世界怪魚釣行記 TOP BLOGアマゾン編
ブラジル釣行1 2003年11〜12月
アマゾン釣行記「ジャングルファイト」
 8年間思い焦がれたアマゾンに来たはいいけれど、世の中そんなに甘くないぜっ! 「ドラドは禁漁…」「小手調べで挑んだパラナ川、日本の方がまだ釣れます…」、「あぁ、遥かなるアマゾンよ! 早いとこ俺に微笑んでくれぇ〜!」と嘆く日々。しかし、最後の最後、遂に18lbオーバーの怪物ピーコックバス捕獲!
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Jungle Fight 序章
 あれから1ヶ月以上が過ぎてしまった。たった1ヶ月前のことなのに、アマゾンにいたことが遠い昔のことのように思えてならない。今、窓の外は白銀の世界。そんなことは秋田人には当たり前のことだが、いつも以上に薄ら寒く目に映ってしまうのだ…。ピンクイルカが跳ね、ワニが目を光らせ、ナマケモノがうたた寝をする。そんな世界で毎日毎日ロッドを振り続けた。爆発する水面、絞り込まれるロッド、歓喜の絶叫、そのどれもがこの街にはない。「皆無」。「興奮」から隔絶された、まるで死んでるような街だな…。俺が死んでいる様に生きてるだけなのか?
 そんなことはどうでもいい。正直、まだ釣行記なんて書く気も起きないけど、はやく過去の事にしてしまおう! 退屈過ぎて死んじゃう前に…。
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 8年間抱き続けていたアマゾンへの思いを遂げるべく、俺は2003年11月アマゾンに旅だった。しかし、日本から見るとなにしろ地球の裏側だ。とんでもなく遠かったのだ。秋田から東京まで夜行バスに乗り、空港で黄熱病の予防接種受ける。成田からニューヨークまで11時間、飛行機の乗り換えのため5時間の足留め、そしてサンパウロに向け再び8時間のフライト…。アホみたいに単純なアメリカ映画を目が霞むぐらい繰り返し見て、いっそのことハイジャックでもおこらんかなと思った頃、飛行機は「ズドーン」と新大陸に着陸した。長時間のフライトの疲れと、予防接種の副作用によるジンマシン、そしてなにより、すぐに釣りができるわけではないのだ…。これから「見知らぬ土地」で「知らない言葉」を覚え、「まだ見ぬ魚」を釣らなくてはならない。心はブルー、足取りフラフラ、「あ〜遥かなるアマゾンよ! 早いとこ俺に微笑んでくれぇ〜!」。
 しかし、そんな憂鬱な気分はすぐに吹っ飛んだ。飛行機を降りると空は青く、太陽に照らされた大地がキラキラ輝いていたからだ。「たぶんうまくいくだろう」、いつものように根拠のない自信が湧き起こり、俺はタバコを1本吹かしタクシーに乗りこんだ。
 向かった先はサンパウロの中心部、リベルダージ地区。ここは東洋人街で、日系人がたくさん住んでいるらしい(「なんせ俺はユーラシアしか歩いたことがないので、新大陸に多少の不安を抱いていたのよ。ポルトガル語も全然わからないしね…」)。タクシーは「割りと整然とした道路」を「暴走族のように無茶苦茶な運転」で走り抜け、30分ぐらいでリベルダージ地区に入った。驚いたことに日本語の看板がかなり立ち並んでいる。そして日系人らしき姿がチラホラ、道路には真っ赤な鳥居がそびえ立っていた。「これなら日本語も通じるだろ」と安心しながらも、日本とそれほど変わらぬ風景にちょっとがっかりしながらホテルにたどり着いた。「ふぅ〜、長かったなぁ…」。

 しかし、その日のうちに、俺の焦りとは裏腹に事態はあっというまに進展したのであった! それは部屋に鍵を閉め散歩に出かける時のことだった。「こんにちは〜」という声に振り向くと初老の日本人がニッコリ微笑んでいた。彼の名前はKさん、35年前にブラジルに来てコーヒー農園を始め、現在は金融関係の仕事についているそうだ。話しは弾み、しばらくして「なんでブラジルに来たの?」とKさんが訊ねた。俺が「釣りです!」と答えると、「僕も釣りが大好きでね〜」と目を細めるではないかっ! そしてKさんはアマゾンで大型ナマズと闘った時の武勇伝を話し始めた。そのあまりにオーパな内容に、俺は脳みそがとろけたような笑みを浮かべてたのは言うまでもない…。
 さて、出会ってニ時間後、俺達はとあるビルに向かった。ここには日系の人材派遣会社があり、社長さんは大の釣り好きらしいのだ。俺は「パンタナル湿原のドラド」について情報を得ようと思っていた。事務所の奥に通され、しばらくすると社長さんは現れた。割腹の良い彼はまるで「マフィア映画に出てくるボス」のような風貌、しかし日本人の俺を優しく歓迎し、昨年パラグアイで釣ったドラドの写真を見せてくれた。それには大型のドラドがずらりとぶら下がって写っていた。いてもたってもいられなくなった俺は早速本題を切り出した。「実はパンタナルでドラドを釣りたいのですが…」、しかし社長さんから帰ってきた言葉は、「君ネェ〜、今はパンタナルは全面禁漁ダョ〜。2月まで釣りできないヨォ〜」。なんてことだろう、夢にまで見た「黄金の虎」、釣りをすることもできないのか? そんなことも知らずに遥々やってきた俺って、あぁマヌケ…。

 失望する俺を見かね、Kさんは「サンパウロで一番大きな釣り店に行こう!」と誘ってくれた。地下鉄に乗り7駅目、大通りに面してその釣り具店はあった。看板を見ると「SUGOI BIG FISH」、「え!ここって村田基さんのビデオにでていた店なの?」、思ってもみなかった発見に禁漁ショックは吹き飛んだ!
 中に入ると凄い品揃えだ! シマノ・ダイワのリールがズラリと並び、ルアーの品揃えも半端じゃなかった。ブラジル製はもちろん、ラパラ・ボーマー・ヘドン・ルーハージェンセン、日本製もサラナ・アスリート・ウォータランド、マリアのミスカルナやチッカボッカに関しては全色が揃っていた。そして、なんと言っても目を奪われたのが巨大水槽で泳ぐピーコックバスだ! 実際に初めて見るピーコは本当に綺麗な魚だった。「あぁ、早く釣りしたいなぁ〜」、俺はその水槽にしばらく釘付けになった。
 しばらくすると店の支配人が現れた。彼の名はウィルソンさん、日系ニ世でもちろん日本語はペラペラ、村田さんが訪伯した際、アマゾン釣行を手配した人物である。彼も大の釣り好きで話しは尽きなかった。そして次ぎの日、彼の案内で釣りに行くことになったのだ。「とうとう釣りができるぞぉ〜!」
サンパウロの「ニッケイ新聞に取材されちゃいました。ニッケイ新聞は日系人向けの日刊紙で(ブラジルには130万人の日系人が住んでいます)、リベルダージ地区に編集部を構えています。そこで働く日系人Mr.サカグチと知り合い、取材に至った訳です。
 それにしても「紀宮さんのウルグアイ訪問」と「世界の怪魚釣り」の記事が並んで掲載とは…汗。記事を読みたい人はココ
村田さんのアマゾン釣行に必ず登場する「謎のブラジル人ネルソンさん」。番組ではひょうきんな三枚目に甘んじているけど、なかなかのナイスガイ! もともとはスヌーク釣りのチャンピオンだったそうで、今やブラジルナンバーワンのフィッシャーマン!(ピーコックの最大記録は9kg台だって!)。ハードスケジュールの中、お世話頂きありがとうございました! 次ぎの日、彼はネグロ川に旅立っていきました!

 そして翌早朝、ウィルソンさんはホテルまで迎えに来てくれた。「ボンジーヤ(おはよう!)」、覚えたてのポル語であいさつをして、彼の運転する日本車に乗りこんだ。彼のオススメは2ヶ所、ひとつは山間にある湖。ここはプライベートレイクで、数年前からバスが放流されているそうだ。しかし、地球の裏側にまで来てバス釣りをするのもアホな話である。ブラジル人のバッシングスタイルに興味はあったが、辞退することに…(ブラジル人も常吉やスプリットをよく使うそうです。オーパ…)。もう一つは会員制の釣り堀。ここにはドラド・ピーコックバス・タイガーショベルノーズ、その他にもたくさんの魚がいるとのこと。釣り堀には少し抵抗を感じたが、バスを釣るよりはマシだ。とにかくアマゾンの魚に会いたい、小手調べを兼ねてそこへ向かったのだった。
 しかし、これが予想外に面白かったのだ! ドラド用に渡されたのは冷凍ソーセージとワイヤーリーダー付フック、そして派手で巨大なウキ。「なんだこれ? ドラドってソーセージで釣るもんなの?」と戸惑う俺。しかしその釣法はさらなる驚きを秘めたものだった!
 巨大ウキはカプセル状で、中に餌を仕込めるようになっていた。そこに鯉用の固形餌を詰めこみ、キャストをする。着水と同時にウキの下部だけが沈み、中から餌が飛び出す。それに外道がバシャバシャと群がる、ドラドが寄って来て食わせのソーセージに食いつくという仕組みなのだ! この釣り方は釣り堀特有のものだろうが、こんな釣法を開発するブラジル人って天才! キャストをする度にアタリが頻繁にあり、ドラド・ピラプタンガ・マトリンシャンがたくさん釣れた。ドラドは30〜40cmぐらいのお子様だったが、アワセと同時に派手なジャンプを繰り返し、大ハシャギをする俺だった。「でもパンタナルのドラドはもっと凄いんだろうな〜。あぁ…。」
 釣り堀ではあったが、すっかり満足した俺達は帰りの車内では話しが弾んだ。釣り話しはもちろんのこと、村田さんのアマゾン釣行秘話、ウィルソンさんの若い頃の武勇伝(彼は昔、フランシスコ.フィリョと同じ道場に所属し、極真空手の世界大会に出場するため来日したそうです。再びオーパ…)、会話はホテルに到着するまで止めど無く続き、楽しい一日は終わった。「オブリガード(ありがとう)、Mr.ウィルソン!」
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Jungle Fight 本編1(パラナ川編)
 5日間滞在したサンパウロを後にし、「エピターシオ」という町に向かった。ここはラプラタ川支流のパラナ川沿いにある小さな田舎町。かつてアマゾン流域からピーコックバスが移入され、今では釣り宿が建ち並ぶまでになったそうだ。ウィルソンさんにポウサーダ(釣り宿)を予約してもらい、653kmの道のりを11時間かけてバスでやってきたという訳。

