うん。この時期ってさ、ユーロカバーブームが流行ったでしょ。
T:流行ったねぇ。
ま:大抵売れない中堅アイドルか、新人がその役割を担っていて、長山洋子、石井明美、森川由加里、BaBe、WINK…。 T:あとちょっと後の森高?
ま:「17歳」、ユーロアレンジの邦楽カバーだったね。 それらの特徴ってやっぱ「匿名性」だったと思うんだよね。 元々知名度のあるアイドルで売れたのって、早見優の「ハートは戻らない」くらいだし…。
T:そうね。まあユーロビートっていうもの自体がねぇ、Stock,Aitken&Watermanに代表されるように・・・
ま:作家性とか身体性とか、そーゆーのと一番遠いところにあるファクトリーミュージックで。
T:ぶっちゃけどれ聴いても大して変わらなかったりするような。
ま:匿名性の高いものなんだよね。
T:だからここでユーロブームがきてさ、その後ビーイング、小室っていうファクトリー的なプロデュースが時代を席巻して。 音楽から物語性とか、まあそれこそ歌謡的なものっていうのが消えていくじゃない。
ま:そうだね。
T:それはこの辺からの流れとして、自然だったのかなあと思いますよね。
ま:繋がっているよね。この年から小室時代までは確実に繋がっている。
T:だからそういう意味でも、このアルバムが年間1位としてどん、と置かれているのは、なかなか味わい深いかもしれない(笑)。
ま:そもそもユーロカバーの火付け役が荻野目の「ダンシングヒーロー」だしね。
T:実は重要人物だな荻野目。
ま:だから、当然ここで時代の象徴として彼女が1位だ、と。しかも予言のように小室哲哉まで参加しているぞ、という。
T:すごいね(笑)。まあでもそういう意味では歌謡曲からJ-POPへ、っていうこの一見曖昧なシフトチェンジの鍵が 見えてくるような気がするかな。
ま:「分水嶺としての荻野目洋子」と。まぁ、でも個人的には次作の「246コネクション」のほうが私は好きです。 ほぼ全作筒美京平で、コンセプトがしっかりして一貫しているし。
T:私は「流行歌手」結構好きです。
ま:あれは「J-POPの荻野目」だよね。
T:そうだね。完全J-POPでアゲアゲだ。
ま:あれも「ノンストッパー」と同じ、詰め込みまくりのアルバムだ。 シングルどっさりだし、タイアップどっさりで。ラストの「Moonlight Blue」が好き。ノイジーなギターがツボ。
T:1曲目がまたこれ「THIS IS POP」とか、これがJ-POPだ、という。
ま:「流行歌手」はほんとに安室前夜って感じのアルバムだな。
T:そんな感じね。
ま:このアルバムはスーパーモンキーズが歌ってても違和感ないっしょ。
T:そうかも(笑)。だから安室の1枚目のユーロのアルバムとMAXのアルバムって、 この荻野目さんの2枚と作り方としては同じなのかなとか思ったり。
ま:そうだよね。コンセプトはおんなじ。時代によって、装うものは違うけれどもね。
T:まあ、そう思いながら聴くと、なかなか味わいが増します。
ま:荻野目はまさしくライジングの源泉だなぁ、っていう、感慨はあるよね。
T:そんなこの2枚、ブックオフで100円です、ってまたそればっかり。
ま:はははは。
T:聴いてください(笑)。
ま:安室ファンは、源泉としてこの二枚は聴こう、と。

更なる飛躍の前に一休み 〜松任谷由実「ALARM a la mode」〜

ま:次はユーミン「ALARM a la mode」です。
T:毎回語っています!もういいんじゃないかなユーミンは(笑)。
ま:なんか別名「ユーミン回顧」と言ってもいいんじゃないか、というこの対談。
T:ユーミンの項を繋げると、そのままユーミン史対談にできるね。
ま:できるできる。
T:まあ、毎回インしているのでしょうがない。
ま:とはいえ、「ALARM a la mode」はいまいち、印象薄いんだわ、俺的には。
T:私も「DA・DI・DA」と「ダイアモンドダスト〜」の間で地味な一枚だな、と。でも中身はそんな地味でもないんだよな。
ま:ただまぁ「DA・DI・DA」の続編みたいなって感じで、このアルバムならでは、っていうそういう部分ってあるかなぁ、と。
T:そうですね、安牌な感じが。あと音があんまり好きじゃないんですよね、これ。こう言っちゃなんだが、打ち込みが安い気がする。
ま:なんかシンセの音がぺらっとしているよね。
T:ユーミンのボーカルのエコーもなんだか変で。すごい遠くで歌ってる感じがする。
ま:なんだかひどい言われようだな。
T:や、まあ1枚ぐらいこういうのがあってもいいじゃないか(笑)。いつも誉めまくりなんだし。
ま:「ホライズンを追いかけて」とか好きですよ、私は。
T:それとか「さよならハリケーン」は、わかりやすくて良いですね。かっこいい。 「Autumn Park」も良いバラードだし、 「ジェラシーと云う名の悪夢」のヴィジュアライズな感じも良いのですが。
ま:って、結局誉めてる。でも、まぁ次の「ダイアモンドダスト〜」でまた次の段階へと行く、 飛躍の前の束の間の停滞、というそんなアルバムかな、と。
T:たまにはサラッと終わりましょう。
ま:いわゆるバブル期の女性の―
T:女子大生とかOLという感じのね。
ま:その心象風景、というアルバムで、「DA・DI・DA」よりは落ちるけれどもまあ、 時代の鏡として当時の雰囲気は味わえますよ、と。
T:「DA・DI・DA」の「メトロポリスの片隅で」の路線をもうちょっとやってみました、というそんな感じだね。
ま:うん。ちょっとサスペンスタッチで不穏な感じで今度は展開してみました、っていう。
T:だからタイトルも「警告」です、と。

