アルバムレビュー
スピッツ


「スピッツ」(1991.3.25) ★★★☆
1.ニノウデの世界 2.海とピンク 3.ビー玉 4.五千光年の夢 5.月に帰る 6.テレビ 7.タンポポ 8.死神の岬へ 9.トンビ飛べなかった 10.夏の魔物 11.うめぼし 12.ヒバリのこころ

cover   ブレイク後のスピッツだけを聴いていると分かりづらいが、実はスピッツは「出がブルーハーツ」である。 アマチュア時代にはブルーハーツをカバーしたり、パンクっぽい曲を演っていたそうである。そんな出自が最も色濃いのがこのファーストアルバムであり、 ディストーション・ギターの音とか、何曲かで散見されるスカっぽいリズムなど、なるほどパンクっぽい要素がちらほら。

  しかし、楽曲自体は別にパンクのそれではなく、むしろU2やポリスあたりのギター・バンドを思わせる曲や、 翻ってフォークっぽい曲だったりするし、歌詞はなんだかフォークを下敷きにしながらも独特のシュールレアリズムが爆発している。そして、永遠の少年性とも 言うべきエバーグリーン感を醸し出す草野正宗のボーカル。一つ一つの要素を取り上げると、出がパンクとはあまり思えない、攻撃性のあまり感じられないものなのに、 全体としては、笑顔の裏にナイフを隠し持ったようなギリギリの危うさを感じさせる。いい意味で、どこかが破綻しているように思えるのだ。 それは取りも直さず、世界と断絶した位置から世界を傍観しているような、初期・草野正宗の毒性の強い歌詞に因るところが大きいのだが、 それをそのまま暴力的なサウンドで演るのではなく、フォーキーだったりポップなメロディに乗せて歌うことで独特のカラーを早くも築いている。

  そういう意味では、音楽のジャンルとしてでなく、「意味として」パンクなアルバムだし、バンドである。そしてそんな精神性は、 最新作「三日月ロック」まで一貫している。スピッツのコアに触れるにはこのアルバムを聴くべし。 「ニノウデの世界」「月に帰る」「死神の岬へ」「トンビ飛べなかった」「夏の魔物」「うめぼし」「ヒバリのこころ」と、名曲揃い。


「名前をつけてやる」(1991.11.25) ★★★★
1.ウサギのバイク 2.日曜日 3.名前をつけてやる 4.鈴虫を飼う 5.ミーコのギター 6.プール 7.胸に咲いた黄色い花 8.まちあわせ 9.あわ 10.恋のうた 11.魔女旅に出る

cover   パンクだったりフォークだったり、アッパーだったりメロウだったりと、様々な要素が混沌と渦巻いていた 1stアルバムから、フォーキーさとメロウネスを多めに抽出したらこうなった、というようなアルバム。結果、よりわかりやすい形で「スピッツらしさ」が整理された 初期の名盤になった。これが一番好き、というファンも多い。

  アルバムタイトルを解釈するならば、忘れられがちな思い出の景色や、見過ごされがちな風景に「名前をつけてやる」ってところでしょうか。 誰もが見えているはずなのに、草野正宗にしか見えてない景色がある。そこが草野の歌詞の魅力の一つだとしたら、最もフォーキーでノスタルジックなこのアルバムこそ 一番それを愉しむのにふさわしいかもしれない(フォークってのは第一に歌詞ありき、な音楽であるから)。

  タイトル曲「名前をつけてやる」やシングル「魔女旅に出る」を持ち出すまでもなく佳曲揃いのアルバムだが、バンジョー(?)の音色がいやがおうにも 「蒸し暑い夏休み」を喚起する「鈴虫を飼う」、輪郭のぼやけた思い出の中を浮遊するようなギターの音色が絶妙な「プール」、とっぽい感じのフォークポップ「あわ」が特にいい。 ブレイクまで6枚のアルバムを要したスピッツだが、何も彼らの作る曲が良くなったから売れたのではない。もうこの時点で同じように良い曲を作っていたのだった。必聴。


