アルバムレビュー
荒井由実/松任谷由実


「ひこうき雲」 (1973.11.20) ★★★★★
1.ひこうき雲 2.曇り空 3.恋のスーパー・パラシューター 4.空と海の輝きに向けて 5.きっと言える 6.ベルベット・イースター 7.紙ヒコーキ 8.雨の街を 9.返事はいらない 10.そのまま 11.ひこうき雲(Reprise)

cover   日本のポピュラーミュージック史を語る上で外す事の出来ない名盤。 当時まだ19歳のユーミンが紡ぎ出す洗練されたメロディーと、キャラメルママ によるモダンでクオリティの高いサウンドは、フォーク/歌謡曲全盛だった日本のミュージックシーンを ニューミュージック/ポップスへと向かわせる牽引力となった。

  デビュー当時のキャッチコピーは「魔女か!スーパー・レディか!新感覚派荒井由実登場」 なるものだったらしいが、そんな煽り文句も決して大げさではない天才ぶりをまざまざと見せ付ける 名曲揃い。「曇り空」「きっと言える」「雨の街を」「返事はいらない」など全体に漂うアーバンな雰囲気 はそれまでのフォークや歌謡曲とは一線を画するもので、日本独特の泥臭さや湿っぽさを微塵も感じさせない メロディーのセンスは生まれついてのものだろう。都会的で、どこか敷居の高い(金持ちが聴いてそうな)音楽、 というイメージがしばらくユーミンにはつきまとうが、そんな感じはこのデビューアルバムから既にあった。

  もう一つ、このアルバムがエバーグリーンな名盤たる所以は、歌詞に込められた 少女性にある。夭折への憧れを歌った名曲「ひこうき曇」や、十代でしか感じ得ない、どこまでも果てしなく 希望が広がり、世界のあらゆるものが輝いて見える感覚と、その裏にある漠然とした不安を封じ込めたような 「空と海の輝きに向けて」「紙ヒコーキ」、「ベルベット・イースター」のホーリーなものへの憧れ。 決して大人になってからでは感じ得ない、しかし誰もが少年少女時代に感じていたはずの感覚を 封じ込めた作品であり、そういった作品は数多いユーミン作品の中でも唯一、これだけなのだ。


「ミスリム」 (1974.10.5) ★★★★★
1.生まれた街で 2.瞳を閉じて 3.やさしさに包まれたなら 4.海を見ていた午後 5.12月の雨 6.あなただけのもの 7.魔法の鏡 8.たぶんあなたはむかえにこない 9.私のフランソワーズ 10.旅立つ秋

cover   「ひこうき曇」と並ぶ、日本のポップス史に燦然と輝く名盤。 ティンパン・アレイとシュガーベイブが固めたサウンドは前作以上にポップで、 楽曲も前作のような内省的なものだけではなく、開放的なポップスへと幅を広げており、 叙情性とポップ性のバランスが絶妙。前作同様、収録曲全曲が名曲と言っていいクオリティを誇っている。

  前半3曲は、前作にあった少女性を引き継ぐ、有形無形すべてのものに「何か」 を感じられる十代の感性を封じ込めた作品。しかし響きは前作ほど内省的ではなく、 シュガーベイブのコーラスもあいまって、ポップな印象。「瞳を閉じて」は、ラジオに寄せられた長崎県の離島に住む高校生の、 「私たちの学校には校歌がありません。是非ユーミンに校歌を作ってほしい」というハガキから生まれたというエピソードが 有名(実際その島にはこの歌の歌碑が立てられている)。真っ青な海が眼前に広がってくるようなメロディーと、 果てしなく続く大海がそのまま子供達の未来に重なり合うような歌詞が素晴らしい。「やさしさに包まれたなら」 は「魔女の宅急便」の挿入歌にもなったので、若い世代(っていうか僕の世代もだけど)にも馴染みが深いかもしれない。