挑戦しつづける歌姫 〜中森明菜「CRIMSON」〜

T:次は明菜様だー。3位に「CRIMSON」、19位に「Cross My Palm」がインしておりますね。
ま:まぁ、この時期の明菜サマはシングルもアルバムもほぼ全部インしているんだけれども。 「CRIMSON」は作家が竹内まりやと小林明子半々で。
T:曲も構成も、非常に良いポップアルバム、という感じで。良いですよね。
ま:まぁ、もうちょっと声出してもよかったかなと思うけれども。
T:そう、声ちっさいよね。
ま:それがねーーー、上手くいっている曲も多いんだけれども、単純にきこえなーーーいっていう、そういうのもありまして。
T:曲はいいんだけどね。それをほんとに全編囁くように、呟くように歌っており・・・。
ま:耳元で歌っています、みたいな。
T:でも逆に全編こうだってことは意識的にこうしたってことでしょ。
ま:そうだろうね。
T:「不思議」「クリムゾン」「Closs my palm」の3枚を聴くと、非常に意識的に試行錯誤しているなという印象を受けます。
ま:あ、「不思議」聴いたの?
T:聴いたよ。
ま:それなら話が早い。あのアルバム、壮絶でしょ。
T:「不思議」はすごく世界観を作りこんでいたよね。
ま:V系にも通じる感じ。
T:ああ、ゴスっぽいよね(笑)、「不思議」。
ま:血とか闇とか狂気とか、ゴテゴテの闇の美意識っていう感じだった初のセルフプロデュース作「不思議」から一転して―
T:はははは。背後に死が漂わなくていいから、と。
ま:反逆の果実が紅く爛れたりとか、そういう世界はいいから、と。 今度はわかりやすいアルバムを作ろうと、で、できたのが「クリムゾン」なのね。
T:でもこれも「不思議」と同じで、声ちっさかった。
ま:これってぶっちゃけ、さっきのユーミンとおんなじ、バブル期の20代女性の、 都会での私生活とその心象風景、ってテーマのアルバムだよね。
T:アンニュイな感じするしな。冒頭でこれ、どっかの喫茶店みたいなとこでタイプライターかなんか打っている?
ま:なんか、そんな感じ。都会の喧騒をバックにお仕事している女性、っていう。
T:で、最後にまたふうっとため息ついてどこかへ去るという、そんな構成で。 今回はわかりやすいコンセプトだけれども、これはこれでまたコンセプチュアルな作りになっていますね。
ま:そうね。一冊の短編小説集みたいな感じ。
T:でもなんでこんな声ちっさくしたの。
ま:明菜サマはね、どうもサウンドとボーカルの関係がただの歌とその伴奏っていう、 そういう旧態然としたスタイルが気に食わなかったようで、ボーカルをサウンドに溶け込ませよう、 と努力していたように思える。
T:なるほど。だから次の英語詞のアルバム「Closs My Palm」でも、 めっさ発音いいわけじゃないんだけど、ボーカルの取りかたをすごく意識的にやっているなという、そういう感じなんだよね。
ま:そうそう、色んな声出しているし。結構ね、挑戦しているんだよね、明菜サマ。
T:だからボーカルというものに対して、主体的に試行錯誤しているな、というのが 「不思議」〜「Closs my palm」あたりを聴くとすごく感じましたですね。 これは「歌手」だわ、と感心させられるというか。
ま:実際、そのあと安定するしね。ここでの試行錯誤の末、「Stock」とか「Femme Fatale」が生まれる。
T:だからこれは最高傑作じゃないかもしれないけど、良いアルバムだなあと。
ま:意識の高いアルバムだよね。
T:シングルのアゲアゲさはないけど、良いアルバムですよ。
ま:「わかりやすい」と本人が言えども、シングル入っていないし。
T:「売れ線」ってほどわかりやすい明菜像じゃないよね。
ま:こういう良質ポップスって、案外明菜の色じゃないんだよね。 明菜のパブリックイメージって、エキゾだったり、歌謡ロックだったりだからね。
T:そうだよね。実際以前のどっかの路線を引っ張ってきたアルバムじゃない気がするし、 結構やってるんだなあ明菜様は と思いました。
ま:そんなクリエイターとして前進しつづける明菜サマ、と。
T:歌い手としての明菜のトライを感じろ、ということで。

オムニバス・サントラ 〜「トップガン」〜

T:えーと次「トップガン」ってこれ語ります? 俺、実はこれ映画も見てないんですけれども。
ま:こういう洋画のサウンドトラック、なんか時々バカ売れするものが出てくるんだよね。意味がよくわからん。
T:映画見たらパンフレット買うじゃん。それに似たようなもんでは。
ま:ノリで買う、と。
T:だって売れたものも「ボディーガード」とか「タイタニック」とかでしょ。 馬鹿売れしてない映画のサントラがいきなり躍り出ることはないわけで。
ま:ただこの時期から、多分「フラッシュダンス」の大成功がきっかけだと思うけれども、 洋画サントラが洋楽オムニバスアルバムみたいになって―
T:あ、まあそれはあるよね。
ま:サントラが、あらかじめヒット狙いで、売れ線を詰め込むようになった。
T:なんかそのへんでよく聴こえてくる洋楽がお手軽に聴けるぞという。
ま:お手軽洋楽オムニバスとしての役割、っていう?
T:だからまあ「MAX」とか「NOW」の亜種みたいな役割もあるのか。
ま:しかも存在自体がタイアップつきなわけで、かなりおいしいかと。 まぁ、レコード会社の商魂はたくましいですな、という。
T:ははは。そういう着地ですか。
ま:そんな洋画サウンドトラックのこの年の大ヒット「トップガン」でした、と。おしまい。