「オーロラになれなかった人のために」(1992.4.25) ★★☆
1.魔法 2.田舎の生活 3.ナイフ 4.海猫 5.涙

cover   今のところ唯一のミニアルバム。フルオーケストラを従えた「魔法」「ナイフ」、文部省唱歌の ような趣きの「田舎の生活」、初めてブラスを取り入れた「海猫」、ストリングスとチェンバロだけをバックに歌われる「涙」と、大胆にバンドサウンドの 枠を崩し、草野正宗の詞曲にのみスポットを当てた言わば「スピッツ番外編」。基本的に曲の尺が短いスピッツにあって、7分に達する「ナイフ」も異色だ。 バンドらしさは皆無だが、草野の美しいメロディと文学的で内省的な歌詞が味わい深い。

  番外編とはいえ、これがあったからこそロックサウンドに振り切れた次作「惑星のかけら」が生まれたのだろうし、 「海猫」でのブラスの導入は後の「Crispy!」のサウンドに繋がった。後のスピッツの幅を広げた一作。いい感じで鬱になれるダウナー系の「ナイフ」「涙」がオススメ(笑)。 「田舎の生活」は癒し系、でしょうか。


「惑星のかけら」(1992.9.26) ★★★★
1.惑星のかけら 2.ハニー ハニー 3.僕の天使マリ 4.オーバードライブ 5.アパート 6.シュラフ 7.白い炎 8.波のり 9.日なたの窓に憧れて 10.飛べ、ローランダー 11.リコシェ号

cover   エッジの立ったディストーションギターの音色が快感な、ロック色・バンド色の強い3rdアルバム。 個人的には初期スピッツの中で最も好きなアルバムである。初期スピッツで歌われていたのは、大雑把に言えば草野正宗の、ミニマルな屈折した妄想の世界だった。 このアルバムではそんなミニマルな妄想の世界が、殻が破れないまま宇宙レベルまで一気に膨張していくような、そんな外へ向かっていく負のエネルギーとも 言うべきわけのわからないダイナミズムが溢れている。

  象徴的なのがタイトルナンバーの「惑星のかけら」だ。臨界点を突破するが如きけたたましいディストーションギターの轟音に乗せて歌われるのは、 あいも変わらず「二つ目の枕でクジラの背中にワープだ!」「君から盗んだスカート 鏡の前で苦笑い」という、ひきこもり的な危ない妄想だ。そんな危ない妄想が、 暴力的なダイナミズムとエネルギーを得て、屈折したままストレートに飛んでくるのだ!これは凄すぎる。

  2曲目以降もその方法論は同様だ。
     「マリ マリ マリ 僕のマリ もうどこへも行かないと約束して」 (僕の天使マリ)
     「ちゃっかり楽しもうよ 闇のルールで消される前に」 (オーバードライブ)
     「みんな嘘さ 奴らには見えない」 (シュラフ)
     「宝貝ひとつで 覚醒できるのさ 悟りのエリアから 君によびかけてた」 (白い炎)
     「迎えに行くから どうか待ってて僕のこと 仔犬みたいに」 (波のり)

  こんなストーカーもどきの妄想が、どこまでも開放的なバンドサウンドの中で歌われる。閉塞が開放的に鳴っているのだから、 ある意味これ以上怖いことはない。しかもこのアルバムの響きは圧倒的にポップなのだ。妄想に翼を与えて天高く飛翔させるような危ない快感が、このアルバムには詰まっている。 初期スピッツの決定版とも言える快作。