 そして釣行初日、川辺に立ち朝日を拝む。太陽に薄っすら照らされたパラナ川はとんでもなくデカかった。遠くに霞む対岸、強風のため岸に打ち寄せる大波、それはまるで海の様であった。「大丈夫かな?転覆したらピラニアの餌食か…?」、一抹の不安を覚え、ガイドが運んできたアルミボートに乗りこんだ。
 40分ほど走り、ボートは立木の群集地帯に到着した。見渡す限り木々が立ち並び、水面はここだけ穏やかだった。辺り一面美味しそうなポイントだらけ、無茶苦茶に釣れそうな気配だ! 俺は早速ザラを取り出し、キャストを開始しようとすると…。ガイドがなにやら話しかけてくる。ポル語なのでなにを言ってるのかはっきりわからないが、どうやら「ここら辺のピーコックは小さいので、小型ミノーを使え」と言っているようだ。仕方ない、初めての場所では現地人の言うことを聞いた方が絶対良い。ブラジル製のシャロークランク(6cm)でキャストを開始した。
 立木の群集地帯に精密キャストを繰り返す。しばらくするとグググッとロッドが引きこまれた。ドキドキしながら抜きあげると、それはイエローピラニア(現地名ピラーニャアマレロ)だった。初めて見る人食魚ピラニア、フックを外そうとペンチを口に突っ込むとモノ凄い歯でガチガチと噛んでくる。「怖過ぎるぜ…」、噛まれたら指切断は必至か? オロオロしていると、ガイドがニッパーを取りだし、下アゴを切断してくれた(何もそこまでしなくとも…汗)。その後、ピラニアの襲来は続き、ルアーがどんどんボロボロになっていった。プラスチックボディは噛み削られ、日本製のフックは簡単にグニャグニャ、さすがアマゾンの怪魚である。ルアーをボロボロにするのが大好きな俺は、ピラニアが釣れるたびルアーをうっとり眺めるのであった。
 しかし、釣りをはじめて2時間後、俺はどん底の気分を味わっていた。なぜって? ガイドが釣りに夢中になっていたからだ。このガイドはボートの前方にエレキを取りつけ、自分の好きなポイントで止めて釣りをする。辺りは一面立木だらけでボートがやっと通れるぐらいのスペース、奴が先頭で釣りをしてしまうと、俺がキャストをするポイントが無いのである。それでもしばらく、ガイドが一度ルアーを通した後をもう一度攻めたり、ガイドがバックラッシュした隙をついたりして釣りを続けた。しかし、肝心のピーコックが全く釣れないのである。俺だけならまだしも、先頭に立ち俺の倍以上キャストをしているガイドにもピラニアしか釣れてこないのだ。俺の頭の中では「ガイドへの不信感」、「ガイドのポイント選択への不信感」、「この川のピーコックバスのストック量への不信感」が渦巻いていた…。
 ガイドが言い訳するには、「今日は天候が悪くピーコックが深く沈んでいる」らしい。でもこれほど釣れないものなのか? あきらめムードが高まり、昼食休憩の時間が迫った。そんな時である、孤立する太い立木の根元に落しミノーをトゥイッチで引いてきたその時、ルアーの背後から「巨大な黄色い塊」が凄い勢いで追ってきたのである。ルアーがボートの下まで来たため、Uターンしてしまったが、まぎれもなくピーコックバスだった。しかも60cmはあっただろう。それまで沈みきっていた俺の心がにわかに活気づいたのは言うまでもない。
 そして、この日の夕暮れ時、やっとのことで釣れたピーコックは43cmのミニサイズだった。まさか地球の裏側に来て、ここまで1匹の魚に苦労するとは思わなかった…。
左写真、釣れて来るのはピラニアばかり。あ〜、ウンザリ!
右写真、初めてのピーコックバスは43cmながらその美しさにうっとり!

 その後二日間、俺の気持ちが晴れることはなかった。相変わらずロッドを振り続けるガイド、釣れて来るのはピラニアばかり、おまけに大雨による泥濁りと大風が発生。失望しきった俺は「ビックサイズのピーコックを釣り上げる」という夢をあきらめ、「このガイドにだけは負けてたまるか!」と必至にロッドを振り続けた。しかし、アマゾンが俺に微笑むことはなかった。もちろんアホガイドにも…。ちなみに3日間で俺の釣ったピーコックは2匹、ガイドは1匹。低レベルの闘いを征したことだけを誇りに、夜行バスに揺られサンパウロに戻ってきたのである。地球の裏側まで来てこんなことになろうとは…。「あ〜遥かなるアマゾンよ! もっと俺に微笑んでくれ〜!」。そして、「この愚かなガイドに天罰を!(笑)」。

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Jungle Fight 本編2(ルーズベル川編)
 失意のままサンパウロに帰ってきた俺はウィルソンさんの店を再び訪れた。そこで彼が取り出したのは「ポウサーダ リオルーズベルト(釣り宿ルーズベルト川)」と書かれている1枚のパンフレットだ。覗いて見ると「人間サイズのピライーバ・ピーコックバス・牙魚カッショーハ」、そこには俺が憧れ続けた怪魚の写真がズラリと並んでいた。
 ウイルソンさんが提案するには、「近々3人のブラジル人が釣行するので合流してはどうか」というものだった。しかし、値段は1週間1500ドル。バックパッカーにとって痛い出費である。また値段もさることながら、これはツアーフィッシングである。今まで自分が否定してきた殿様系、正直心苦しかったのは言うまでも無い。


 でも…、誘惑に負けちゃったぁ〜! だって8年間も憧れ続けたんだよ!たまにはラクさせてよ〜(笑) 

 それから数日後、俺はサンパウロから飛行機を乗り継ぎ、ポルトベーリョという小さな街に降り立っていた。ここはアマゾン川支流「マディラ川」の岸辺にある田舎町だ。ジェット機で3時間を費やして来ただけあり、サンパウロとは全く違う空気が流れていた。ねっとりと体にまとわりつく熱帯特有の風、密林に囲まれた不気味な街並み、いよいよアマゾンに近づいたことを強く感じた。ここからセスナに乗ってルーズベルト川に向かうのだ!
 荷物を待っていると初老のブラジル人が話しかけてきた。「ジャポネ〜、ペスカ、ペスカ」、ポルトガル語なのでほとんど聞き取れないが、どうやらツアーの参加者らしかった。お得意のインチキ言葉でしばらく会話をしていると、他の二人の参加者も合流。この中の2人は英語が達者だったため、お互い自己紹介が始まった。
 ここでブラジル人3人の同行者を紹介しておこう! 先ずは、俺に初めに話しかけてきたのが「ジョーさん」。イタリア系らしく無邪気なぐらい陽気で、子供のように喜怒哀楽がはっきりしているおじいちゃん。そしてジョーさんの親戚「フランシスコ」。よく食べ、よく笑い、何事にも大げさなお騒がせ男、プロレスラーのように巨漢だ。もうひとりは黒人系の「マッシャード」。寡黙でその表情には知性が感じられる、ナマズ釣りに執念を燃やす男だ。
 そして、いよいよセスナに乗りこみ、ルーズベルト川に向かう時は来た! 荷物をすべて積みこみ、俺達4人とパイロットが乗りこむと足の踏み場もないくらい狭かった。超巨漢のブラジル人達に囲まれ、身動きができずとにかく暑かった。「こんなんで本当に飛べるのかよ?」、飛行機嫌いの俺は内心ドキドキしていた。
 しかしエンジンはうなりをあげ、滑走路を勢い良く走り始めた。と、その時である。今まで超蒸し暑かった機内に風が飛びこんできた。「うぉっ、涼しいぃぃ〜」、前方を見ると、暑さに耐えかねたフランシスコがドアを開けていた…。今まさに飛び立とうとしている時にである。パイロットに怒られ事無きを得たが、不安だった…。この人達、本当に大丈夫? 「俺達はこれからアマゾンに行くんだよぉぉ〜!」。

 ポルトベーリョの街が少しずつ遠ざかる。しばらくするとセスナは「緑の地獄」の上を飛んでいた。地平線の果てまで深緑の木々が隙間無く続いている。「墜落したら、救助隊が来る前に獣に食われるだろうなぁ…」、この先に何が待っているのか? この時はまだ、「不安」の方が「期待」を上回っていた…。
狭いです…
(機内にて)

ポウサーダ リオルーズベルト(Pousada Rio Roosevelt)
 ルーズベルト河岸の砂浜にある釣り宿、四棟の客室とレストラン兼くつろぎスペース一棟からなる。宿はジャングルに囲まれ、まるで天国のような雰囲気! 質素だが、自家発電による電気・冷蔵庫・クーラー・ホットシャワー設備があり快適(トイレにはウォシュレットまで…)。釣りの後はピラニアの空揚げと飲み放題のビールで乾杯!殿様気分を味わえるよ!サンパウロからここへ行くには、ジェット機を2回乗り継ぎポルトベーリョへ、そこからセスナをチャーターし3時間。チャーター料金が高額、周辺には何も無いジャングルのため単独釣行は不可能。ここに行くなら「SUGOI BIG FISH」さんに手配してもらうしかない。費用は1週間1500ドル(2003年当時、宿泊・食事・ガソリン・セスナ込み)。