彼が幸福であった時代 〜マイケル・ジャクソン「Bad」〜

T:次も洋楽ですが、マイケル・ジャクソン「Bad」です。
ま:マイコーーーっ。
T:ファーーーーーーオ!
ま:きちゃったね、マイコー。ついにこの対談で登場だ。
T:はははは。「ついに」ってそんな、待望していたような(笑)。
ま:TSU-KAさんのマイコーに対する熱い思いを吐露していただこうか。さぁ、語れっっ。
T:えええっ、そんな、マイコーなんか俺が語らなくても、その素敵さは世界が承知しているじゃないかっ。
ま:確かに。
T:まあ、でもあれだよね、マイコーが平和に世界のスターとしてリリースしたアルバムって、このへんまでだよね。
ま:そうだよね、って「THRILLER」と「Bad」の二枚だけじゃん。
T:だってー、この後どんどん白くなっていくし、「Dangerous」になると、顔違ってくるしー。
ま:あーー、この頃は黒いんだよね、まだ。褐色?っていう。
T:まだ黒いよ(笑)。あれ、ちょっと靴墨落ちたか、ってぐらい。
ま:でもまぁ、ほんと90年代になるとお騒がせキャラとしてのほうが目立っちゃったからねー。
T:怪人になっちゃったからね。
ま:「BAD」までは、笑いなしでマジでマイコーを信奉していた人ばかりだったよ…。
T:そうね(笑)。「BAD」もこれはもう世界のスタアという感じのアルバムで、 マイコー、ザ・80sのベコベコ打ち込み、ダンス、奇声、ラブアンドピースと、全てが詰まっている。
ま:ははは。
T:マイコーが全てだ、そんな一枚で。まあ、打ち込みすぎて黒いマイコーファンからはときに評判悪かったりするけどもね。
ま:あ、そうなん。でもうちらの世代のマイコー像って、このあたりだよね。
T:うんうん。私達からするとマイコーって「BAD」ですよ。 なんかギャングスター達を引き連れて、ふーずばー、っていうマイコーですよ。
ま:みんな「Smooth Criminal」と「Bad」 はPVも知っているよね。
T:「Smooth Criminal」のPVもなかなかふざけているね。
ま:あれが一番好きです。マイコーのプロモで一番笑える。
T:冒頭からして、遠くからマイコーが弾いたコインがジュークボックスに見事入るからな。 そりゃないだろ!でもマイコーだからアリなんだよ、という、そんなPVで。
ま:「THRILLER」はさ、結構上昇志向の強い、ギラギラした感じなんだけれども。
T:そうね。
ま:「Bad」は、もう王者の貫禄というか。
T:俺の世界を味わえ、ンダッ、という。
ま:なにをやっても許される存在が、本当に行き着くところまでやってしまいました、と。マイコーワールドへようこそ、という。
T:「THRILLER」のビデオまでは、だってまだわかるもんね、全然。変なことしてないし。
ま:うん。一般性ありまくり。
T:発想は斬新ではあるけども、中身は変じゃないし。それが「Smooth Criminal」になるとね、やりたい放題ですからね。 えええっ、それなんだよ、有り得ないよ、っていうのが随所に。
ま:光がびゃーーって飛んだりとか、風がぐわーーってなったりとか。
T:はははは。銃でギャングを撃ったら壁にめりこむ、とか、なにかコント然とした・・・。
ま:あと暗転して、人がわらわらわらとなったりとか。
T:そうそうそう、あそこもよくわからん(笑)。 で、マイケルがシャウトするとなにか宗教のようにみんな歌い出すという。ポカーンですよ。
ま:だから、PVがもうマイコーのドリームそのもの、という。
T:はははは。突き抜けてしまったね。
ま:でも妄想をそのまま忠実に現実化できるってのは、選ばれた人だけっすよ。 「なにそれ、意味わかんないよ」って言われたらそれまでのことを、ここまでハイクオリティーに表現できるってのは。 その突き抜けっぷりは、凄い。
T:変なことやってもスルーできないからなあマイコーは。まあ、でもなんかこれを境に違う存在へと疾走していった気がします。
ま:そうね。やっぱり、「マイコー、あんたのやっていること面白いけれども、自己満足じゃね?」って言って くれる人がいなかったのがいけなかったんだよ。
T:ははははははは。
ま:みんなマイコーの信者になるからっ。まったくっっ。
T:だって夢中だもの、ここまでは。マイコーのドリームに観客も夢中だもの。
ま:確か「BAD」のワールドツアー、日本にも来たんだよね。後楽園球場で。
T:きたきた。もう大変な一大イベントだったような。
ま:うん。大盛り上がりだった記憶がうっすらと。
T:テレビ見ても、芸能人とかが「見に行きましたよー!」とかなんとか、みんなマイコーの虜だった気がします。
ま:そうそう。てか後楽園だと、リハーサルとか本番とか全部音がダタ洩れやん。 だから熱狂的なファンが、チケット取れた人も取れなかった人も朝から詰めかけて、マイコーーー(はぁと っていう。
T:一大行事だね。
ま:バブルス君が先に帰国したのさえ、新聞記事になったしな。
T:そうだ、バブルス君もセレブだったね。まあ、だからマイコーのいちばん幸せな時代だったかもしれないですね。 しかし、あれだけ巨大な存在になっちゃうとねぇ、もう外から想像できないし、何も語れませんよ。
ま:ってもう十分語ってるやん。
T:ははは。いやまあ、その後のマイコーのことを、どうこう言う気にはならないというか。わかんないし、もう。
ま:まぁ、私は面白キャラとしてのマイコーも好きだから。痙攣しながら子供をあやすマイコーとか。
T:骨董品屋で「ディス・・・ディス・・・」っていうマイコーとかね。
ま:それもまたいとおかし、と。
T:まあ、これはそんな社会現象としてのマイコーが詰まったアルバムです。アイラブマイコー。