  「山手のドルフィンは〜」で有名な「海を見ていた午後」は、寂しげなエレピによるシンプルなアレンジが けだるい感傷を引き立たせている。「ソーダ水の中を 貨物船が通る」というフレーズは一行で鮮やかに その情景を喚起する名フレーズで、ユーミンが作曲家としてだけでなく作詞家としても天才であることがよくわかる。 古き良きアメリカンポップス風の「12月の雨」、黒っぽいグルーヴが感じられる「あなただけのもの」、 イントロが印象的なヨーロピアン風味「魔法の鏡」あたりは、そのふくよかな奥行きのあるサウンドを存分に楽しめる。 ラストに並んだ2曲はユーミン自ら「私小説的」と語るこのアルバムを象徴するような楽曲。「旅立つ秋」 は、当時のユーミンの年齢から考えるとかなり大人びた雰囲気で驚かされる。


「コバルト・アワー」 (1975.6.20) ★★★★★
1.コバルト・アワー 2.卒業写真 3.花紀行 4.何もきかないで 5.ルージュの伝言 6.航海日誌 7.チャイニーズ・スープ 8.少しだけ片想い 9.雨のステイション 10.アフリカへ行きたい

cover   内省的・私小説的だった前2作に対して歌詞はフィクションへ向かい、 楽曲も開放的で明るいポップスが中心になった3作目。この年にシングル「あの日にかえりたい」が大 ヒットするとともにこのアルバムや旧作も売り上げを伸ばし、第一次ユーミンブームが巻き起こった。

  ティンパンアレイらによるサウンドはさらにポップで華やかなものに。 特に冒頭「コバルトアワー」で聴ける、めまぐるしく表情を変える神ワザ連発のジャムセッション的な演奏は、 まさに奇跡のセッションとも呼びたくなるJ-POP史に残る名演だ。ひたすら下へ下へ下がっていくAメロの コード進行も凄い。 60年代のオールディーズサウンドへのオマージュ溢れる「ルージュの伝言」での、シュガーベイブによるコーラスワークも 絶品。軽快なパーカッションとツボを押さえたギター、少しジャジーなピアノに同じく絶品としか言いようがないコーラスが 被さる「少しだけ片想い」は、この時期の「ユーミン・チーム」が作り上げたサウンドのある種の決定版だ。 チャップリン映画の劇伴のようなコミカルなアレンジの「チャイニーズスープ」は、 そのシュールで奇妙な歌詞ともあいまって楽しい。R&B風のしっとりとしたグルーヴが心地よい「雨のステイション」も味わいが深い。

  そうしたポップスの華やかさだけではなく、「空と海の輝きに向けて」や「瞳を閉じて」 の系譜を受け継ぐ「航海日誌」では前2作にあったノスタルジーとセンチメンタリズムを感じさせるし、 今では学校の教科書にも載っている名曲「卒業写真」も収録。誰もが思春期のままではいられない、 誰もが望む望まないに関わらず変わっていく。そのことを悲しむでもなく、諦観に結び付けるでもなく、 独特の感傷を持って描いたこの曲はやっぱり永遠に聴き続かれてほしい名曲。

  「ひこうき曇」からこのアルバムまでの3枚は、どれも甲乙つけがたい、J-POP史を 語る上で欠かせない3枚だ(結局全部5つ星つけちゃいました・・・)。ユーミンとその周辺の人脈によって 80年代・90年代へ続く日本のポップスが形成されていく過程を記録した歴史的な3枚なのだ。3枚全て、 聴いておいて得こそすれ損はないです。


「YUMING BRAND」 (1976.6.20) ★★★★
1.あの日にかえりたい 2.少しだけ片想い 3.やさしさに包まれたなら 4.魔法の鏡 5.ルージュの伝言 6.12月の雨 7.瞳を閉じて 8.きっと言える 9.ベルベット・イースター 10.翳りゆく部屋