 雲の中を三時間ほどフラフラユラユラ飛んで、木々を切り倒し土を固めただけの滑走路に降りたった。セスナから勢いよく飛び降りると、途端に容赦のない日差しが襲いとにかく暑かった。しかし、そんなことは全く気にならなかった。草木が鬱蒼と生い茂るジャングルを抜け、足取り軽く宿に到着した。荷物をすべて部屋に運び入れると、無性に嬉しさがこみあげてきた。「これからアマゾンで釣りができるぞぉ〜!」、子供のようにハシャギまわり、早速宿を探索する。客室は木々を張り合わせただけの簡素な作りだが、クーラーがあり冷蔵庫には飲み放題のビールがズラリと並ぶ。今までの環境とは大違いの殿様待遇だ。また、レストランには客達が釣り上げた怪魚珍魚の写真が飾られ、期待は最高潮に膨らんだ。「ヤッホォォー!」
 一方、同室となったマッシャードは到着早々釣り道具の支度をはじめていた。尋ねると、昼食後すぐにナマズ釣りに行くという。こうしてはいられない、俺も早速準備に取掛った! 彼のタックルを覗いて見ると、ぶっといジギングロッド、ダイワのBG90(30lb225y)、100lbのナイロンライン、そして針金ハリス付の巨大フックだ。「あんたはサメでも釣る気なのかよっ!?」という大装備だが、アマゾンのナマズにはこれが標準らしいのだ。自分の用意したタックルにいささか不安をおぼえた…。
 簡単な食事をとった後、俺達はナマズ釣りに出撃した。狙いはジャウー・レッドテイルキャット・タイガーショベルノーズ、そして滅多に釣れないという鯰の王様「ピライーバ」である。ヤマハのエンジンを積んだアルミボートで急流を下り、本流域にでた。川幅は200mぐらいだろうか? 流れが複雑にからみ合い得体の知れないものが潜んでいる雰囲気だ。早速仕掛けをセットし、15cmぐらいの魚の切り身を餌にしてキャストをした。仕掛けは30mぐらい飛んで「ドボォ〜ン」と豪快に着水、流れに乗ってポイントに到達した。アタリを待ってる間はやることもなく暇だが、人間サイズのナマズのことを考えると、のんびり構えてもいられないのである。食い入るように竿先を見つめ、ひっそりと静まり返った川に胸の鼓動だけが鳴っていた。
 しかし、ナマズは思ったほど簡単には釣れなかった。アマゾンなんだからアタリが頻繁にあるかと思っていたら大間違い。餌を変えポイントを変え、なんとか40分に一回ぐらい。しかも、この時フッキングのタイミングがまだ良くわかっていなかったので、バラシまくりであった。そして初日はボウズに終わってしまった…(マッシャードは小型のナマズ1匹)。
 しかし、翌日になるとフッキングにもだいぶ慣れてきた。ナマズのアタリは初めにコツコツ小さなアタリが来て、その後大きくゆっくりロッドが引きこまれる。ここで渾身の力をこめてフッキングすれば良かったのだ。そして、前日の悔しさをすべてぶつけるかのような「鬼フッキング」で、ジュンジアという外道ナマズを手にした。アマゾンのナマズとしては小さかったが、そのサイズとは思えない強烈な引き!そしてそのグロテスクな模様を見たとき、高いお金払ってアマゾンにきた甲斐があったと思った。
 しかし、この時から俺の不満は少しずつ蓄積されていた。それは「ルアーフィッシングが出来なかった」からだ。俺がコンビを組んだマッシャード、こいつのナマズにかける情熱は半端じゃなかった。一度キャストをすると片時もロッドを離すことがなく、一言もしゃべらない。それが朝から晩まで続くのだ。「ナマズ釣りこそが男の釣り、ルアーなど子供の遊び道具である」と公言し、もちろんルアー用タックルなど持っていない。宿には2名のボートマンしかいないので、1名はジョーとフランシスコに、もう1名は俺とナマズ男に、ナマズ男と組んだ俺の選択肢は「ナマズ釣り」だけなのだ。俺の当初の計画では、レッドテイルとタイガーショベルノーズを早々に釣り上げ、後はルアーでピーコック・カッショーハを狙うといったもの。しかし、「ナマズはたいして釣れない、ルアー釣りはできない」、俺は船上でビールを飲んで憂さバラシをするようになっていた。
 そして、ある時俺の想いは爆発した。それはナマズ男が餌を回収している時のことだった。船べりまで巻いて来た餌に巨大な何かが「バッシャ〜ン」とアタックしてきたのだ。ロッドがグンニャリ曲がる強烈なファイト、しかしすぐにバレてしまった。一息ついたナマズ男は「カッショーハだったよ!」と一言。「なに?あの牙魚?」、俺はすぐさまルアーロッドを手にし、ラパラのファットラップをキャストした。「まだ遠くには行ってないはずだ!ずっと釣りたいと思っていたあの魚が近くにいるっ!」、俺は何度もキャストを繰り返した。すると、「ゴォゴゴ〜ン」とカッショーハが来たのである! 興奮しすぎて、その後の記憶は曖昧だ。しかし、足元まで浮かした時に確かに牙が生えていた。そして、そいつは反転して逃げ去った…。
 「くそぉぉぉ〜!」、川に俺の絶叫が響き渡る。ナマズ男が「あんなものは屁だ。いつでも釣れるよ!」と慰めてくれるが、俺のショックは大きかった。「凄い引きだった。あれがカッショーハか…」 「ルアーで釣りたいよぉ〜!!」。
 その後、ナマズ男に大きなアタリがあった。極限まで曲げられたロッド、鳴り響くドラグ音、5分ぐらいのファイトの末上がったのは90cmジャストのレッドテイルだった。パンパンに膨らんだ腹、尾鰭の強烈な赤、妖気漂うそのルックス、しばし見惚れる。しかし、俺の頭の中はカッショーハで一色だった…。
 宿に帰る途中、ナマズ男は上機嫌だった。「タケ!お前もナマズ釣りを真剣にやれよ!ピライーバはもっと凄いぞぉ〜!」、ナマズ男が呟いた。鯰男もあの1匹を釣るまで苦戦が続き、苛立つ日々が続いた。久しぶりに見る奴の笑顔は、俺にとっても嬉しいものだった。しかし、明日からのナマズ苦行釣行のことを考えると、不意に涙がこぼれてきた。何年ぶりのことだろう? まさかアマゾンに来て失意の涙を流すことになろうとは…。「ルアーで釣りたいよぉ〜!!」。
珍鯰「ジュンジア」82cm。巨大ナマズを狙っている時によく釣れたけど、ヒョウ柄模様がグロテスクでいいね! 珍鯰「アブトアード」。これも外道だが、体側中央に走る鱗っぽい模様が素敵! マッシャードの釣ったレッドテイルキャットフィッシ。ブラジルではピララーラと呼ばれ、最大で50〜100kgになるアマゾンを代表するナマズのひとつ。

 早朝、俺は一人で川に向かった。オカッパリで「ルアー釣り」をするためだ。前日の夕飯時に少しキレた俺は、「同じお金を払ってるんだから、俺にも好きな釣りをする権利が半分ある!」と言った。しかし、ナマズ男は「タケよ、ナマズこそがアマゾンのナンバーワンだぜ!」と笑うだけ、相手にしてもらえなかったのだ…。確かにアマゾンのナマズは究極のロマンだ。しかし、ボートを使ったそれは、所詮「ガイドに釣らせてもらっているだけ」に過ぎない。ガイドがポイントを選び、釣り人は指差された場所に仕掛けをぶち込み、ボケーと待ってるだけだ。だったら、「俺は自分の魚を自分の力で釣ってやろう」と思った。「アマゾンでヤブコギ?上等だぁ! ワニでもアナコンダでも出てきやがれ!」と思ったのだ。
 そして、一人でトコトコ歩き、岩場の激流域に近づいた時、「バシャバシャバシャ〜」、小魚が何かに追われているのを見つけた。すかさず友人のDOZさんが作ってくれた「オリノコモンスター」をキャストし、ワンアクションを加えると、「バッシャーン」と何かが飛び出した。興奮しながらガンガン巻く、しかし引きは結構強烈だ。バレはしないかとハラハラしたが、数十秒後にはピーコックバスが目の前に横たわっていた。「やったぁぁぁ〜」一人で絶叫する。後に、これより遥かに大きいピーコックを釣ることになるのだが、この時ほど嬉しい1匹はなかった。「俺はアマゾンで自分の魚を手にしたぞ〜!ナマズなんかクソくらえぇ〜!」
 その後暖かくなり、TOPにピーコックがでることはなかった。そこでラパラのファットラップに変え流心を狙った。するとどうだろう、ピーコックやブラックピラニアが入れ食い状態になったのだ! 40cm台の中型サイズだが、流れの中にいるので引きが強く、本当に楽しかった。
 これまでの鬱積は吹き飛んだ。宿に帰った俺は久々に晴々しい気持ちで朝食をとった。しかしこの後、さらに嬉しい事がナマズ男の口から告げられたのだった!
 