BOφWYはGLAYにならない 〜「PSYCHOPATH」〜

T:次はBOφWYですね。
ま:♪鏡の中のマリオネッッ
T:夢見てるやつらに送るぜ!
ま:というわけで、「PSYCHOPATH」です。ラストアルバムですな。
T:最後のオリジナルアルバム、ってか、大ブレイクと言えるのが前の「BEAT EMOTION」で、その次のこれでもう解散だ、と。
ま:そうですね。
T:まあ、リアルタイムだったら結構「ええええっ」てなるかも。
ま:そもそもなんで解散したん? 理由は何?
T:それは今にしてもよくわからん。語られてないし。まあ、BOφWYとしてやることはやり尽くしたとか、 超売れてしまって、それを意識した曲になっていくのはやだとか、そんな感じはあったみたいですが。
ま:うーーん。なんかそれは表面上の理由っぽいなあ、そんな理由でブレイク直後に解散するんか?
T:えー、ヒムロックは惰性で続けたくないっ、ときっぱりやめたんだよぉ。これがロックだ、ってやめたんだよー。と、 言えと言われました。
ま:ははははは。
T:や、でもやり尽くしたってのはそうじゃないのかな。別に「BEAT EMOTION」でやったのとかけ離れたことをやるような バンドでもないし、求められてもいない気がするし。BOφWYっつったらもう、「BEAT EMOTION」のあのビートポップロックだし。
ま:うん、でもサザンみたいに「存在だけで成立するバンド」っていう、そういうところになっても良かったのでは、と。
T:あー、だからそんなのロックじゃないから、ヒムロック的には。
ま:でも今のヒムロックや布袋を見てると、まさしく存在の人になっているような…。いつもおんなじことやっているような…。
T:ふははは。
ま:だからこそ、解散する意味あったん、という。
T:えーーそしたらそれこそGLAYみたいになってるぞ。
ま:いいじゃん、GLAYで。
T:俺はやだなあ。
ま:いやですかい。
T:まあでも、布袋って結構プロデューサーやってみたりさ、役者やってみたりとか、 アルバムもデジロックやってみたりとか、いろいろやりたい人だとは思うのよ。
ま:あぁ、そう言われてみればそうだな。いろいろ手を出していることを忘れていた、というか 布袋の存在感の前に、布袋のチャレンジが霞んでいた。
T:なんで霞むのさ(笑)。ビール飲んでるじゃないか、今だって。
ま:やっているね、CMで。わき腹見せてね。
T:だから結構幕の内弁当的な資質はある人だというか。シャレもわかりそうだし。 一方氷室さんは美学の人というか、ストイックな人じゃん。
ま:いつも本気の顔しているよね。
T:いつも何かに凄んでいるだろ。
ま:なにか見えない敵と戦っているよね、ヒムロックは、いつも。
T:ははは。だからまあ、この二人がBOφWYでずっと収まっているのは、あんまり想像できないなあ。 このあたりが臨界点だったんでは、と。
ま:87年の解散は必然だったと。
T:GLAYにはならんだろ、と。
ま:てわけで、作品自体はどうですか。
T:えーまー、「BEAT EMOTION」はもう、これがBOφWYだ、という疾走ビートロックで。
ま:はい。
T:こっちの「PSYCHOPATH」はちょっとなんか、抑制が効いているというか、 深遠さを出そうとしている感じはあるけれども、まあ、大して変わらんかもという。
ま:いわゆるニューウェーブサウンドだよね。
T:そうね。
ま:で、「PSYCHOPATH」では、タイトルとかジャケットからしてちょっとダークな感じをスパイスとして 取り入れようとしたけれども、ま、いつものボウイです、という。
T:でも「季節が君だけを変える」とか「MEMORY」とか、ちょっと歌謡感のある曲も入ってたりして。 まあ、「BEAT EMOTION」のあとどうする、みたいな意識は少し垣間見えるかな。
ま:ま、この頃のBOφWYといえば、個人的にはなんで「ザ・ベストテン」で1位なのに歌わなかったん? というそれが一番印象強いんですが。
T:1位って「Marionette」のとき?
ま:そう。
T:それはロックだからだっ。
ま:確か「ベストテン」で1位獲って歌われなかった曲ってね、「Marionette」とヒムロックの「ANGEL」だけなんよ。
T:ああ。だから、布袋だけだったら多分歌っている気がしないか。
ま:する。でも「夜ヒット」には出ているんだよね、BOφWY。ヒムロック、ミポリンと握手したりとかしているし。
T:まーねーー。ヒムロックって俺、あんまわからん人だからなあ。結構茶目っ気見せたり実はしてんだよね。
ま:うん。
T:でもなんかいきなりストイックになったりとか、謎の人ですね、私にとっては。
ま:右に同じ・・・。
T:まあでも、やっぱ後続に与えた影響は大だし、偉大ですよ。