  「ひこうき雲」〜「コバルトアワー」の3枚からセレクトされた曲と、 シングルヒットした「あの日にかえりたい」「翳りゆく部屋」を収録したベスト盤。 まあその3枚のアルバムは入ってる曲全部が名曲だし、ベスト盤作るならその3枚セットにして 3枚組で出さなきゃいけないようなもんなので、ベスト盤って呼ぶのもどうかと思うし、 これを聴くくらいなら3枚全部聴かなきゃならないので、アルバムとしての価値はあんまりない(発売当時は バカ売れしたみたいだけど)。ただ「あの日に〜」と「翳りゆく部屋」が収録されているアルバムは(公式盤では) しばらくこれしかCDで出ていなかったのでそういう意味で貴重ではあった。 そしてその2曲がまた例に漏れず名曲なため、なおさら聴かないわけにはいかない。

  「あの日にかえりたい」はドラマの主題歌になったこともあって、 この時期のユーミンナンバーでは最も歌謡曲的な、ドメスティックな感じのメロディだが、 ボサノバ風のシックなアレンジがやはりユーミンならでは。当時ハイファイセット在籍の山本潤子の コーラスもドンピシャという感じ。「青春の後ろ姿を〜」の部分、メロディーと歌詞のハマり具合が抜群でグッと来てしまう。

  イントロから鳴り響くパイプオルガンが印象大な「翳りゆく部屋」は、「どんな運命が愛を遠ざけたの 輝きは戻らない 私が今死んでも」と珍しくどん底な歌詞で別離を描いたとことん暗い曲。 過剰なほどドラマチックなサウンドも当時のユーミンナンバーの中ではかなり異色。 しかしこの暗さが結構癖になる。教会音楽的なサウンドとメロディーが、 思春期特有の「死の聖性」「死への憧れ」を思わせ、「ひこうき雲」にも共通する匂いを漂わせる。 こういった死をある種神聖な憧れの対象として描く作風は、後のユーミンでもたびたび現れる。 ユーミンのトリビュートアルバムで椎名林檎がこの曲をカバーしたというのも、なんだか 納得してしまうものがある。


「14番目の月」 (1976.11.20) ★★★★
1.さざ波 2.14番目の月 3.さみしさのゆくえ 4.朝陽の中で微笑んで 5.中央フリーウェイ 6.何もなかったように 7.天気雨 8.避暑地の出来事 9.グッドラック・アンド・グッドバイ 10.晩夏(ひとりの季節)

cover   独身時代・荒井時代最後のアルバム。 ロック調の「14番目の月」、思いっきりサンバに走った「避暑地の出来事」といった 弾けた曲もあるにはあるが、全体的には「さみしさのゆくえ」「朝陽の中で微笑んで」「何もなかったように」 「晩夏」などの、ある種の無常感や空虚感の漂う暗いイメージの楽曲も目立ち、ポップな曲と暗い曲の 落差が激しい不思議なアルバム。「朝陽の中で〜」などはドメスティックなフォークの持つ湿っぽい暗さが あって驚いてしまう。当時ユーミンは精神状態があまり良くなかったらしく、 「このアルバムで引退」ってことも考えていたらしいので、暗いムードの曲はそういった心情を反映 していたのかもしれない。

  前3作のように「収録曲全部が名曲」とはいかないのだが、それでも名曲・名演は多いです。 冒頭の「さざ波」がいきなりいい。軽快にスウィングするピアノとリズム、爽快な風のイメージを喚起する ストリングスとコーラスが一体となって、カラッと乾いた夏を思わせる絶品のアレンジだ。 ユーミンの中でもメジャーな楽曲に入るだろう「中央フリーウェイ」は、バーチャルな恋愛体験を 小説のように紡ぎあげリスナーに体感させる、後の松任谷由実作品への布石とも言うべき作品。 実際には中央高速は「フリーウェイ」ではなかったりするのだが、ユーミンが描けばそれは 理想のデート・スタイルとしてリスナーに憧れを抱かせる一つのストーリーになってしまう。 恋愛の教祖として君臨する80年代のユーミンの原形がここにあると言っていいかも。

  オールディーズ風のノスタルジックな3連バラード「グッドラック〜」も荒井時代の名曲の一つ。 昔の恋人に偶然出会う所から、曇ったバスの窓に「グッドラック・アンド・グッドバイ」と書いて別れる場面までを 心象と風景をバランス良く織り交ぜながら3分半のポップスの中で描き切った、まるで一本の映画を見るような 見事すぎる作品。こんなにも映像が目の前に鮮やかに浮かんでくる楽曲もあまりない。作家としてのユーミンの 凄さを思い知らされる一曲。