左写真(Oさん製作のTOPルアー「オリノコモンスター」で釣れたピーコックバス! 急流域で釣れるピーコックは色があまり綺麗ではないけど、パワフル!)。
右写真(ラパラのファットラップで釣れたブラックピラニア)。

 朝食後、ボートで河を遡り上流部に向かった。ロッドの先にはトップウォータプラグ、そして隣には陽気に歌うジョーさん。そう、俺は遂にボートでピーコックを狙うことになったのだ! この日、ジャングルを10分ほど歩き、上流部の船着場に到着。ボートに乗り込もうとしたその時、ナマズ男が言ったのだ。「タケ、今日はジョーと組んで、トォクナレ(ピーコック)を狙えよ!」、あまりの俺の憔悴ぶりに気をきかせてくれた訳だ。「イヤッホォォォ〜! アイム ルアーフィッシャーマン!」、言葉に出来ないくらい嬉しかった!
 そして、20分ほど走りボートはポイントに到着した。鬱蒼とした木々に囲まれた水面は不気味に静まりかえり、雰囲気抜群だった。侵入者に驚いたマカコ(猿)が時折「ギャーギャー」鳴いて、その静寂を破った。ガイドによると「ピーコックのサイズは40〜50cmが中心、しかし数はでる。また、水量が少し多く魚はブッシュの中に入っているだろう」とのことだった。しかし、そんなことは全く気にならなかった。とにかくアマゾンでルアーを投げることができる、それだけで十分だった。8年間の思いを晴らす時が来たのだ!
 ガイドがボートを漕ぎ始めた。アルミボートなのにオールを使って漕ぎ進む。ちょっと変な気分だが、彼のオール捌きは巧みだった。岸までの距離約15mを保ち、静かにボートは奥地に進んだ。
 しばらく、ネルソンさんに選んでもらったブラジル製ペンシル「ジョーペピーノ」を投げ続ける。ザラのように誰にでも動かし易いルアーではないが、「カシャカシャ」と明確な音を発しスケーティングをする。最近のバス用の複雑な動きとは異なり、とてもシンプルなペンシルだ。しかし、こんなルアーがピーコックには効くと思った。
 そして、一際大きくオーバーハングした木の根元にキャストし、ハッキリとしたアクションで引いてきた時、突然「黄色い塊」があとを追って来た。直後に「ドォボーン」と炸裂し、ロッドが引きこまれる。ピーコックは右左と逃げ回り、ウルトラCクラスのジャンプで抵抗する。ハンドグリップでキャッチすると、黄色が美しい53cm!
 その後、入れ食いということはなかった。ブッシュの中にフローティングミノーをピンポイントキャストし、奥からピーコックを引き出すシビアな釣りだった。しかし、ポツポツと40〜50cmクラスが釣れてくる。そして、そのどれもが美しくパワフル! 「ずっとこんな釣りがしたかったのだ!」、その朝アマゾンの奥地に「俺の雄叫び」と「ジョーさんの歌声」が響き渡った。
 左写真(最初に釣れたピーコック53cm。色が無茶苦茶綺麗!)、右写真(ブラジル製ミノーで釣れた52cm)。どちらもバンデイラというタイプらしい(バンデイラはポルトガル語で国旗を意味する)。

 思う存分ピーコックを堪能した俺達は、次にパクーを狙った。この魚は雑食性でルアーでも稀に釣れるが、主に水面に落ちる木の実を食べている。釣り方は「ワイヤーリーダー付のフックに木の実を掛け、木の下にポチャリと落とす」という単純なものだった。
 しかし、これが意外と難しかったのだ! 約10m先のポイントに、ベイトリールで軽い実をキャストしなくてはならない。力をこめるとフックから実がポロリと落ちることがしばしば、軽く投げすぎてもバックラッシュに…。その微妙な加減がキモだが、キャストさえ決まってしまえばあとは簡単、アタリは意外とすぐにくる。「ヌヌヌゥー」と竿先が重くなり、それまでの「のんびりムード」が一転し、神経をスリ減らすスリリングな闘いが始まるのだ!
 俺の釣ったパクーは一番大きなモノで2.5kgだった。2.5kgというと俺が釣った中では「ピーコックバスの55cm、パイクの70cm、バラムンディの58cm、Gスネークヘッドの63cm」に相当する。それらと比較すると明らかにパクーのファイトは突出していた。とにかく泳ぐスピードが速く、パワフルで、疲れ知らず。おまけに丸型体系からは想像しがたい華麗なムーンサルトジャンプを決めるのだ! タイで釣れなかったパクーとは異なるタイプだったが(パクー・バンデイラ)、念願の魚をまた一つ釣ることができた。
 そして、楽しい1日は終わろうとしていた。夕焼けをぼんやり眺めタバコを吹かす。ジョーさんも放心した顔つきで歌っている。二人とも一日中子供のようにハシャギまくった。ブラジルに来てからはじめて「満足感」に浸ることができた。
 しかし、帰路おいしいポイントを見つけたのだ! そこは急流域に巨大な岩がゴロゴロしていて、大きなヨドミを形成している。こんな場所はピーコック・カッショーハ・ビックーダの絶好なポイントなのだ。俺達は日が沈むまで、もう一勝負を賭けることにした。(やっぱり俺達って釣りバカ!)
 満足感に浸り、釣果はどうでもよくなっていた俺はトップを投げることにした。これまでピーコック狙いはシビアなミノーゲームを余儀なくされていた。ここらで景気よく水面を炸裂させたいと思ったのだ。
 スーパースプークを取り出し、キャストを開始する。ポイントは大岩がころがるシャローのワンドだ。日本で見たアマゾンビデオを意識して、ダイナミックにアクションをつける。バス釣りでは考えられないほど激しいドックウォークを続けた。すると、アタリはすぐにきた。しかも50cmクラスのピーコックがダブルヒット!写真を撮ろうとモタモタしてる間にバレてしまったが、フックが伸びて、ルアーの目玉がポロリと落ちた。この日の熱狂はまだまだ続くのである。
 そして、熱狂の極めつけは…。ジョーさんがミノーで中型のビックーダを釣り上げた後のことだ。再びシリアスモードになった俺は、ブラジル製シャローミノー「M-110(DECONTO社)」に変えた。岩に川の流れがぶつかってできたヨドミを激しいジャークで攻めていた時、突然アタックしてきたのは良形のビックーダ!! 水中から発射されたロケットのような激しいジャンプに、この日の熱狂はクライマックスを迎えたのだ。
 「あぁ〜アマゾンよ! お前はついに俺に微笑んでくれたのかぁ〜!?」
パクーバンデイラ。55cm2.5kg。今まで釣った2.5kgの魚の中で1番引きました!
ビックーダ。凄まじいファイトに顔がひきつってます…。

 翌朝、ルーズベルト川には小雨が降っていた。しかし、アマゾンは前日と変らず俺達に微笑んでいた。ジョーさんと再び向かった先は「急流域のワンド」、水草が生い茂る激シャローで爆釣を経験したのだ。わずか3mぐらいの範囲でシャローミノーに次々とピーコックがアタック!サイズはすべて50cm前半、恐らくスポーニングが絡んでいたのだろう、中にはコブをもったオスが混じった。俺達はそのファイトに驚喜乱舞した。同サイズのバスとは比較にならない引き、ST-41が次々と曲がった。そして、永遠と続くのだ!
 しかし、アタック数の割りに手にしたピーコックは少なかった。とにかくよくバレたのだ。それは「フックが外れる」のではなく、ピーコックが「強烈な首フリで、自らの唇を引き千切るためだ…」。
 その後、ワンドを出て激流域を攻めた。あまりに流れが強すぎて、普通のルアーではバランスを崩してしまうが、こんな時は「ラパラのファットラップ」。しばらく岸際を攻めピーコックやブラックピラニアとのファイトを楽しむ。そして、何気なく沖目の流れのヨレにロングキャストをした時、「ゴォゴォゴォォ〜ン」と巨大ビックーダが来た! 一気にロッドをのされ危うく川に落しそうになる。前日のものより明らかに大きかった。ドラグを緩める暇もなく龍のごときスーパージャンプ。急にラインのテンションは消えた。ルアーを回収し、手にして見るとフロントフック(ST-46)が折られていた…。悔しさは微塵も無かった。ただただ圧倒された。「ビックーダよ!お前はアマゾンでは脇役に甘んじてるけど、凄い怪魚だな! こんな魚が外道だなんて、アマゾンって一体…」。
 昼食後、俺達は川を下った。さらなる大物ピーコックを狙うためだ。しかし、午前とは一転、超シブかった。ジョーさんに60cmが釣れただけ、アタリもポツポツ。そこで俺達はナマズを狙うことになった。急遽、餌にするピラニアを釣り上げポイントに向かった。しかしその道中、俺の魂を揺さぶる大事件が起きたのだ!
 走行中、マッシャードのボートとすれ違うと、なにやら満面の笑顔を浮かべて近づいてくるではないか。そして、奴はビデオをとりだし俺に衝撃の映像を見せてくれた。「ぎょえぇぇ〜、ジャウーじゃん! しかも140cmクラス!」「あぁ、アマゾンの女神が微笑んだのは俺じゃなく、ナマズ男にだったのね…」。マッシャードの不敵な笑いに俺は打ちのめされた…。
 肩をおとし、ナマズ釣りを開始した。するといきなりジョーさんにタイガーショベルがヒットした! その美しい模様とやけに平たい顔、「超がつくだけ変!でもカッコイイ!俺も釣りたいなぁ…」。その後、俺は食い入るようにロッド見つめ続けた。ビールを飲みながらヘラヘラするのは止めた!ナマズ男の魂が乗り移ったのだ。
 すると…。来たのだ。それもいきなり! ロッドが押さえこまれるように大きく曲がった。そこで俺はひっくり返るほどの鬼フッキング! 魚はモノ凄いスピードで走り、ドラグが出る。「デカそうだ」。しかし、何か違う!ナマズではない。パワーはあるが巨大ナマズの重圧感がない。近くまで寄せ、一瞬魚体が見えた。「カッショーハじゃぁ〜!!!」
 そして俺は8年間憧れつづけた牙魚を釣った。それはルアーではない、餌釣りだった。アマゾンのナマズ釣りでは、カッショーハはとるに足らない外道である。しかし、俺はこの魚が釣りたかった。この日、ナマズは釣れなかったが、確かにアマゾンは俺に微笑んでくれた!
ジョーさんが釣ったピーコックバス・バンデイラの60cm3kg! ルーズベルト川ではグットサイズ!子供のような笑顔が素敵! ジョーさんが釣ったタイガーショベルノーズ(現地名カッシャーラ)!俺も釣りたかった…。 餌釣りだけども念願のカッショーハ(ペッシ・カショーロ)をゲット!