企画意図は? 〜「安全地帯 X」〜

T:次は安全地帯であります。
ま:これってごっついアルバムでなかった?
T:2枚組み全36曲だっけな。
ま:LPだと三枚組。
T:―にわたって、玉置さんがふはぁぁんあはぁぁんと言っている、そんなアルバムで。吐息マニアにはたまらないです。
ま:てかさ、オリジナルアルバムのボリュームじゃないよ、コレ。どういう流れでこんなもの、と。
T:それにさこれ、ほとんどの曲1分とか2分台だったりして、なんか断片的なのよ。 その2分ぐらいはふーーんあはーーん言ってる曲が延々続くという、もう、まいりましたという感じで。
ま:なんか小馬鹿にしておるな。
T:いやいやいや、そんなつもりはっ。
ま:や、でもこれはいまいち企画意図が読めない。
T:確かになんなのこれ、という感は(笑)。なんかねえ、メロディーの断片を集めたような感じで、 その断片はいちいちいいメロディだったりするんですけど・・・
ま:つまり、ちゃんと4分の曲に仕上げろ、と。
T:そっ、そう言わない言い回しで言ったのに(笑)。
ま:でも一応「Friends」「夏の終わりのハーモニー」「好きさ」と、シングルもぽつぽつ入っているんだよね。
T:そうそう、ヒット曲も入ってるんで、だからこそなんでこんなケッタイなアルバム、っていうのはあるかな。 まあでもファンの方々には評価が高いらしく、最高傑作という声もあり。
ま:へーーーー。
T:まあ、そう言われたら私は黙るしかない。
ま:わはははは。
T:わかんないもんだって。
ま:まぁ、アーティストパワーで売れた、という感じですよね、このアルバムは。
T:音もね、結構変なことやったりしてるんだけど、スクラッチみたいのとか謎の電子音入ってたりとか。 1曲目だけ聴くと、サザンの「Kamakura」を意識したか?と思ったりもしたんだけど、続き聴くとそうでもないという。
ま:まあ前作の93.9万枚から一気に半分近くセールス落しているわけで、ちょっと迷走した1枚、 という印象が否めないかな、と、私も思う。
T:まあその、やってみたかったのね、という感想を越えないかなと。
ま:この頃から玉置のソロも始動しだすしね。いろいろやってみたいお年頃だったんでしょ。

アメリカ文化への憧憬 〜渡辺美里「BREATH」〜

ま:次は渡辺美里「BREATH」です。
T:みさっちゃんもなんかこの対談では結構語った感がありますが。これは3枚目のアルバムですね。
ま:うん。これまた印象薄いんだよな。
T:次の「ribbon」から、詰め込みまくりなポップアルバムになるんだけども、これはまだちょっと地味ですよね。 このアルバムのエポックは、伊秩弘将登場ぐらいかな。
ま:まぁ、でも基本ラインは変わらず。
T:自分がんばれガールポップという。でもまあ繰り返しになるけど、 この歌詞の路線っていうのはこの後90年代になってバリバリ稼動してるわけだから、 やっぱ美里の登場はでかいですよね。それこそ伊秩を介してSPEEDとかまで伝わっているし。
ま:私はこの路線、さほど得意ではないんで、以後ここまで流行ったことに対してちょっと、ってのはあるんだけれども。 「がんばれ自分系はもう沢山だよ」っていう。
T:まあねぇ。猫も杓子もになっていくからな。
ま:まあ、みさっちゃんは結構、バランスが良くて好きな歌多いのでいいんですが。
T:この直後のバンドブームとか、ジュンスカあたりとかさ。 あと00年代初頭に175Rとかロードオブメジャーとか、ちょっとパンクブームみたいのあったけど、 ああいうの聴いて思い出すのって、実は美里だったりする。
ま:へー。ブルハでなく?
T:ブルハより、美里という感じが。歌詞の雰囲気かな。
ま:みさっちゃんの詞って、なんかアメリカの風景を念写して詞作しているみたいな、そんな雰囲気ありません?
T:あー。ほのかにアメリカングラフィティが立ち上ってくる感じがあるかも。
ま:日本の風景としても読めるけれども、本人としては、古き良きアメリカの感じで、っていう。
T:それはすごくありますね。さっき言った「美里を思い出す」ってのも、そういう感じかも。
ま:だから結構、詞も乾いた質感で、さばさばしているんだけれども、嫌味じゃないというか。
T:そうね。
ま:このアルバムだと「IT'S TOUGH」とかさ、やっぱ日本の風景というよりも、というそんな感じするし。
T:それは非常にあるね。「アメリカへの憧憬」みたいのが通奏低音として流れている感じはある。
ま:一方その後の「自分がんばれ系」って、どこまでいってもドメスティックっていうかさ。 なんか、ほんと、コンビニの前でうんこ座りしてそうな子の歌というか。
T:ははは。90年代後半とかはもうそうね。背後に援交の匂いが漂ったりするし。
ま:携帯とかちくちくいじりながら、「夢は見るもんじゃない、語るもんじゃない、叶えるもの」と呟く、という感じで。
T:はははは。
ま:そういう生々しさが、みさっちゃんにはないよな、と。だから好きなのかな、と思ったりする。
T:自己撞着感が不思議とないね。カラッとしてる。距離が取れている感じがする。
ま:だから作品も遠い世界の物語、として聞ける、そういう余地が残されているな、と。
T:まあ、このアルバムも歌詞だけ見ると結構熱いメッセージを発してたりするんだけど、あんまりうざくないのね。
ま:間に一枚幕がある感じで、無理くり感が漂わない。
T:まあ、インパクトとしては次作以降ですが、良いガールポップだなあという感じで、悪くない1枚ではあります。

