イカすぜ!!オレの白血球
小さい頃なぜかよく爪の周囲にバイ菌が入って化膿した。
毎日指を見てると、最初は数ヶ所に点在していた膿(うみ)がだんだん広がって最後は一つにつながる。そのうち表面の薄皮が割れて緑色の膿が全部出てしまうと後は元どおりキレイに治る。
緑色の膿は、侵入してくる細菌と戦った白血球のなれの果ての姿だ。白血球は血液中を泳ぎ、外からのバイ菌などを見つけては戦って食い尽くす。そして最後は膿となって体外に排泄される。
膿といえば「汚い、気もち悪い」モノとして扱われるが、僕たちが様々な細菌に囲まれて生活しているにもかかわらず身体を守っていられるのは白血球のお陰なのダ。感謝…。
この前も口の周りにニキビのような膿ができた。ヒゲそり後の切り傷が化膿したんだろう。
「白血球たち、今日もご苦労さんだな。よろしく頼むぞ…」
心の中でそんなことをつぶやいた日の夜、僕は不思議な夢を見た。
なんと、僕が僕の体内で活動する白血球軍団の一人(というか一匹というか…)“パクちゃん”と夢の中で出会い、そして話をしているのだ…。
以下はその時の“パクちゃん”の語録…。
…え、俺に何か用かい?、俺は忙しいんだ、用があるなら手短にたのむぜ。
なんだって?ヒゲそり後の傷を治してもらった礼が言いたいだって…?
やめてくれよ、礼を言われるようなことは何もしてやしねぇよ。
俺たちはただ、自分のやりたいことをやってるだけさ。
誰のためでもない、俺たちはただ思う存分戦えたらそれで本望なんだ。
アンタを守るために戦って死ねたら…それだけでいいのさ。
とは言っても勘違いしねぇでくれよ、俺たちがアンタを守るのはなにもアンタのためじゃぁ無ェ。
もちろん、俺たちを生んでくれたアンタにゃとても感謝してるんだ。
ただ俺たちはアンタという“大地”から生まれ、アンタの中で生き、死んで、またアンタという“大地”に返る。
そう…俺たちはアンタの中でしか生きられない。“大地”を守ることが自分を守り、仲間を守ることにつながる…。
俺たちはそれを知ってる、だから戦うのさ。
俺たちはアンタと一心同体だ。アンタが元気だと俺たちも不思議なパワーをもらって強くなるんだ。仲間の数もなぜか増えちまう。
“いのち”ってのぁ、ほんと不思議だよなぁ…。
えっ?「赤血球」のことをどう思うか、だって?
何を聞くのかと思えば…フフッ。それぞれ役割ってのがあるだろ?
俺たちとよく似た名前で呼ばれてるようだし、同じ血液の中を一緒に泳いじゃあいるけど、アイツらとは生き方が違うんだ。
アイツらはアイツらで自分のやりたいことをやってるだけだから、別に何とも思わねェよ。
でもお互い気付いてるんだ。それが自分たちの役割…カッコよく言やぁ“使命”だってこと。そして役割は違っても目的はみな同じだってことも…。
だから俺たちは互いにいつでも調和してる。赤血球だけじゃ無ェ、アンタの中で共に生きてる細胞すべてとさ…。
みんな役割は違っても目指しているものは同じ…。アンタという“世界”の中で自分らしく生きること、そしてそのために調和を守り続けること…それだけさ。
難しいことはわかんねェけどよ。自分の心の声を聞いてさ、本当にやりたいことが見つかりゃあ、それが自分の使命じゃねぇか…って思うんだ。アンタもそう思わねェかい?
だから俺たちもアイツら赤血球も「使命」なんて言葉すら必要無ェ…。
本当にやりたいことを見つけてそのために死ねりゃあ、こんなシアワセなことないさ。
アンタが本当に言いたいことはわかってる。だけどどこへいっても酸素を運んで歓迎され、大事にされる赤血球と比べて、戦って死ぬだけの俺たちをカワイソウだなんて思うのはアンタの見当違いだよ。
俺たちは生まれながらの“戦士”なんだ。
どんなに傷ついても俺たちは戦ってる時がいちばん輝いてるのさ。
でも、これだけは判ってくれ。俺たちゃあアンタたち人間と違って、戦う相手を決して間違えたりしねぇ。
たとえ生き方が違っててもアンタという同じ“大地”から生まれ、アンタが必要としているヤツらとは絶対に戦わねェ…。
仲間同士で戦えば“大地”が壊れていく。だから仲間とは絶対に戦わねェ。
アンタたち人間とは一緒にしねェでくれよ…。
ま、アンタのことは信用してるけどよ。
確かに“道を間違えるヤツ”ってのはどこにでもいるさ。
アンタたちが「ガン細胞」って呼んでるヤツら…。
俺たちゃ毎日アンタの気付かねェ所でヤツらと戦ってるんだよ。悪い芽は小さいうちに摘まないとな。
でも考えてみりゃ、一番カワイソウなのはヤツらかも知んねェな…。
ヤツらだって自分たちのやりたいことを精一杯やってるだけなんだ。
元々は俺たちの仲間だった連中…どこでどう間違えたのか…。
ヤツらの目的は「世界征服」…アンタの中に“帝国”を作ろうとしてる。
でも皮肉じゃねェか。“帝国”が完成した時がヤツら自身の最期の時でもあるわけだ。わかるだろ?
もちろん俺たちも、そしてアンタ自身もすべて最期さ。
つくづく業(ごう)の深い、悲しい連中だよ…。
ま、そうならねェためにも、俺たちにもっともっとアンタの元気を分けてくれよな。
誰に認められなくてもいい。俺たちにゃぁ“アンタを支えてる”っていう誇りがあるんだ。
生きて、精一杯戦って、ボロボロに傷ついて、死んだ後に屍(しかばね)を“汚い”と言われても、アンタを守ることができりゃあ仲間はまた生まれるさ。
ただしアンタも無茶はいけねぇぜ。
俺たちは戦士だけど、必要の無ェ戦いまではしたく無ェからさ。
え、俺の名前だって?そんなもん無ぇよ。
俺たちゃ名も無ェ戦士。アンタが元気でいてくれたら、それが俺たちの勲章さ。
たとえ一時でもアンタが俺のことを気にかけてくれただけで十分…。
おっと…今アンタの左肩甲骨のBQ1024地区に細菌が侵入したって情報が入った。ひとっ走り行って叩いて来らぁ。今日は楽しかったぜ、生きてたらまた会おう。じゃ、あばよ…!!。
そう言い残すと彼(=口振りが男だったので…?)は夢の中に消えていった…。
ううっ、なんてカッコいいんだ…。泣かすじゃねぇか、イカすじゃねぇか…。
僕なんかよりずっと世界を判ってるよ、お前たち。
僕もこんなふうに自然と調和しながら自分の使命を見つけられたら…。
僕は彼と出会えた記念に、せめて無名の戦士に名前を付けてあげることにした。
白血球の「白」をとって“パクちゃん”…どうだ、いい名だろう。
翌日、背中の肩甲骨の近くに小さなニキビのようなものが一つ、できていた。
パクちゃん、ありがとう…。
(パクちゃんの独り言…)
名前を付けてくれるのは有難ェけどさぁ、もっと戦士らしく強そうな名前は無かったのかよォ…!?。