 そして、最終日はあっという間にやってきた。この日のパートナーは因縁の「ナマズ男マッシャード」。最後にジャウーかレッドテイルの大物を釣りたいと思い、再び奴に弟子入りをしたという訳…。前日、奴が釣り上げたジャウーに触発されてしまったのだ!
 この日は二人ともヤル気満々、朝早くからポイントに入りアタリを待った。ガイドが選んだのは「水の流れが複雑に絡んだ大岩ポイント」。最後の決戦の舞台に相応しく、川は力強く渦巻きながら流れ、得体の知れないものが潜んでいる雰囲気。ロッドを食い入るように見つめ、息をひそめる。この日は集中力が途切れることはなかった。しばし緊張感が漂う沈黙のときが流れた。しかし、喉が乾いたためロッドをホルダーに立て、コーラを飲んでいたその時! 来たのだ!奴が…。
 突然ドラグが「ジイィィィィィィ〜」と鳴った。驚いて見るとロッドは折れんばかりにひん曲がり、今にも水中に引きこまれようとしている。強めにセットしていたドラグ、しかしナマズは難なく糸を引きだし疾走した。慌ててロッドを手にしようとするが、あまりの引きに持ちあがらない。ガイドがすっ飛んで来て、二人掛りでロッドをホルダーから外した。一息つく間もなくラインはほとんど引き出され、俺は「ナ〜ダァ!(無いぞぉ〜)」と絶叫した。それを聞いたガイドがエンジンをかけ、巨大ナマズの追跡にはいった。
 ボートが近づく間、懸命にラインを巻き取った。川の中央まで来てしまったが、巨大ナマズはボートの真下。モノ凄い引きに腰抜け状態になっていたが、あとは冷静に闘うだけである。ガイドとマッシャードがしきりに「落ちつけ!」と叫んでいた。
 しかし、悪夢の瞬間は突然にやってきた。しばらく強烈なファイトに耐え、あとはナマズを浮かせるだけと思ったその時、急にラインのテンションが消えたのだ。仕掛けだけが俺の手元に帰ってきた。あと一歩だったのに、俺はその場にへたり込み、空を仰いだ。「負けたぁ…」
 昼食後、タックルをより強力なものに変えて、再び同じポイントに出撃した。実は俺の持ってきたロッドは柔らか過ぎ、ナマズの硬い口にフッキングするのが困難だったのだ。大物をバラシて沈んでいる俺を見かね、フランシスコがタックルを貸してくれたという訳。そして残り半日に全てを賭けた!
 しかし、先に釣ったのはやはりマッシャードだった。釣れてきたのはなんと100cmのレッドテイル。その重圧感に圧倒されながらも、正直悔しさで一杯だった。そして、その後しばらくアタリすらないまま時は過ぎた。辺りは暗くなり始め、間もなくこの川での釣りが終わろうとしていた。焦りと諦めが募る。しかし、ガイドが「ポイントを変える」と言い出した。取っておきの場所があるらしい。ラスト30分をそのポイントに託すことになった。
 そこは一見なんの変哲も無い所だった。川の中央部、緩やかな流れ、今までのナマズポイントとは異なる穏やかな雰囲気。しかし、あれだけ釣れなかったレッドテイルがあっさりと釣れたのである。それは70cm5.5kgと小さいものだった。しかしこの時、ルーズベルト川で最も大きな雄叫びが響き渡った。「やったぁぁぁぜぇ〜!ピララ〜ラァ〜」、暗く静まる水面と対照的に、真っ赤な尻尾が印象的だった。
左写真、ナマズ男「マッシャード」が釣ったレッドテイル100cm! デカイです、グロいです、羨ましいですっ!
右写真、念願のレッドテイル70cm・5.5kg!小さいけど、嬉しい〜!

 そして次の日、俺達を乗せたセスナは密林を飛び立った。眼下に広がる「緑の地獄」、そこは釣り人にとって「天国」であった。「釣って、飲んで、騒いで、寝る」、信じられないほど楽しい日々だった。しかし、俺はアマゾンでは無力であった。独りでここに来ることさえできなかっただろう。俺は「旅をした」のではなく、「旅をさせてもらった」だけだ。無力な俺をここに導いてくれた人々に感謝!

「チャオ!グランデアマゾン、アイム ペケーニョ タケ…」
(「さよなら巨大なアマゾンよ!」、小さな武より)。

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Jungle Fight 本編3(ウルブ川編)
 その夜、ジョーさん達と別れた俺はアマゾン流域の大都市マナウスに飛び立った。ポルトベーリョのささやかな灯かりが遠ざかる。飛行機の窓から外をぼんやり眺め、ルーズベルト川の日々を想った。旅をはじめてから数え切れない別れを繰り返してきたが、こんな寂しいことは珍しい。「小学生の頃の夏休みが終わってしまった時」の気分に似ている。あの明るく愉快な三人組と、「喜び、苦悩し、飲みあかす日々」を送ることはもうない…。
 空港に着くと釣り宿から迎えが来ていた。次の舞台はウルブ川。マナウスから246km、ピーコックの大物を求めての小さな旅が始まる。一路、ブラジル人の運転する車は恐ろしい勢いで突っ走った。急カーブもお構いなしの激しい運転、さすがアイルトン.セナが生まれた国だ。「どうせ事故で死ぬなら、眠っていた方がラクだろう」、そんなことを思いながら、疲れていた俺はいつしか眠りについた。

 翌朝、暗いうちから目が覚めた。俺はピーコックの大物を釣ってやろうと意気込んでいた。多分ここを終えたら大物に出会う確率はほとんどない。奥地に独りで行くことは不可能に近いし、残り資金も乏しいからだ。
 ガイドは白人系の小柄な男。寡黙で真面目で謙虚な感じ、好感が持てた。しかし、ボートに乗りこみ、トップウォーターとミノーを見せてどちらが良いか尋ねた時、ガイドは小型ミノーを指差し「それが一番だ」と言った。その時俺は「またか…」と思い、正直ウンザリしてしまった。「ブッシュにミノーを突っ込み、引っかからないように気を使ってアクションをくわえる」、あのシビアなミノーゲームがまた始まるのか? パラナ川でもルーズベルト川でもそうだった。ガイドは決まってミノーを使えというのだ。8年間アマゾンのことを思いつづけた。それは「明るく激しいトップウォーター!」というイメージだった。「シビアなゲームは嫌いじゃない。しかしここはアマゾンだぜ! またこんなセコいミノーを使うのかよ…」

 ウルブ川は正直秘境とは言い難かった。岸辺には民家がポツポツと建ち、ボートの往来もあり、現地人が釣り糸を垂れる姿がチラホラしていた。しかし、岸辺には倒木が沈むおいしそうなポイントが多数あり、釣欲は刺激された。10cm前後のフローティングミノーを倒木の奥に突っ込み、枝に沿わせて「ジャーク・ストップ・ジャーク」、ゆっくり大きくアクションするのが効果的だった。その方法で初日・二日目と、嬉しい60cm台を釣ることができた。今までの50cmクラスの引きとはやはり一味違う引き、バスの比ではなかった。しかし、これがアマゾンだとは到底思えなかったのである…。
左写真、初日早朝、イキナリ60cmのピーコックバス・アスー! 中央写真、二日目早朝、コブを持った60cmのアスーが釣れた! 右写真、ブラックピラニアの40アップ。

 三日目の朝をむかえても、俺のロッドの先にはフローティングミノーがぶら下がっていた。確かにウルブ川ではこのタイプが確実に思えた。沈黙する水面系とは対照的に、大きくはないがピーコックを確実に連れてくるのだ。しかし、アマゾンで、炎天下の中で、こんな「修行」のような釣りを続けるのは正直辛かった。
 この日も早朝から倒木の中にミノーをぶち込み続け、ピーコックやピラニアと戯れていた。時計は既に11時を指し、昼メシの時間
が迫っていた。ボートはいつものお決まりコースをそれ、川からつながる大きなラゴア(湖沼)に入った。そこは「ラゴア・カル」と言う所で、辺り一面に水面から巨木が突き出ていて正に「アマゾンといった雰囲気」だった。しかし、乾季のため所々で水深30cm、ボートが底をつくこともしばしばだった。
 しばらく様子を覗いながら、ボートを奥地へと進めた。すると向うから二人の男を乗せたカノア(小舟)がやってきた。一人が漕ぎ、もう一人が「手釣り仕掛け」で「流し釣り」をしていた。ガイドが話しかけてみると、そいつらは不敵な笑みを浮かべてその日の獲物を取出した。それを見た俺は目玉が飛び出て「グランデ!」と叫んだ。それは巨大なピーコックだった。76cm6kgのパッカ、その筋肉質ボディは今まで俺が釣ってきたものとは明らかに違っていた…。
 その後、「燃える闘魂状態」になった俺はス−パースプークを投げまくった。大遠投したルアーはことごとく美味しいポイントにピタリと落ちた。いつものことであるが、俺は「釣れる!」と思う所ではキャストが抜群に決まるのだ。アタリがないまま20分が経過した時である。巨木の脇の激シャローを引いていた時、「バシャーン」とピーコックがアタックしてきた。掛かりはしなかったが、恐らく65cmぐらいだろうか? ガイドは「チェ!」と舌打ちをして悔しがったが、その時俺は分った! そのピーコックは追って来てアタックしたのではない、ルアーが自分の真上を通過するのを待ち伏せていたのだ。水深がないため、ここのピーコックを手にするためにはピンポイント攻撃しかない。それは巨木の脇だ!
 炎天下の中緊張感に満ちた闘いは続いた。そして、孤立した一際大きな木の脇をルアーが通過した時、それは起こった! 「バシャャャ〜ン!」、一瞬巨大な尾鰭が見えた。それは今まで俺が釣ったピーコックより遥かに大きかった。ガイドは「75cmはあっただろう」と呟いた。しかし、それはバレてしまった…。
 「この場所だ!スーパースプークだ!そして、巨木の脇だ!」、その時、疲れきっていた俺の心にスイッチがはいった!
現地の漁師が小魚を泳がせて釣ったパッカの76cm!