大人の階段を登りはじめたはずが…… 〜松田聖子「Strawberry Time」〜

ま:次は松田聖子の「Strawberry Time」。
T:これは、米米CLUBとかレベッカとかバービーボーイズとかが参加して、えーと、小室哲哉もか。
ま:あと大江千里も。
T:ソニー系集合という感じで。
ま:ソニー新進作家祭りって感じ。ソニーの歌姫・聖子のために、若手が書き下ろしましたよ、という。
T:まあ、非常にアップトゥデートなポップアルバムですね。
ま:産休復帰アルバムだし、派手に一発決めるか、と。作家も一新だぞ、と。そんな新生・聖子のアルバムです。
T:まあ、ポップだし、聴きやすいし、特に変なところはないし・・・って、変なところがないとダメなのか俺たちは。
ま:まー、作曲家は一新したけれど作詞・松本隆、編曲・大村雅朗ってところは変えていないからね。 全体のトーンは変わっていない。
T:でもさすがに出産後ということもあって、相応の大人加減というか、そういうのは出そうとしていますね。
ま:詞は大人の女性でっていう、松本隆さんは意識してやってますよね。
T:キャピキャピしてないしね。このへんのアルバムに比べると、むしろ90年代以降のほうが弾けている感じで。 まあ、それがいい弾けかどうかはわからんが。
ま:そうね。むしろ退行しているよね。
T:ははははは。まーーそのーー、結局そこに戻っていくのかという展開ではありますよね。
ま:このアルバムだと、「妖しいニュアンス」とか「LOVE」とか「雛菊の地平線」とか・・・
T:「シェルブールは霧雨」なんかも好きです。
ま:いい感じで、大人の女性にシフトさせていっているな、と期待させる感じなんだよね。
T:そうだよね。抑制が効いているんだよね。
ま:それがなんで「大切なあなた」なん、っていう。
T:ははは、弾けちゃいました。一回抑えてはみたものの、やはり抑え切れませんでした、と。で、聖子様爆発と。
ま:でも私は、聖子ちゃんには爆発せずに、フツーに大人になってほしかったなぁと、そう思いますよ。
T:これとか、次の「Citron」とか、実にいい感じなんですよね。聖子ちゃんの次の段階として、いいじゃんこれ、という。
ま:うん。ポップスとして良質で、ちょっと情感が細やかになって、抑制の効いた渋い世界で、手堅い展開だな、と。
T:まあ、手堅すぎるっちゃあ手堅すぎるけどもね。
ま:まあもともと聖子ちゃんって、デビュー以来このあたりまでは安全牌狙いの手堅い手堅い道だったからね。
T:まーそうですね。エキセントリックな作品はないわな。
ま:勝負曲とか冒険作とか、一つもない。下手に賭けを打たないで、一つ一つ着実に足固めして世界を広げている。
T:まあ、聖子様の野望はその堅実な道では納まらなかったんでないの。
ま:で、弾けた、と。
T:聖子からSEIKOへと。
ま:で、天使の羽根を背負って歌っちゃう、と。
T:まあ、今にして思えば、このアルバムのままの聖子様はもう想像できないし。 こんな大人でしっとりとしていて、良質ポップな聖子様って…という。
ま:そうね。ま、この頃の聖子ちゃんは、春色の汽車に乗って遠い旅に出てしまった、という。 あのころの聖子ちゃんはもうどこにもいないんだ、と。

リミックスじゃないけれども… 〜「REMIX REBECCA」〜

T:えー、もうちょっと11位以下からもピックアップということで。
ま:次は全然REMIXでない「REMIX REBECCA」です。
T:っていうか、リマスターじゃないかという。まあリミックスとかリマスターっていう概念自体まだ、この時代は一般にそんな浸透してないしな。
ま:これは、ざっくり言えばただのコンピレーションだよね。
T:ですね。「フレンズ」とか「ラズベリー・ドリーム」とかをフィーチャーしたベストです。
ま:まぁ、でも、このアルバム結構好きなんだけれども。音が自然だし。
T:あ、わしも好きです。ドラムとかベースとかシンセの音が立ってて、元のよりいいかなというのが多いです。
ま:うん。
T:でまあ、アレンジを変に弄ってもいないし、選曲も良いので、結構聴く一枚だな、これは。
ま:だからまあ、なんとも微妙な位置のアルバムなんだけれども、レベッカファンには大満足な一品かと。
T:そうね。で、次の「Poison」がまた傑作でして。音楽的にはもう、山のてっぺんきてるなーという感じなんだけど、 そのあとすぐサッと引いちゃうのよね、レベッカも。
ま:そうですね。
T:BOφWYも絶頂感が短いんだけども、レベッカもそうで。なんか惜しいなあと思ってしまう。 もうちょい高揚していたかったぞ、と。
ま:でも、人気としては85年のブレイクから解散まで五年弱ずっと持続していたわけで、 その間にファンはみんな楽しんだろう、と。
T:まあねぇ。ともに駆け抜けた、って感じか。
ま:それにレベッカは=ノッコの物語って感じするからさ。ノッコのパラダイムが変わって、 目が海外に向いてしまったのだから仕方ない、と。 バンドのお姫様でなく、一人で歩いていくことを決めてしまったのさ、と。
T:まあでもこれは今聴いてもほんとにポップな曲揃いだし、音もそんなふるくさーって感じがしないので、良いです。
ま:うん、レベッカは今の時代にも通用すると思う。
T:サウンドが意外と劣化してないんだよね。結構ピコピコいってんのに。
ま:あと、やっぱ、詞が普遍性あるなと。
T:そうですね。今の若い女の子でも十分入り込める感じはするかな。 まあ、レベッカはほかにベストがいろいろ出てるんだけども、このアルバムはこれはこれでなんか味がある一枚で、 愛着あるかな。
ま:てわけで、皆さんブックオフへ走れ、と。
T:メモして100円棚を漁ってくれと。
ま:またこのオチで。

