アルバムレビュー
スピッツ


「フェイクファ−」(1998.3.25) ★★★★★
1.エトランゼ 2.センチメンタル 3.冷たい頬 4.運命の人(Album Version) 5.仲良し 6. 7.スーパーノヴァ 8.ただ春を待つ 9.謝々! 10.ウィリー 11.スカーレット(Album Mix) 12.フェイクファー

cover   「Crispy!」から4作続いた笹路正徳プロデュースを離れて再びセルフに戻った8枚目。内容的には、 それまでのスピッツのオイシイところを総ざらえという感じで、加えて名曲・佳曲連発のこのアルバム。スピッツの最高傑作の1つと言っていいかもしれません。

  小品「エトランゼ」に続いて力強いギターリフが鳴り響き、「センチメンタル」で本格的にこのアルバムは幕を開けるが、これがいきなりカッコいい。 「惑星のかけら」再来を思わせるハードなギターサウンドとマサムネのボーカルの「素晴らしきミスマッチ」は、幻想的だったり切ない歌詞と普遍的なメロディーの中に、 それらと相反する毒を併せ持つスピッツのデビュー以来の魅力を凝縮している。7曲目「スーパーノヴァ」でもHRバンド顔負けのヘヴィな演奏を聴かせる。この辺は前作 「インディゴ地平線」の延長線上にあるのかもしれない。

  一方で「冷たい頬」「仲良し」では、これまた初期からの一つの要素であったフォーキー な一面が復活。素朴だけど心に響く、マサムネのメロディの良質さが際立つ。5拍子の「ただ春を待つ」は一聴すると「ヘンな曲」だがこれもまた初期スピッツっぽい。 「スピッツ」や「名前をつけてやる」に入っていてもおかしくない曲である。「ロビンソン」あたりのチャート的なポップさは「運命の人」「スカーレット」に集約されている。 無難ではあるが実にスピッツらしい2曲。

  また、意外にもコテコテのバラードが少ないスピッツだけど、6曲目「楓」はスピッツ・バラードの代表曲になりそうな名曲。アレンジ、 歌詞、メロディーの切なさがマサムネのボーカルにこの上なく合っている。そして名曲揃いのこのアルバムの中でも、最も好きなのが9曲目「謝々!」だ。 「チェリー」に通じる前向きで等身大のメッセージと、リラックスした空気感のサウンド、ゴスペルコーラス全てが心に染みてくる。投げやりになってしまいそうな時や、 何かに苛立っている時に聴くと非常に癒される気がする一曲である。

  ラストの「フェイクファー」は、「少しだけで変わると思っていた」「たとえ全てがウソであっても それでいいと」と、 それまでのスピッツの世界を包み込むようなフレーズで始まって、「今から箱の外へ 二人は箱の外へ」とこれからのスピッツを示唆するようなフレーズで終わる 感慨深い一曲。と思いきや最後「未来と別の世界見つけた そんな気がした」と曖昧に締め括るのもスピッツらしい。


「花鳥風月」 (1999.2.24) ★★★
1.流れ星 2.愛のしるし 3.スピカ 4.旅人 5.俺のすべて 6.猫になりたい 7.心の底から 8.マーメイド 9.コスモス 10.野性のチューリップ 11.鳥になって 12.おっぱい 13.トゲトゲの木

cover   シングルのカップリングのみに収録されていた3〜11と、幻のインディーズ時代のアルバム 「ヒバリのこころ」からの2曲(12・13)、そして辺見えみりに提供した「流れ星」、Puffyへの提供曲「愛のしるし」のセルフカバーを収録した企画盤。 名曲「スピカ」をはじめ味のある曲が多く、企画盤とはいえ聴き応えのある一枚になっている。

  冒頭の「流れ星」がいきなりいい。辺見えみりVer.は聴いたことがないけど、メロディや歌詞は草野ワールド以外の何者でもない。 イントロのギターの音色・フレーズがバッチリ。後半の大胆な転調も鮮やかです。「愛のしるし」もPuffyバージョンとはまた別に、スピッツの曲として完成してる。 あっけらかんと歌われるPuffyバージョンではわからなかった、楽曲に込められた少しのイタズラ心みたいなものが、マサムネが歌うとはっきり感じられるのが不思議である。