 午後になり「ミノーの呪縛」から逃れた俺はありとあらゆるTOPルアーを投げ倒した(実はTOP以外に使える水位ではなかったの…)。しかし、なぜかアタリは全くなかった。と言うより、ルアーが着水するとピーコックが逃げて行くのだ。何故だろう? 漁師によるプレッシャーだろうか? それとも水位が低すぎるためだろうか? この日、暗くなるまでロッドを振り続けたが、巨大ピーコックは背鰭を水面上に出し俺のルアーから遠ざかって行くだけだった。あぁ…。
 そして翌朝、俺とガイドは揉めた。「ラゴアでTOPを投げるのか?」「川筋でミノーを引くのか?」 「釣れなくてもいい。とにかくデカイのを狙いたい!」と主張する俺、「小さくてもいい。確実にミノーで狙おう!」と言うガイド。俺も頑固だがそのガイドは「頭突きで名を馳せたプロレスラー、ボボ.ブラジル」のように頭が硬いのだ。そして、俺は折れた。そこまで自信があるのなら、「釣らせてもらおうじゃないか!」と思ったのである。
 俺は再び「アマゾンの修行」を開始したが、結果はやはり惨敗だった…。釣らせてもらったピーコックは最大で50cm。その程度で満足げな笑顔を浮かべるガイドが腹立たしかった。しかし、結果がでなかったからといって、つまらなかったという訳ではない。いや、むしろ十分楽しんだ。「ブッシュにミノーを突っ込む釣り方」は滅多にやることではないし(まあ、釣りの幅が広がるし、オーストラリアのバラの練習にもなるだろう)、やっとのことで釣ったピーコックは格別! 例えるなら「サウナで我慢に我慢をかさね30分、その後のビール」かな?(なんだそりゃ! 笑)。それに、ここで釣れた魚は16種類。初物・外道が大好きな俺は、そのサイズに関わらず「オーパオーパ」の連続だった。
左写真、アマゾンの淡水ベラ「ジャックンダー(Jacunda')」。中央、アマゾンの淡水イシモチ「ペスカーダ(Pescada)」。右写真、アマゾンの雷魚「タライラー(Traira)」。

 そして、巨大ピーコックの幻影に翻弄され続け、ウルブ川釣行は最終日を迎えた。この日は最後ということで、いつもより遠出をすることになった。ボートを走らせること1時間あまり、川から続く小さなラゴアに入った。ここは全体的に遠浅で岸辺は水深30cm程度、アマゾンにしてはいまいちパッとしない雰囲気だった。しかし、ボートを進めてゆくと引き波を立てながら逃げて行く姿がたくさん見えた。「魚は確かにいる。しかもたくさん!」
 そこで先ず手始めに小型ペンシルで様子を探ることにした。岸辺の激シャローを丁寧に攻めると「ニョロニョロ」と何かが追いかけてきて「バフッ」と食いついた。「タライラーだ!」。この魚、アマゾン産にしてはどこかトロくてアジアンテースト。東南アジアの「ストライプスネークヘッド」の様な感じが好きだ。しばらく、この珍魚との「ママゴト」を楽しみながら、ボートはラゴアの最奥部に達した。
 そこには密林から小川が流れ込んでいた。周辺には水草が生い茂り非常にいい感じである。俺は「流れ込みポイント」が大好きで、どんな魚を狙うときもとにかく1番最初に攻めるほどだ。そこで、これまで使ってこなかった「DIXY」を取り出し、流れ込み周辺の激シャローを攻め始めた。すると1投目から、「ニョロニョロ」と雷魚のような魚が追ってきた。タライラーにしてはやたらと長い。「バシャ」とアタックしてきたがノラなかった。「何んだろう? あれ…」、ちょっとドキドキしながらもう一度同じコースを引いてくると、また出て今度はフッキングに成功した。引きはたいしたことないが、そのうち「バタバタ」と暴れだしシルバーの魚体がキラリと光った! それを見た俺は「アロワンナ〜!」と叫んだ。そして憧れの魚をまた1つ手にしたのだった。
 アロワナを手にして繁々と眺める。「綺麗だなぁ…。そしてお口がデカイ!」「アゴに生えた2本のお髭は一体なんのために…?」、美しいけどなんか変なこの魚! その後、その場所でアロワナが6連続ヒットし、その度にうっとりする俺だった。
左写真(DIXYで釣れたシルバーアロワナ。お口でかーい! それにしてもアゴから伸びるお髭はナニ?)。
右写真(スーパースプークで釣れたイエローピーコックバスの54cm)。

 そして、淡々としたウルブ川遠征は終わった。最後に良型ピーコックがスーパースプークに飛び出し、ちょっとしたドキドキを味わえた。しかし、我を忘れるような1匹にはとうとう出会えなかった。確かに俺は楽しんだ。しかし、「楽しんだから良かった」というような事は言いたくない。「負け惜しみ染みた言い訳」に聞こえるからだ。
 再び暴走車に乗ってマナウスに帰ってきた。この釣行で1番ドキドキしたのは車に乗ってる時だったとは…。「俺のアマゾンは終わった」、抜け殻のようになった俺は安宿のベットに転がり込んだ。この時はまだ、あの至福の時が訪れようとは夢にも思っていなかった

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Jungle Fight 本編4(モンストロ川編)

 明方から降り続いた土砂降りの雨が止んだ。ボートに乗って河を疾走すること40分あまり、「ミルクコーヒー」色の流れが「ブラック」に変った。岸辺には日向ぼっこをするワニの群れ、エンジンの音に驚き勢い良く逃げ去って行った。ボートからわずか30mの距離で、イルカが水面を割って飛び出した! 気持ちは晴やかだった。アマゾンに来て初めての穏やかな気分、気負いは何一つない。ただひたすら釣り旅を楽しもうと思っていたのだ。
 マナウスで一人ぼっちになった俺はある男と出会った。小太りの白人系、禿げた頭、残った後ろ髪を強引に結っている。怪しい男だ…。しかし、その男の口車に乗ってしまったのか? 「ピラルクーが棲んでいる」という情報につられたのか? 俺はその場所を目指した!
 しかしその場所に辿り着き、その日の寝床を見た時、正直愕然としてしまった。掘っ立て小屋にハンモックがぶら下がっているだけ…。そこには今まで俺を囲んでいたクーラー・テレビ・ふかふかベットは無かった。取り柄といえば高台に立っているため、河を一望できることぐらいだろうか? そして肝心の釣りの方といえば、「あっちの方に歩いて行けば釣れるよ!」と言われる始末。「オカッパリかよ…、いきなり話しが違うじゃん!」、贅沢に慣れすぎた俺は眼下で水面を割ったピンクイルカにも「ハァ〜」というため息をつくだけだった。


 「先ずはボートを確保しなきゃな…」、高台のハンモックに揺られながら思案に暮れた。ふと川辺に目をやると水上家屋に小舟がつながれている。しかもエンジン付である! 俺は「うむむっ」と考え込み、「ニタリ」と笑った。そして5分後にはその家の前に立っていたのである。
 中を覗くとモジャモジャ頭のオッサンとボニータ(美少女)がイスに腰掛けていた。「ボアタイジ!(こんにちわ)」、オッサンには目もくれずボニータに挨拶をした。「コクリ」と頷き、「ニコリ」と微笑みを返してくれた。今までの憂鬱な気分は吹っ飛び「エヘヘヘ」と照れ笑い。我ながらかなりのアホである。しかし、部屋の片隅に目をやったその時、そのスケベ心は吹っ飛んだ! ロッドが立てかけてある。しかもその先端にはザラスプーク! 俺は興奮しながら「ペイシェ、ペスカ?、グランデ トォクナレ? ムイト ボン? オーパ!!」と喋りつづけた。日本語に訳すと、「お魚釣るの? でっかいピーコック? 良いですか? 驚きぃ〜!」、かなり滅茶苦茶なブラジル語である。しかしその午後、俺はオッサンと釣りに出かけることになったのだ!

 オッサンが操縦するボートが突然止まった。殺風景な河から続くラゴア(湖沼)、その景色を見たとき俺は瞬時に臨戦態勢をとった。巨大なラゴアにはいたる所に倒木・立木などのストラクチャーが存在し、見渡す限り一級ポイントが続いていた。しかも水位は岸辺で30〜100cm、次第に深くなりラゴアの中央部は底が見えないほど深い。俺はSスプークとミノーを取り出しオッサンに尋ねた。「どっちがボン(良い)? 俺はTOPだと思うぜ!」 案の定、オッサンはSスプークを指差し、「ボン!」と言った。「おぉっ!」、こんなことは初めてだ。なんの気負いも無く気軽な気分で来たこの場所、ここはパラダイスなのかっ!?
 オッサンはシャローの立木群を前にして「ブラジル製ペンシル」を取り出した。塗装がほとんど剥げボロボロ、
「魂のこもったルアー」である。「このオッサンはやるぜ!」と思った俺はしばらく見学することにした。
 無茶苦茶強引に振りぬき、「ボッチャ〜ン」と着水。オッサンのキャストはとても不細工だった。しかしルアーはポイントに正確に落ちる。30mの距離をマシンガンキャストしてもミスはほとんど無かった(目が良過ぎるじゃないかな?)。さらに驚いたのが「アクションの付け方」である。あまりの激しいジャークの連続にルアーが「立ち泳ぎ状態」になっている。そして、あっという間にボートに帰ってくる。「激しく、早い」、ちょっと日本では考えられない釣り方だ…。
 いてもたってもいられなくなった俺も早速キャストを開始した。オッサンほどではないがいつも以上にダイナミックにアクションをつけた。距離にして30〜40m、立木の群集にSスプークを落としタイトに攻めた。この日のキャストは冴えわたり、しばらくすると「ニョロニョロ」と何かが追って来て「パクッ!」と食いついた。「アロワナだ!」、開始早々の60cmオーバーに心が躍った。その後爆釣とはいかないまでも、アロワナとピーコックがコンスタントにアタック! 「TOPだぜっ〜!ここは今までの場所とは違うぜ!」、興奮する俺だった。
 そしてSスプークを投げ続け、小さな岬の先端を攻めていた時のことだ。突然
「ドォボォォ〜ン」、人間が水に飛び込んだような音に一瞬何が起こったか分らなかった。しかし、ロッドを強く握り直し大きくアワせた。途端に「何か」は下に潜りだし、凄い引きに戸惑っていると突然のジャンプ! 「巨大な黄色い固まり」が宙を舞った。「トォクナレ!!」、俺は叫んだ。しかも、相当デカい! 非力なバスワンは限界近く曲がっていた。そして何度も何度も寄せては逃げられ、そいつは俺の手に落ちた。「グランデ!(デカイ)」、オッサンの差し出した右手が俺の手を強く握り締めた。一息おいて「うぉぉぉぉっ〜!!」、俺の雄叫びがラゴアに響き渡った。とうとう釣った「75cm5.5kg」! Sスプークのスプリットリング(90lb)はほぼ伸びきっていた…。初日からこれである。「ここは一体なんなんだぁ〜!」。
左写真、遂にでた大物ピーコック、75cm5.5kgのアスー! 前に出し過ぎ?(笑)。
右写真、アロワナのアベレージはウルブ川より大きかった。70cmアップも多く混ざる。