質はあるが、スリルがない!? 〜竹内まりや「REQUEST」〜

ま:次は竹内まりやの「REQUEST」。
T:えー、これは全然わからない。
ま:このアルバムはセルフカバーを中心としたアルバムで。
T:薬師丸ひろ子の歌った「元気を出して」とか、あと明菜の「Crimson」に提供した曲も入ってますね。
ま:「駅」と「OH NO,OH YES!」ね。あとミポリンの「色・ホワイトブレンド」、河合奈保子の「けんかをやめて」…。 さらに、映画主題歌の「時空の旅人」とか、シングルを詰めて、という。
T:リアルタイムではトピック満載なアルバムではありますな。
ま:悪く言えば、結構、企画色の強いアルバムとも言える。
T:でもまりやさんがビッグ感を醸し出したのって、このアルバムからなのでは。
ま:そう。このアルバムがね、ずっーーっと延々、チャートに入って、CDが177週、 カセットだと213週もオリコンにチャートインしているのですよ。
T:超ロングセラーだ。
ま:んで結果ミリオンセールスになった。女流シンガーソングライターのトップへ君臨するに到る、 彼女の歌手活動においてまさしくエポックなアルバムです。
T:「Impressions」が出るまで入っていたんじゃないのか、っていうぐらい長いですな。 でもまりやさんの代表作っていうとこれか、「Impressions」っていう感じで、セルフカバーかベストかという。
ま:ま、その間に「Quiet Life」っていう、「シングルアゲイン」とか「告白」とか、いろいろ詰めた アルバムを出してミリオンいっているけれども。
T:でもまあアルバムというより、シングルの印象が強いですな。
ま:まりやさんも、シングルを出して出して出して、で、シングルどっさりのアルバムっていう形式だからね。 今時のJ-POP歌手が1年でやるペースを3年〜5年でやっているだけで、戦略的にはそっちか、と。
T:まあ、だからこの後のアルバムも全部ベスト盤的で。あとはカバーかという。
ま:そうだね。
T:まあ、その、なんか不思議なビッグ感だなと私は感じています。
ま:うん。ちょっとね、売上枚数はあるけれども…っていうね。作品自体もこう言っちゃなんだが、凄い保守的だしね。
T:まあその、クオリティは高いんだろうなと思いますよ。
ま:うん、ポップスとしての質はあると思うよ。
T:高品質だけども、でもつまんねーよと思ってしまうんですよねー。ってか全く右の耳から左の耳なんだよな。
ま:ぬはははは。おにーーさん、あんたも随分と。
T:いやあ、今夜ははーりーぱーりーとぅない、と言われても、ああ、ケンタッキーですねという感じで。 はーりーぱーりー出来ないよ、と。
ま:はははは。まあわかる。ぶっちゃけ、スリルがないんだよね。ひらめきというか、 あ、これが表現したくてやっているんだなという、そういう部分がどの作品を聞いても、いまいち伝わってこない…。
T:そうね。それは全然わからんですね。歌えてりゃいいのかな、と思っちゃうけど、でも 歌唱に喜びを見出してるというほど歌ってないしなあ。 ていうか、このアルバムでどかーんと来たのは、やっぱり知ってる曲がてんこもりだからなの?
ま:や、ぶっちゃけ、OLのハートをがっちりキャッチしたから、でないん?
T:あーー、まー、だから、毎回、私がわからないのって、いつもそういうのじゃないですか。某孝子とか某美樹とか。
ま:某の意味ねーー。確かこのアルバムは、「シングルアゲイン」がヒットした頃にチャート再浮上したんだよね。まあ、 TSU-KAさんがよく分からない理由がわかったところで、この辺で。