  カップリング曲集の中ではやはり「スピカ」が名曲!厳密には「楓」と両A面でリリースされたオリジナルアルバム未収録のこの曲。 弱さや挫折を認めながらも、「割れ物は手に持って運べばいいでしょう」「幸せは途切れながらも 続くのです」と歌うポジティヴな歌詞と、 ノスタルジックな草野メロディーが、ダイナミックなロックサウンドに乗って力強さと繊細さが同居した感動的なナンバーに仕上がっている。 個人的にスピッツの曲の中で1番好きな曲である。

  「猫になりたい」も、「青い車」に逆転されたもののギリギリまでA面候補だった曲。素朴すぎてシングルとしてはちょっと 弱い気がするけどファンには隠れた名曲として呼び声が高い。「ロビンソン」のカップリングだった「俺のすべて」もライヴの定番。三輪テツヤのギターのカッティングや、 Dメロの展開がかっこいい。「ハチミツ」に入っててもよかったような・・・。「マーメイド」もアルバム「惑星のかけら」に入っててもおかしくない、 ギターリフが軽快な一曲。「コスモス」はスピッツの中でもダウナー指数の高い、鬱系の一曲(笑)。

  そして貴重なインディーズ時代の2曲。「君のおっぱいは世界一〜♪」と連呼する「おっぱい」、「トーゲトゲトゲトーゲトゲトゲ♪」と 歌う「トゲトゲの木」ともども、スピッツが元来持っている変態性や毒性が色濃く出ており、ヤバイです。


「ハヤブサ」(2000.7.26) ★★★★
1.今 2.放浪カモメはどこまでも(album mix) 3.いろは 4.さらばユニヴァース 5.甘い手 6.HOLIDAY 7.8823 8.宇宙虫 9.ハートが帰らない 10.ホタル 11.メモリーズ・カスタム 12.俺の赤い星 13.ジュテーム? 14.アカネ

cover   スクーデリア・エレクトロの石田小吉をプロデュースに迎えた9作目。全編に鳴り響く、 尖ったディストーションギター、随所に挿入される電子音、サイケに積み重ねられる楽器。耳を疑うほどオルタナ・ロックに傾倒した実験作。 しかし実験のための実験に終わらず、野心に満ちた先鋭的なサウンドとスピッツの持っている魅力がみごと融合した傑作である。

  まあ元々スピッツは出がパンクだったり、マサムネの声とハードなロックサウンドを取り合わせてみたり、繊細な世界に毒を盛ってみたり、 クロスオーバーなバンドではあったのだが、それにしてもここまでの針の振り切り具合はすごい。前作「フェイクファー」で一旦それまでのスピッツを総括したからこそ ここまで行けたとも言える。エレキギターとアコギが並んで疾走するオープニングの「今」からしてちょっと驚いてしまうが、その後もラウドなギターが耳をつんざく 「放浪カモメは〜」「いろは」「メモリーズ・カスタム」、オルタナ・スカパンク「8823」など「ロックバンド・スピッツ」の面目が躍如するナンバーが並ぶ。

   ラウドな曲ばかりでは耳が疲れる、という事で「HOLIDAY」「ハートが帰らない」「ホタル」「アカネ」といった比較的それまでの スピッツっぽい曲も絶妙なバランスで配置されている。その中でもポップなメロに乗せて「いつか こんな気持ち悪い人 やめようと思う僕でも」なんて歌ってしまう 「HOLIDAY」が良いです(笑)。「ハートが帰らない」のアンニュイなAメロのボーカルもなんだか目新しくていい。

   んでアルバム中、最大の山場は5曲目「甘い手」ではないだろうか。まさに宇宙を漂うようなトリップ感を演出するサウンドが絶品! スピッツには珍しく6分を超える力作。終盤ではどことなく男気を感じさせる歌謡曲チックな「俺の赤い星」が印象的。刺激的なサウンドが続いた後でちょっと 疲れた耳を癒してくれるようなアコギの弾き語り曲「ジュテーム?」も絶妙な配置。パブリックな彼らのイメージからはかけ離れたアルバムかもしれないが、 こういうスピッツも全然アリでしょ、という1枚。