「紅雀」 (1978.3.5) ★★☆
1.9月には帰らない 2. ハルジョオン・ヒメジョオン 3.私なしでも 4.地中海の感傷 5.紅雀 6.罪と罰 7.出さない手紙 8.白い朝まで 9.Laundry-Gateの想い出 10.残されたもの

  松任谷姓になって初のアルバム。 自ら荒井時代との差別化を意図したのかどうか、全体的にぐっと落ち着いた、アダルトな作風に驚かされる。 ミディアム〜バラードが多く、アレンジにしても「9月には帰らない」のしっとりとしたストリングスサウンド や「ハルジョオン・ヒメジョオン」のフォルクローレ風、さらにラテン、ボサノバなど荒井時代の 華やかなポップスとはかなり一線を画している。荒井時代からユーミン・サウンドを支えてきた ティン・パン・アレーが参加した最後のアルバムだけど、サウンドの質感は荒井時代のものとは 全く異なっている。

  さらに歌詞に関しても、別れや孤独の感傷を歌った内省的で暗めなものが多い。 ついでに言えばユーミンのボーカルも、あえて抑えた冷めた響きを伴っている感じ。 結果アルバム全体のイメージは、結婚して最初のアルバムとは思えないほど地味。 前作「14番目の月」に続く作品としては、むしろ次作「流線形'80」のほうがしっくり来る。 荒井時代から松任谷時代への仕切り直しの狭間に産み落とされた異色作と言えそうだ。

  個人的にはこのアルバム、しばらくの間全く良さがわからず、 ほとんど通して聴く機会の無い作品だったのだが、最近になってこのアルバムのもつシックで エキゾチックな雰囲気と全体の統一感も悪くないと思えてきた。特に冒頭の「9月には帰らない」 「ハルジョオン・ヒメジョオン」はサウンドとメロディ、歌詞の落ち着いた統一感が素晴らしい。


「流線形'80」 (1978.11.5) ★★★★
1.ロッヂで待つクリスマス 2.埠頭を渡る風 3.真冬のサーファー 4.静かなまぼろし 5.魔法のくすり 6.キャサリン 7.Corvett 1954 8. 入江の午後3時 9.かんらん車 10.12階のこいびと

cover   前作「紅雀」の地味さを払拭するポップで明るいアルバム。 荒井時代の「コバルトアワー」を思わせる弾けたポップさがあり、 松任谷時代初期の傑作としてフェイバリット・アルバムに挙げる人も少なくない。 「ロッヂで待つ〜」や「真冬のサーファー」といったリゾート・ソングも顔を出し、 後の名盤「SURF & SNOW」に繋がる匂いもある。まだ80年代までは1年ちょっと早かったのに、 タイトルを「80'」とした辺りには、自分が日本のポップスを牽引しているという自負を感じる。 常に時代を先取りし、歌から流行を生み出す力を持っていた80年代のユーミンを早くも思わせる、「らしい」タイトルである。

  前半の5曲はイヤー・キャッチの強い、ポップな楽曲が並ぶ。 「ロッヂで待つ〜」「真冬のサーファー」「魔法のくすり」は、荒井時代のオールディーズ的な感触が復活した感じ。 「静かなまぼろし」はメロディーとアレンジが凄くドラマチック。「昔の恋人を偶然見かけたけど、 声をかけられなかった」というシチュエーションは名曲「グッドラック・アンド・グッドバイ」 と同じだけど、曲調のせいもあってこっちの方がずっと感傷的で切ない。 スティービー・ワンダーの「Another Star」を思わせるスピード感のあるメロディーとスリリングなアレンジ が印象的な「埠頭を渡る風」は、ライヴでも何度も演奏されている名曲の一つ。 「埠頭を渡る風を見たのは」「街の灯りは 遠くなびくほうき星」「白い吐息が闇の中へ消えていく」 「青いとばりが道の果てに続いてる」「ゆるいカーブであなたに倒れて」 と、言葉にもスピード感があり、歌のシーンを鮮やかに目の前に立ち上らせる視覚的な歌詞は やはり見事としか言いようがない。自らのライヴを「ヴィジュアライヴ」と称していたことが象徴するように、 ユーミンというのはいつも、聴覚だけでなく視覚的、映像的に訴えかける音楽を作る天才だったのだ。