コイズミは、面白い 〜「Hippies」「ファンタージェン」〜

ま:あと小泉今日子も、アルバムでもさらっと語りたいんだけれども…。
T:そうですね。この年って、「Hippies」だけだっけ。
ま:そのあとに「ファンタージェン」を夏にリリースしている。
T:あ、あれもいいよね。「Hippies」からセルフプロデュースなんですよね。
ま:そうそう。自己プロデュースを開始して、ぐぐっと、アルバムのセンスが良くなる。
T:こっからのキョン2は面白いぞ、という2枚ですね。
ま:「Hippies」は、まぁ、聖子ちゃんのアルバムと同じ新進アーティストとのコラボアルバムなんだけれども。
T:キョン2はいちいち人選がいいんだよね。ヒムロックとか吉川晃司とか高見沢とかバービーボーイズとか、あ、 爆風スランプもいるか。
ま:うん、蓮田ひろかこと野宮真貴―後のピチカートのね、と、中原信雄のポータブルロックコンビもいる。
T:結構大御所じゃなくて、今からノってきてこれからだ、っていう人を引っ張ってきたりもするんだよね、キョンキョン。
ま:うん。しかもこのアルバムでは、劇団3○○の主催者の渡辺えり子や、 ホラー漫画家の御茶漬海苔など、異業種作家まで参加している。かなりむちゃくちゃな人選。
T:この後も近田春夫さんとか藤原ヒロシとか屋敷豪太とかスカパラとか小林武史とか、どういう思いつきだ、 というのをどんどんやっていくわけですが、その端緒となる一枚ですね。
ま:はい。作品自体もなかなか破綻に満ちたアルバムで、素敵。
T:破綻に満ちた(笑)。
ま:や、だって方向性皆無でしょ「Hippies」。
T:まーねー。カオスですよね。
ま:なんで吉川の曲に渡辺えり子の詞なの?という、必然皆無の連発だし。
T:湯川れいこ+ヒムロックとかねぇ。曲もなんかニューウェーブみたいなロックとか、 テクノポップがあると思ったら、「木枯らし〜」「夜明けのMEW」というわかりやすいヒットシングルも入ってるし。 おいおい自由だなこの人、という。
ま:で、ラストは林哲司のメロウなバラードだしね。
T:「One Moon」ね。なんだかディズニーチックで、「星に願いを」のような。
ま:ファンタジーな感じ。これは次作「ファンタージェン」への橋渡しみたいな感じで上手いな、と。
T:そこまで考えてたら凄いね。
ま:「ヒッピーズ」→「ファンタージェン」のリリースのターム、4ヶ月しか開いてないから、可能性はあるかもと。
T:「ファンタージェン」はディズニーっぽいところあるしね。おとぎの国的な。
ま:そうね。テーマパークのようなおとぎの国。
T:「ファンタージェン」はこれもまたいいアルバムで、こっちは今度は全体に空気が一貫しているというか、 「Hippies」のカオスが嘘のようで。
ま:アレンジの土屋昌巳がいい仕事しています。
T:テクノっぽかったりサイケっぽかったりするよね。
ま:だから前作と「ニューウェーブ」という繋がりは一応あるんだよね。
T:そうですね。作りは全然反対っぽいけどね。 おもちゃ箱みたいな「Hippies」と、世界に統一感のある「ファンタージェン」という。
ま:そこがね、面白い。ちょっと煙った感じがあって、鈍く光る銀色、という感じのいいアルバムです。
T:こういうのやりたいのね、っていう方向性はちゃんと見えるよね。方向性というか、空気みたいな。 「Hippies」にしても、まあカオスだけども(笑)、ニューウェーブな匂いを出したいのかなというのは感じるし。
ま:だから、ここからしばらくの小泉は、セールス的には失敗しているものとか結構あるけれども、 ことアルバムに関しては、「渚のはいから人魚」とか歌っているころよか、全然面白い。
T:うん。スリリングで楽しいです。
ま:思いもよらない方向にぶっ飛ぶからね。
T:予定調和をぶっとばす、という感じで。一枚一枚はっきり色があって、楽しいのでよろしくどうぞ。
ま:よろしくどうぞって、あーたは小泉今日子のスタッフですか。
T:まー、小泉さんは「優しい雨」であがり、という感じかしらねえ。
ま:でもその後に「TRAVEL ROCK」とかあるやん。
T:あーーー、あれもいいわ。菅野よう子と作った「オトコノコ オンナノコ」も良かったし。
ま:「Inner beauty」とかも、いいんだよ。キハラ龍太郎と一緒に作ったミニアルバム。 カコイイです。全然売れなかったけれども。
T:そうね。「厚木IC」も悪くなかったしなあ。
ま:結構、音楽的に枯れていないんだよね。さりげに。
T:まあ、鼻につく人は鼻につくかもしれん、キョン2のアーティスト然とした振る舞いは。 オノヨーコのような写真集とか出してなかったっけ。
ま:レントゲン写真の?ナスの被り物の?
T:なんか全身黒く塗ったり、魚拓みたいのとか。
ま:ああ、それね。
T:まあでも、アルバムは面白いので良しなのであります。
ま:たとえポーズだとしても、売れなくてもずっと続けているんだから偉いですよ。 アイドル上がりで音楽的に枯れていないのって、明菜と小泉ぐらいじゃね、と思うし。
T:だよね。役者になっちゃったりするしね。
ま:もしくはファンのためだけに、いつもと同じ歌を歌ったりっていうね、「存在の人」になる。
T:そうだね。
ま:そこに行かないで、新しい音を常に探しているのだから、偉いです。
T:まあ、まだ楽しませてくれそうな小泉サンであります。

87年総括 〜不況下のポップスの面白味〜

ま:それでは、カオスな87年を締めますか。
T:えー今回もまあ、たっぷりと語ってしまいました。
ま:とはいえ語り尽くしていない感がまだある自分が怖い。
T:ま、まじか。
ま:や、でも、これ以上いくと、まとめるのが大変だから、いいっす。
T:まー、これでも拾ってないのもあるんですよねー。
ま:そうなんですよ。
T:カオスな状況だと余計ねえ。メインの流れがこれとこれだ、と絞れないところはある年でしたね。
ま:だから、面白そうなのを手当たり次第に、っていうんで、収拾がつかなくなった。
T:はははは。ホント、そんな感じで。
ま:まぁ、この年の荻野目がいかにキーパーソンであったのか、とか、吉幾三は演歌のパロディーだった、とか・・・
T:ああ、結構暴いたね(笑)。まあ、結構シングルとかは、一曲一曲取り出すと楽しい曲が多かったりはしました。 ポップ史としてどう、ということになると難しかったけれども。
ま:なんかみんな遊びまくっているよなあ、と。そういうシングルが目立ったよね。 売れるかどうかしらんが面白いからいいじゃんっていう。
T:ですね。今もそういうノリで皆さんやってほしいですね、と思ったりした。
ま:どうせなにやっても売れない時代なんだからさ。みんな好き勝手に無茶しろよ、と。
T:簡単にランク上位にインできる状況って、逆に楽しいじゃんという考えもあるな、と。
ま:だよね。
T:多少無茶してもさ、そんなセーフティーにいかなくても、 こういう状況ならオリコンの上のほうに入れちゃったりするんだからさ。 今なんて、アニソンのほうが好き勝手やってたりするからね。
ま:ごめん。そのあたりは、ぶっちゃけ私はついて行けてない。アングラすぎのカオスすぎで。
T:まあでも、こういうノリをJポップ側がもっと持ってもいいんでは、と思ったりするので。 もっとみんな遊ぼうぜと。
ま:もっとカオスになれ、と、TSU-KAさんのお決まりのフレーズで。
T:安定は破壊だ!ということでね。
ま:まぁ、売れない時代なりに、やり方はあるよなぁ、と、一つ学んだ二人なのでした、と。
T:ね。音楽業界のみなさんがんばってください、というエールを送りつつ、締めましょう。
ま:はい。んじゃ、次の対談企画でお会いしましょう。
T:是非ともっ。
ま:ではその日まで。いい夢見ろよっっ。あーばよーーー。
T:え、シンゴちゃんで締めるのかっ。
ま:だめ?
T:や、なんかおもむろだったから(笑)じゃあ私も、あばよーーー! ということで。
ま:おしまいっっ。



年間チャート回顧1987年シングル編その1へ
年間チャート回顧1987年シングル編その2へ