「Crispy!」(1993.9.26) ★★★
1.クリスピー 2.夏が終わる 3.裸のままで 4.君が思い出になる前に 5.ドルフィン ラブ 6.夢じゃない 7.君だけを 8.タイムトラベラー 9.多摩川 10.黒い翼

cover   初めてプロデューサーに笹路正徳を迎えた4thアルバム。前作で全開だったディストーションギターの比率は 抑えられ、ストリングスやブラス、キーボードを大幅に導入することによってポップにまとめられている。これを洗練されたと見るか、オーバープロデュースと見るかは好みの 別れそうなところ。僕はちょっとプロデュース過剰だな、と思ってしまうんだけど・・・。スピッツ独特のトンガった部分がちょっと影を潜めてしまっている気がするし、 ストリングスがちょっとうるさく感じてしまう部分もある。

  それでも草野メロディーの秀逸さは不動で、特に前半は「クリスピー」「夏が終わる」「君が思い出になる前に」「ドルフィンラブ」と佳曲揃い。 特に「君が思い出に〜」の一行目、「あの日もここではみ出しそうな 君の笑顔を見た」の喚起する情景の鮮やかさといったらない。 ラストの「黒い翼」はなんだかエアロスミスの「Living on the Edge」みたいなスケール感があります(笑)。インドっぽいフレーズも出てくるし。 アルバムとしては決して傑作ではないが、後に繋がる作品だったことは間違いない。笹路正徳との蜜月は「インディゴ地平線」まで続く。


「空の飛び方」(1994.9.21) ★★★★☆
1.たまご 2.スパイダー 3.空も飛べるはず 4.迷子の兵隊 5.恋は夕暮れ 6.不死身のビーナス 7.ラズベリー 8.ヘチマの花 9.ベビーフェイス 10.青い車 11.サンシャイン

cover   前作に引き続き笹路正徳プロデュースの5thアルバム。前作ではどうも完全に噛み合ってなかった気がするバンドと 笹路氏のコラボレーションがここではバッチリ嵌まった、という感じで、スピッツのトンガった部分も、ノスタルジックな部分も、バンドとしての勢いも、笹路氏のアレンジも、 全てが整合性良くまとまった傑作になった。

  「スパイダー」や名曲「青い車」、96年にリバイバルヒットした「空も飛べるはず」のシングル3曲はもちろん、「不死身のビーナス」 「ラズベリー」も十分シングルになり得るポップ性を持っている。前作と同じくブラスやストリングスが入っていても、決してオーバープロデュースな印象はなく、 ちゃんと楽曲の引き立て役として機能している。スピッツ流サイケ・ロック「迷子の兵隊」や、寺本りえ子なる女性ボーカリストとのデュエット曲「ヘチマの花」といった チャレンジ作もいい出来。

  かように佳曲揃いの一作ですが、隠れた名曲としてイチオシしたいのが「恋は夕暮れ」。 「恋は昨日よりも 美しい夕暮れ 恋は届かない 悲しきテレパシー〜」と始まる歌詞は、シンプルにまとめられていながらも恋という感情のすっぱさもその裏の魔性も、 余すところなく描き切っていて、どこか俳句や短歌のようですらある。メロディーとブラスアレンジの取り合わせもグッド。「青い車」で終わっても良さそうなところ、 儚げな余韻たっぷりに締める「サンシャイン」も良いです。しかし、これでもブレイクしなかったんだからいやはや、人気というのは水モノです。


「ハチミツ」(1995.9.20) ★★★☆
1.ハチミツ 2.涙がキラリ☆ 3.歩き出せ、クローバー 4.ルナルナ 5.愛のことば 6.トンガリ'95 7.あじさい通り 8.ロビンソン 9.Y 10.グラスホッパー 11.君と暮らせたら

cover   「ロビンソン」「涙がキラリ☆」で遂にブレイクを果たした95年リリースの6枚目。 ブレイク作とはいえ、スピッツ独特の世界観は不動。むしろアレンジなどは前2作「Crispy!」「空の飛び方」の方がキャッチーでポップ然としているぐらいで、 ここではスピッツのバンドサウンドの骨格を再確認するような、地に足のついた印象を受ける。特にリズム隊には注耳。グルーヴィーにスイングする「ルナルナ」や、 どっしりとした演奏でマサムネの歌を支える「涙がキラリ☆」「歩き出せ、クローバー」「愛のことば」など、歌や歌詞だけでなく演奏も十分イケているのである。