  レコードで言うとB面にあたる後半は、前半に比べると地味めだが、ファンの間では人気の 高い隠れた名曲が多い。代表的なのがB面1曲目にあたる「キャサリン」。 「人はみな時とともに変わってしまう」ことを歌った曲は「卒業写真」があったが、 曲調的には全く風味が異なり、あくまでクールなメロディー、アレンジ、歌唱が独特の 苦味を感じさせる楽曲に仕上がっている。アルバムの中でもハードな印象で、カッコイイ曲。 来生たかおとのデュエット曲「Corvet 1954」は、カーペンターズあたりのアメリカンポップスを 思わせるリラックスしたアレンジが楽しい。歌詞に「流線形」と出てくる事から、 一応このアルバムのタイトルソング的な存在と思われる。

  コアなファンの間ではめちゃめちゃ人気が高いらしい「かんらん車」。僕はそれほど思い入れはないけど、「埠頭を渡る風」と同じく映像的な歌詞が 美しい。「私だけ冬空の旅人 地上に戻ると世界が止まる」こんなに美しく観覧車を描いた歌って ほかにないんじゃないだろうか?押し引きのコントラストをはっきりさせたアレンジもいい。 ラストの「12階のこいびと」はボードヴィル調の軽快な曲だが、最後の最後で 「もしあなたが目の前から消えてしまったら ここは12階 窓を開けて舗道めがけ紙のように舞うわ」という物騒なフレーズが飛び出し、びっくり。 ここで初めて、ボードヴィル風のアレンジとシュールなヨーロッパ映画風の歌詞が絶妙にマッチしている ことに気がつく、味な1曲である。


「OLIVE」 (1979.7.20) ★★☆
1.未来は霧の中に 2.青いエアメイル 3.ツバメのように 4.最後の春休み 5.甘い予感 6.帰愁 7.冷たい雨 8.風の中の栗毛 9.稲妻の少女 10.りんごのにおいと風の国

cover   前作の後で聴くとかなり地味に感じるアルバム。 松任谷姓になってから80年代までのユーミンは、一作ごとにめまぐるしく作風が変わる。 そこがユーミンの凄さでもあり、「アルバムを全部聴きたい」と思わせる要因でもあるんだけどね。 ファッション雑誌を摸したジャケットも含めて、どこかヨーロピアンな匂いのする作品でもある。

  パッと聴きは地味な印象のアルバムだが、 98年のベスト盤「Neue Musik」の中で最も意外な選曲に思えた「青いエアメイル」や、 「Frozen Roses Tour」で演奏されてファンを歓喜させたという「ツバメのように」などの 隠れた名曲もある。特に「ツバメのように」は飛び降り自殺した女性をクールに描いた異色中の異色作で、 「誰かが言った あまり美人じゃないと」「彼女は年をとらず 生きいていく私には綺麗だわ」 といった歌詞が嫌でも印象に残る。こうしたユーミンのシュールな一面は、「時のないホテル」あたりまでの 第2次ユーミンブーム前のアルバムに顕著で、ある程度ユーミンを聴き込んでからこの時期のアルバムを 聴くと独特の魅力があるものである。そういう意味では、この時期のアルバムは中級者以上向け、 って感じかも。

  高校を卒業し、大学や会社に入るまでの休みに着目した「最後の春休み」も佳曲。 学生時代への惜別を歌った歌詞が懐かしさと郷愁を誘うアレンジに包まれて独特の切なさを感じさせる。 僕自身は高校卒業後の休みは別に何も意識しないで過ごしてたけど、「たまに電車で目と目が合っても もう制服じゃない」 なんて歌詞は、言われてみれば確かに、って感じだ。 だいたい「最後の春休み」ってタイトル自体、優れたキャッチコピーみたいな鮮やかさ。 ここらへんの着眼点の鋭さはやっぱり凄い。