「三日月ロック」(2002.9.11) ★★★☆
1.夜を駆ける 2.水色の街 3.さわって・変わって 4.ミカンズのテーマ 5.ババロア 6.ローテク・ロマンティカ 7.ハネモノ 8.海を見に行こう 9.エスカルゴ 10.遥か album mix 11.ガーベラ 12.旅の途中 13.けもの道

cover   10枚目のオリジナルアルバムにして、まだまだ既存のスピッツ色に安住することなく、 まるでこれがデビュー作のバンドのような瑞々しさに溢れていることに驚かされる。センチメンタルだったりノスタルジックだったりする、 草野正宗のボーカルなりメロディはそのまま残しながらも、サウンドはまさにロックのダイナミズムをしっかり有している。前作「ハヤブサ」は曲の構造自体をロックに 寄せてみせ、ゆえに実験作という印象が拭えなかったが、このアルバムではニュートラルなスピッツのままでロックバンド・スピッツを感じさせることに成功していると思う。

  プロデュースにはあの亀田誠治師匠。グランジっぽいロックサウンドに薄く打ち込みを被せる手法はまさに亀田節。スピッツと亀田師匠、 合うか合わないかよくわからない組み合わせだなと思ったがバッチリでした。 楽器の録り方に非常にこだわりが感じられ、特に音の粒一つ一つが立って聞こえる、 分離のいいドラムのミックスが良い。驚かされたのは5曲目「ババロア」で、なんとドラムが完全に打ち込み。バスドラ4つ打ちに乗ったマサムネのボーカル、かなり斬新です。

  全体的にアッパーな曲が多いのだが、個人的にはもうちょっと儚い曲・切ない曲が入っていてくれたら嬉しかった。 スピッツがこんなにアッパーでいいのか!?と思うぐらい明るい印象のアルバムなんだもん(笑)。だけに余計、終盤の「ガーベラ」が効果的で、ここだけエアポケットに 落ちたように切ないです。「さわって・変わって」のカップリングでリリースされたときから好きな一曲だったのでアルバム収録は嬉しい。

  私的ベストトラックは「水色の街」。導入部と「ラララ」で歌われる部分、たった2つのメロディーしかないし、歌詞だって「ラララ」と毎回出てくる 「水色のあの街へ」を除けば実質2行ずつの文が4回あるだけ。それなのに演奏と歌声からは確固たる「水色の街」の世界観が鮮やかに浮かんでくるのだ。 スピッツの良さをシンプルに濃縮還元した素晴らしい佳曲だ。


「色色衣」 (2004.3.17) ★★★★
1.スターゲイザー 2.ハイファイ・ローファイ (NEW MIX) 3.稲穂 (NEW MIX) 4.魚 5.ムーンライト 6.メモリーズ 7.青春生き残りゲーム (NEW MIX) 8.SUGINAMI MELODY 9.船乗り 10.春夏ロケット 11.孫悟空 12.大宮サンセット 13.夢追い虫 14.僕はジェット

cover   99年以降のオリジナルアルバム未収録曲を集めたコレクションアルバム。 シングルのカップリング曲を中心に、99年元旦にリリースされたシングルでもミニアルバムでもない3曲入りep「99ep」の 2・4・7、オリジナルアルバムに未収録だったシングル表題曲6・13(6は改作とも言える「メモリーズ・カスタム」が アルバム「ハヤブサ」に収録された)、最新シングル「スターゲイザー」、それからインディーズ時代の貴重な音源 「僕はジェット」を収録した全14曲入り。

  本作に似たようなコンセプトで編集されリリースされた99年のカップリング集「花鳥風月」 と同じく、寄せ集めの編集版であっても、ここにはオリジナルアルバムに劣らない確固たる「スピッツ・ワールド」 が広がっている。冒頭を飾る最新シングル「スターゲイザー」はいわゆる一般的なスピッツ・シングルのイメージの 王道を行くナンバーだろうし、「稲穂」「魚」「ムーンライト」などもアルバム未収録だったのが勿体無いような佳曲だ。 「SUGINAMI MELODY」や「大宮サンセット」などは、カップリングならではのキュートな魅力をもった小品と 言えるかもしれない。