  個人的に一番好きな曲は「愛のことば」。スピッツの中でも5本の指には必ず入るほど好きな一曲だ。メロディーが最高だし、タイトルに反して無常感の漂う 世界もいい。Dメロ「雲間からこぼれ落ちてく〜」での歌詞とメロディーの一体感とカタルシスは絶品。「ロビンソン」の後をグッと引き締めるバラード「Y」も極上。 美しすぎるメロディーと儚さ・寂しさ満開のアレンジにどっぷり浸りましょう。

  ただ個人的には何故かあんまり聴かない1枚である。好きな曲は多いんだけど…。なんか1枚通して聴くと地味だからかな。ブレイク作という状況の割りに、 スピッツのアルバムで一番ストイックな印象を受けるのは僕だけでしょうか。でも初めてスピッツを聴きたい、という人にはやっぱりこれか「空の飛び方」がお勧めであるのは 間違いないですが。


「インディゴ地平線」(1996.10.25) ★★★★
1.花泥棒 2.初恋クレイジー 3.インディゴ地平線 4. 5.ハヤテ 6.ナナへの気持ち 7.虹を越えて 8.バニーガール 9.ほうき星 10.マフラーマン 11.夕陽が笑う、君も笑う 12.チェリー

cover   これまでのスピッツといえば「ヒバリのこころ」「空の飛び方」などのタイトルがいみじくも象徴するように、 社会と断絶した場所から妄想やファンタジーへ意識を飛翔させる世界観が(特に初期においては)特徴だったし、サウンドもそれに応じたものになっていたと思うが、 ここでは「地平線」というぐらいである。意識だけでなく自らの足で歩いていく、そんなどっしりとした力強さが打ち出された1枚になっている。

  タイトルソング「インディゴ地平線」が象徴的。広大な大地を思わせる演奏と、「逆風に向かい 手を広げて」と歌われる歌詞は、 それまでのスピッツにはなかったたくましさや男気を感じさせるものである。スピッツの世界が妄想や幻想の殻を破り、輪郭のはっきりした現実の世界へと遂に足を 踏み出し始めたことを思わせる一曲だ。後半の「マフラーマン」でもスピッツにしてはヘヴィなグルーヴを聴かせている。

  全体的には前作「ハチミツ」に続き、バンド以外の音を極力排した、バンドサウンドの骨格を重視したサウンドだが、 4つ打ちテクノっぽい世界をバンドサウンドで構築した「渚」、ミニマルな繰り返しだけで展開しながらもポップな「ハヤテ」、シンプルな演奏なのに、 幻想的なAメロと力強いサビのメリハリが見事な「虹を超えて」など懐は深い。これぞ青春の切なさ!なメロディーとピアノの取り合わせが良すぎる「初恋クレイジー」は アルバムでもイチオシの佳曲。ヒットシングル「チェリー」ももちろん名曲である。

  個人的には前作「ハチミツ」よりも全体のバランスが良く、 アルバムとしてはこっちの方が好きである。例えば「ナナへの気持ち」は個人的にはあんまり好きな曲ではないけど、このアルバムにおいてはこの位置になくてはならない 必然性が感じられる。後半は地味めな曲が多いが、「バニーガール」があることによってダレることがない。「空の飛び方」のようなポップ性にも、「ハヤブサ」のような実験性に もどちらにも振り切れていない不思議なアルバムで、好き嫌いは別れそうだが、なぜかスピッツのアルバムでは最も何度も繰り返し聴くに耐える1枚だと個人的には思う。 最もニュートラルなスピッツがこのアルバムに収められている気がするからかもしれない。




[2]「フェイクファー」〜

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