  研ナオコに提供した「帰愁」も、ユーミンナンバーの中ではかなり異端な作品。 サイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んでいく」を連想してしまう民族音楽風のイントロや、 歌謡曲風味の強いメロディーなど、かなりアクの強い作品。 この民族音楽風味のアレンジは、アルバム「KATHMANDU」の「Take Me Home」などでも見られるが、 アクが強さという点ではこれがダントツ。 そのほかの後半の曲はあまり引っかかる曲がないのだが、前作の「真冬のサーファー」 の続編のようなサーフィンソング「稲妻の少女」のコーラスワークがいい。


「悲しいほどお天気」 (1979.12.1) ★★☆
1.ジャコビニ彗星の日 2.影になって 3.緑の町に舞い降りて 4.Destiny 5.丘の上の光 6.悲しいほどお天気 7.気ままな朝帰り 8.水平線にグレナディン 9.78 10.さまよいの果て波は寄せる

cover   個人的には前作「OLIVE」に輪をかけて地味な印象のする作品で、 「紅雀」や「SURF & SNOW」と並んで最も聴かないアルバムの一つでもある。でもコアなファンの間ではなかなか 人気の高いアルバムのようだ。ユーミン自身は「ミスリム」以来久々の「私小説的なアルバム」 と語っていて、 1曲目の「ジャコビニ彗星の日」には「1972年10月9日」など具体的な描写が登場するし、 タイトル曲では美大時代のユーミン自身を描いている。「私小説」というテーマもあってか、 そう言えばどこかフォーキーな感じのするアルバムでもある。

  このアルバムで最もメジャーな曲は4曲目の「Destiny」。 シングルカットされていないにも関わらず圧倒的なファンの支持を集め、コンサートでは 本編終盤やアンコールでほとんど欠かさず演奏されている。 ロック調のアレンジやキャッチーなメロディーは、このアルバムのみならずこの時期のユーミンナンバーでも 抜群にポップだし、ショートショート風のオチ(「今日に限って 安いサンダルを履いてた」)までついた歌詞も見事。 なぜこの曲がシングルカットされなかったのか不思議でしょうがない、完璧な一曲。

  盛岡市のテーマソングとして書かれたという「緑の町に舞い降りて」は 5月の鮮やかな緑と爽やかな風を感じさせるアコギとピアノのシンプルな響きが胸を打つ曲で、 この曲を聴くとわけもわからず涙が出そうになる感覚がおそってくる。僕は盛岡に行った事はないけど、 おそらく美しい街なのだろう。是非一度実際に盛岡の街並でこの曲を聴きたいと思っている。 アルバム中もっともクールな印象の「影になって」は、メロウなソウル、もしくはR&Bといった感じの 雰囲気でかっこいい。アルバム終盤の「78」は、外人男性のコーラスも飛び出すファンキーなロックで、 タロットカードをモチーフにした歌詞が一風変わっている。私小説的というこのアルバムに、こういう 異端な曲がポンと入っているのも面白いと言えば面白いかも。

  タイトル曲「悲しいほど〜」には、「ずっと一緒に歩いていけるって 誰もが思った」という歌詞があり、 デビュー以来描き続けている「時間の経過と人や物のうつろい」というテーマがここでも登場しているが、 「丘の上の光」のラストに登場する「素敵な光ほど うつろうのだから」というフレーズは そんなユーミンの「時間観」を見事に言い表した一節だと思う。 バブル崩壊を言い当てた楽曲としては88年の「ダイアモンドダストが消えぬまに」が有名だが、 今にして思えば、その10年近くも前に書かれたこのフレーズで既に、即物的な物質主義や快楽主義の脆い本質を ズバリ言い切ってしまっているようにも思える。




[2]「時のないホテル」〜「ALARM a la mode」

[3]「ダイアモンドダストが消えぬまに」〜「KATHMANDU」

[4]「Cowgirl Dreamin'」〜

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