 蚊の襲来さえ気にしなかったら、それはまさに「天国の揺り篭」だった。揺れるハンモック、それ以外は何一つ無いその部屋。傍から見れば「悲惨な寝床」である。しかし、カイピリーニャに酔いタバコを吹かしながら「ユラユラ」、ピーコックの跳躍を思いだしては「ニヤニヤ」。「酒」と「煙草」と「怪魚の記憶」、他に何が必要なのだろうか? ハンモックに揺られ、いつしか深い眠りに引きこまれていった…。
 翌朝、物凄い音に目が覚めた。「グゥオォォォォォ〜」、ジャングルの奥から絶え間なく聞こえてくるその音はまるで「ジャンボジェット」のような轟音だった。オッサンに尋ねると、それは「マカコ(サル)」だという。「アレがサルの声なのかっ!? まさかキングコングでは…?」、驚かされたのはそればかりではない。付近にはアナコンダまで生息しているらしい。俺は以前テレビでやってた「スネークハンター」が好きだった。確か10mの大蛇を求め、ジャングルを旅する番組だった。「あの蛇がこの川に? つ、捕まえたい…(笑)」。
 日が高く昇り、暑くなり始めてからラゴアに繰り出した。オッサンの選んだポイントは岸辺の激シャロー、小さな立木が乱立していた。そこにはアロワナがウジャウジャ棲息していて、ルアーはペンシル系が良かった。アクションはゆったりとしたドックウォーク、「ニョロニョロ」と追ってきたところでストップ、そして「パクッ!」という感じである。この古代魚はアマゾンでも特別美しい魚だと思う。大きな鱗がビッシリ並び鎧を着込んでいるかのようなボディ、生き物を感じさせないその風貌はまさに怪魚である。しかし、ファイトの方はイマイチ面白くないのだ。雷魚のように鈍く重い、終いには「バタバタ」と暴れだし、アマゾンの怪魚特有の爆走と華麗な跳躍がない。そして口の皮膚がもろく、すぐに裂けてボロボロに。最初はこの魚が釣れるたびに喜んでいた俺だったが、終いにはこの古代魚をそっとしておきたいと思うようになった。
 一方ピーコックの方は夕暮れ時のラストチャンスにグットサイズが飛び出した。ヒットルアーはやはりSスプーク。このルアー、ブラジルを訪れる前に一番期待を寄せていただけに「嬉しいなっ!」。力任せにぶっ飛ばし「ボッチャーン」、そして鬼のようなドックウォーク。
「明るく激しいトップウォーター」、これが本当のTOPだぜぇ! 前日の75cmに慢心した俺だったが、「まだ何かが起きる!」確信に近い思いが過ぎった。
左写真、アロワナの73cm。ヒットルアーはSスプーク!
右写真、日没間際に釣れた60cmのパッカ!

 ハンモックに揺られて3日目の夜が過ぎた頃、一人のオーストラリア人と釣りをすることになった。名前は「レス」。お髭がモジャモジャで、こめかみに光るはシルバーピアス、非常に怪しげな男である(初めて会ったときは「ユダヤ教徒のマフィア」かと思った…)。話によると、1年前に夫婦で世界一周の旅に出発。アフリカから始まった壮大な旅はここアマゾンで最後を迎えるという。「ナマケモノが見たいんだ!」、その風貌からは思いがけないオカマ発言に、「男は釣りだぜ!」と俺が誘った訳。
 この「レス」と言う男、地元ではバラムンディと闘っているだけあって中々の釣り師であった。俺の予備タックル(雷魚用ライトロッド+コンクエスト201+80lb)を使ったのだが、不満ひとつなく釣りを続ける(ピーコックには超使い辛く、おまけに普段とは異なる左ハンドルにも関わらず)。不細工なキャストだが、ルアーは美味しいとこにピタリと落ち基本に忠実。ザラスプークのドックウォークを粘り強く続ける。ん〜、好きなタイプの釣り師だな! 「細かいことに拘らず、基本的なことを粘り強く続け、きっちり釣るタイプ」。
 しかし、ラゴアは前日の好調とは一転し静まり返っていた。岸辺のシャローのストラクチャー周りにいたピーコックが姿を消したのだ。オッサンによると「あまりの暑さで魚が深場に沈んでいる」とのこと。釣れてくるのは30〜40cmぐらいがやっとだった。それでもレスはピーコックが釣れると子供のような笑顔で喜んだ。
 一方、オッサンは早々に小型ミノーに切替え55cmのパッカをゲット! 的確な状況把握で釣果を重ねていった。そして、俺はあくまでTOP、Sスプークに拘りビックサイズを追い求める。夕暮れ間際になんとか60アップを釣ることが出来たが、レスの「気負いの無さ」、オッサンの「余裕」にやられた感じ。気合は入りまくりでヘトヘト状態であった。
 しかし、そんな停滞状況を吹き飛ばす大事件が起きたのだ! 日が沈み寝床に向けてボートを走らせていたその時、オッサンが突然ボートを止めた。オッサンの指差す先にはオレンジ色の二つの光、そう!ワニである。距離にして30m、ルアーを投げる絶好の機会が到来したのだ!(実は俺、モノ凄〜くワニが釣りたかったのだ。だって外道の王様でしょ!奴って…)。
 俺はこれまで経験したこと無い緊張状態にあった。1.5mクラスのワニを前にして、ルアーチョイスに頭を悩ます。しかしオッサンが「早く投げろ!」と急かすので、初めからラインに結んでいったSスプークに決めた。そして、賽は投げられた! Sスプークが2m先に落ち、ゆったり目のドックウォークでワニの鼻先を通過したその時、
「バァグッ!!」「食べちゃった〜!」、すかさず鬼フッキンッグ! しかし、ラインは直ぐにテンションを失った。気合が入りすぎてのラインブレイク。「あぁ…、ガックリ」。すると、オッサンはすかさずザラをキャストした。直ぐにロッドが満月状になり、「バシャバシャドボ〜ン」、ワニはモノ凄い暴れ様だ。しかし、オッサンは冷静なロッド捌きで寄せた。ワニが船下まできたとき、それを見た俺はちょっと驚いた。失ったSスプークが足に引っかかっていた。そしてオッサンのザラはそれを釣っていたのである。オッサンが身振り手振りで説明するには、「お前のフッキングが強すぎて、ルアーが口から外れて足に引っかかった。そこで俺はザラをキャストして、ルアーを回収した訳さ!フフフッ」それを聞いた俺は唖然とした。「このオッサンは何者なんだ!?」、第一暗すぎて見えなかったよ!恐るべしアマゾンの男…。
 夕食時、こんな凄い釣り師に出会えたことに幸せを感じていた。「これでワニが釣れていたら最高の夜だったのに…」。しかし!かなりガックリきていた俺を見かねて、オッサンがワニ漁に誘ってくれたのだ!
 「ワニ漁」とは「手掴みでワニを捕まえること」である。先ず闇夜の岸辺にライトを当ててワニを探す。ワニの目はライトを当てるとオレンジ色に光るので簡単に見つかる。距離が30mを切ると、エンジンを止め手漕ぎで近づく。手掴みする者は船頭に座り、ワニの首根っこを「ムンズッ」と掴むのだ(ワニのサイズは1m前後まで。1.5mを超えると食われる危険性があるので…。)
 オッサンは見事な素早さで90cm前後の小ワニを捕まえた。「ワニの手掴みってカッコいい…」、それを見た俺はシビレた。そこで俺はオッサンに宣言したのである。「俺もやるぞっ!」。それを聞いたオッサンは初めのうちは「止めとけよ〜!」と笑っていたが、俺の燃える瞳を見たとき「やったれやぁ〜!」と言った。そして、俺は「ムンズッ」と掴んでやったのだ!
左写真、オージーの「レス」。かなり怪しく怖い風貌ながら、手に持ってるピーコはかわいいね!(笑)。
右写真、「男の勲章!?」、ワニを手掴み!