  しかし、「スターゲイザー」のようなシングル曲でしかスピッツをイメージしていなかった 人にとっては、本作のバラエティに富んだ選曲はちょっとした驚きなのではないだろうか。 スピッツの一般的なイメージといえば、「切ない」とか「儚い」とか「淡い」といったものなのだろうと 思うのだけど、「ハイファイ・ローファイ」「青春生き残りゲーム」「船乗り」「春夏ロケット」などのカップリング・ナンバーたちは、 むしろスピッツのバンドとしての骨太さ、意外なほどの男らしさを感じさせるもの。そう、これもまたスピッツの一面なのだ。 従来からのファンは多面的に切り取られた「スピッツらしさ」にニンマリし、 普段シングルでしかスピッツを聴かないような人も、意外な一面にまたニンマリできそうな、 そんな一枚だ。

  寄せ集めの編集版であっても、これだけ魅力的な作品が出来上がってしまい、 そこに収められた「スピッツらしさ」には全く揺るぎがない。これはひとえにスピッツがマイペースでキャリアを積み重ねてきた 強みだと思う。好盤です。 個人的には不遇な扱いを受けていたと思っていた名曲「夢追い虫」「魚」の収録だけでも大満足。 (記・04.6.20)


「スーベニア」 (2005.1.14) ★★★★
1.春の歌 2.ありふれた人生 3.甘ったれクリーチャー 4.優しくなりたいな 5.ナンプラー日和 6.正夢 7.ほのほ 8.ワタリ 9.恋のはじまり 10.自転車 11.テイタム・オニール 12.会いに行くよ 13.みそか

cover   11作目のオリジナルアルバム。スピッツも随分と長いキャリアを積み上げてきたが、アルバムが出るたびに驚かされるというか、 いいなあと思うのは、ほかの誰でもない草野正宗の世界と、僕らがスピッツにしか求め得ないものを常にしっかり堅持しつつも、 同時にそこにはどこか新鮮な空気がいつも流れている。きちんと部屋の窓を開け放って、換気が行われている感じというか。 今回のアルバムもそういうものになっている。

  ざっくりとした言い方をすれば、今回のスピッツのアルバムは、真っ当なギターロックアルバムだ。 前作から引き続いての亀田誠治Pとのコラボはさらにこなれ感を増し、前作以上に完成されたサウンドを鳴らしている。 「夢追い虫」以来久々に、高山徹をエンジニアに迎えたことも功を奏しているのかも。シングル「正夢」を折り返し地点として 前半、後半という感じの構成になっているが、特に「ほのほ」「ワタリ」「恋のはじまり」・・・と続いていく後半の流れは、 洋楽にも全くひけをとらない、日本が誇れる日本語のギターロックとして実に上等な出来で、なんだか嬉しくなってしまう。歌詞やメロディーだけでなく、是非サウンドにも 耳を傾けてほしい。スピッツはバンドとしても実に素晴らしいバンドだ。というのは言うまでもないことなのだけれど、 本作は今まで以上に草野正宗の楽曲や歌唱と、バンドサウンドとが分かち難く結びついて成り立っている曲が多い。 このキャリアにしてこの結束感、信頼感。なんとも幸福なバンドだなあと思う。

  沖縄風の「ナンプラー日和」、レゲエの「自転車」など変化球もあるが、初聴こそインパクトが強いものの 最終的にはどれも"スピッツだなあ"という感のほうが圧倒的に勝る。それほど確固たるスピッツだけの世界、というものが強力に 出来上がっていることに驚いた。見事にどこまでもスピッツらしい作品であり、かつ既に聴いたことがありそうで実は聴いたことがない スピッツでもある。「99ep」あたりからバンドとして新しい段階に入ったとすると、本作はその流れがひとつ結実した、理想的な1枚といえるだろう。 (記・05.3.22)


その他のアルバム
「RECYCLE Greatest Hits of SPITZ」(1999.12.15)



[1]「スピッツ」〜「インディゴ地平線」

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