 部屋の横には巨木が生えていて、ハンモックがぶら下がっていた。マカコの声で目が覚めた俺は決まってその場所に陣取り、その日に使うルアーを選ぶのが毎朝の日課になっていた。しばらくするとオッサンが眼下の川辺に現れ、親指をたてニッコリ微笑む。それは「釣りに行こうぜ!」という合図だ。そして、俺達はマンゴーをコーヒーで流し込みラゴアに出撃する。それがアマゾンの1日の始まりだ。
 しかし、ビックサイズに出会えない日々が相変わらず続いていた。ラゴアは連日の釣行でスレまくり、容赦ない日差しに「オーパ」の予感は失せつつあった。そこでこの日は気分を変えモンストロ川下流に繰り出した!
 しばらくフルスピードで川を下るが美味しそうなポイントは少なかった。ラゴアに比べ川の風景は貧弱だった。所々で倒木や水草地帯があるが、「大物が潜む要素」が複合したポイントは中々見つからなかった。しかし、1時間ほどボートを走らせると「岬の先端に大岩がころがるポイント」に辿り着いた。「岬の先端」と「大岩」、ピーコックにとって絶好のストラクチャーが二つ、美味しいポイントだ。案の定、Sスプークを岩にぶつけ落とした後、1mほどドックウォークさせた時に「ドォ〜ン」とでた! 57cmのパッカ、中々のサイズに大物への期待は高まっていった。
 そこから5kmほど進むと、川が大きくカーブしてワンドを形成するポイントを見つけた。岸辺は50cmほどのシャローで巨木が乱立している。オッサンが「ウムッ」と頷くだけあって大物の予感がビンビンと感じられた。しかし、ピリピリしながらTOPを投げ続けるが、川は不気味に静まり返っていた。そこでラパラのラトリンラップ(7cm16g)に変え、巨木の脇をタイトに通したその時、いきなりロッドが「グンッ」と引きこまれ根元からブチ曲がった!容赦なく出ていくラインを指で押さえ大きく3度アワせると、巨大なピーコックが水面を割って踊り出た。「うわっ!デカい。見なきゃ良かった…」、初日に釣った5.5kgより遥かに大きなピーコックに正直ビビッた。何度かボート際まで寄せるがボガグリップを差し出した途端に反転して下に突っ込んでいった。ルアーは口の中にスッポリ入っているのでラインが相当摩れているはず、短期で決めないとヤバイと焦った。
 しかし、そんな非常事態にも関わらず、オッサンが突然笑い出した。「お前、唇がブランコ(真っ白)だぞっ!ワハハハッ」。あまりの緊張に顔面が蒼白だったらしい…。それもそのはず、このピーコックの引きはモノ凄かった。「オッサンよ!笑ってる場合じゃないぜ!」、ピーコックは水面を切り裂き暴れ狂っている。浮かせたと思ってもすぐさま反転し、水底に遠ざかってゆく。その度に心臓が張り裂けそうだった。しかし、オッサンの笑い声が止み、目がギラリと光った。オッサンはラインをつかむと、目にもとまらぬ素早さでボガグリップを口に突っ込んだ。抜き上げられたピーコックを見て俺は呟いた。「ムイトグランデ(デカ過ぎる…)」、大きなコブを持ったそいつは圧倒的存在感でオッサンの腕に抱かれていた。「ワハハハッ!」、俺達は気が狂ったようにいつまでも笑い続けた。
 その後、トローリングをしていたオッサンのロッドに75cmの大物が釣れた。二人共75cmアップの大漁だ! 「すべては終わった」、もうアマゾンにやり残したことは何もないと思った。しかしその帰路、オッサンが突然ボートを止めた。目がギラギラ光ってる…。「オッサン!どうしたんだいっ!?」
左写真、や、やりました! アスーの78m6.5kg。完璧な魚体です!
右写真、オッサンも75cm6kgをGET! 

 ボートが止まった場所はオッサンの家からわずか500m、モンストロ川とラゴアの合流点だった。そこはシャローのワンドに小さな立木が乱立しなかなか美味しそうなポイントだった。オッサンは「ニヤリ」と笑い、「早くキャストをしろ!」と促した。確かに立木の密集部にはたくさんのアロワナがニョロニョロうごめき、「入れパク」状態。しかし、78cmのピーコックを釣った後では攻める気がしない。第一、日が高く昇りもうすぐ昼飯の時間だ。「腹減った…」。しかし、ボニータの作る魚料理を想像し涎を流していたその時、「ドォッパ〜〜ン」と水面が引き裂かれた! 「なんだぁありゃ!?」、銀色に光る鱗を見てアロワナのバケモノかと思った。「グランデ アロワンナ?」と尋ねると、オッサンは首を横に振り、一言「ピラルクー」と答えた。あれがピラルクーですか…。あれが開高さんも釣れなかった幻の古代魚ですか…。ほんの一瞬で消えてしまったが、モノ凄〜くデカかった。「オッサンはコイツを探していたのかっ!絶対釣るっ!」、ピーコックの78cmを釣った達成感は瞬時に吹き飛んだ!
 コーラで喉を潤し、呼吸を整えた。タックルBOXを開けルアーをチョイスする。ほとんどがピーコック用の中で、この水深でピラルクーを狙うにはこれしかないと思った。ラインを慎重に結び換え、ラパラの「ラトリンラップ8cm22g」をスナップにつけた!
 ピラルクーが跳ねた辺りを丹念に探ってゆく。正直初めての「ピラルクー釣り」に半信半疑だったが、まだ見ぬ大魚のことを考えると心臓が張り裂けそうだった。そして、来たのだ!奴が…。何度目かのキャスト、着水後ルアーを底まで沈めた。そしてゆっくりルアーを泳がせていたその時、不意にロッドが押さえこまれた。咄嗟に軽くアワせるが、ただただ重い。恐らく沈んだ木に引っかかったんだろうと思い巻き上げを止めた。しかし、その木がゆっくりと力強く右に動き始めるではないか! 「魚か!?」と思い強くアワせようと思った途端、ロッドは急に軽くなった。何だったのか? オッサンの顔を見ると、「ピラルクー」と呟き、そして「ニヤリ」と笑った。アワセが軽すぎたのだろう。ピラルクーはそれがルアーだと思わなかったほどの弱いフッキングだったのだろう。ピラルクーとの初戦は俺の完敗に終わった…。
 その日から、「燃える闘魂状態」でこの魚を探しまわった。しかし、巨大で複雑に入り組んだラゴア、そして乱獲の為にピラルクーの数は少ない。そう簡単に奴を見つけることは出来なかった。そこで俺達はピーコックを釣りながら、浮いてきたピラルクーを探す作戦に変えた。

 一方、ピーコックの方は好調が続いた。78cmを釣った翌日、66・65・60cmと続けざまの60アップ! このぐらいになるとファイトは非常にスリリングだが、78cmとの緊張感溢れるファイトを経験しただけに余裕で楽しめた。また、この川で釣りを始めた直後は「Sスプーク」一辺倒だったが、新たなる武器も手に入れた。一つは「バイブレーション」、もう一つは「スイッシャー」だ。「バイブ」はもともとピラニア釣りによく使っていたが、78cmを釣ったことでその威力を認識。特に「スレたポイント」「魚が沈んでいるポイント」で大物を引き出す力があった。「チリチリサウンドのラトリンラップ」はもちろんのこと、「スーパースポット(コットンコーデル社)」は良かった。ジャラジャラとやかましく、比較的浅い水深を攻めることができ、おまけに安い! この日、ワンド入り口の岸際に沿わせて66cmのパッカをGETしてお気に入りに加わった。
 また、「スイシャー」は「ドリームテクノスイッシャー(Wランド社)」しか持っていかなかったが、このタイプは面白い。とにかくピーコックのアタックが激しいのだ! 朝マズメ・夕マズメのベストタイムに、「ジョバッジョバッ」と日本では考えられないぐらい激しく使う。突然に水面が「ドパァ〜ン」と張り裂ける。そのぶんノリは悪いが、「これぞピーコック!」というようなアタックに興奮の連続だった。
 さてその後、ピラルクーの出現に続きまたまた大事件が発生した! 78cmを釣った翌々日、いつものごとく朝一で出撃した。ポイントはラゴアの真ん中にポッカリ浮かぶ小島、巨木が数本立っていた。枝には鶴のような姿をした鳥がワンサカとまっていて、糞をボトボト落としている。俺はこれは美味しいポイントに違いないと思った。この糞に小魚が集まり、それにピーコックが集まる。しかもラゴアの真ん中にあるこのポイントは水通しが良く、ディープとのアクセスが良い。じっくり観察をすると、島の先端から1mほど沖に大きな切り株が立っていた。水深はかなり浅そうだが、ランカーサイズが驚くほど浅い所にいることがあるのだ。
 そして1投目、Sスプークは岸と切り株の間に見事に決まった。着水後すぐさまアクションを加え、ちょうど切り株の脇を通過しようとしたその時、「バフッ」という待ち伏せ系バイトがあった。1度強くアワせるといきなり岸辺のシャローを
「ドバァッシャァァァ〜」、そいつはロッドをのし深場に到達した時「ドォ〜ン」と水面を飛び出した! しかし、オッサンが「グランデ!」と叫び俺がションベンをちびりそうになった時、バレちゃった…。そいつは78cmのピーコックより確実にデカかった。そして丸々と太っていた。ジャンプした時のシルエットが円形に見えたほどだった。オッサンは「恐らくオイトキロ(8kg)を軽く超えていただろう」と悔しそうに顔をしかめた。Sスプークを見るとフロントフックが90lbのスプリットリングごと無くなっていた…。「ここには怪物がいる!」、俺はかつて無いほどに燃え上がった!
左写真(これは綺麗な魚体です!パッカの60cm。ルアーは「Sスポット」)。
右写真(同日に釣れたパッカの65cm。ルアーは「Sスプーク」)。

 ランチを済ませると直ぐにボートを走らせた。どうやらオッサンにはアテがあるようだった。30分以上もフルスピードで川を下るが、ボートが止まる気配はなかった。俺はその間、水飛沫を浴びながら8kgオーバーとのファイトを思い出していた。ヒット後の走りはとにかく凄かった。ロッドを立てることさえ出来なかった。このタックルでホントに捕れるのか? 
「バスワン」の鮮やかな青がなんだかくすんで見えた…。
 そのうちボートは川を反れ細い水路に侵入した。低速で進むとその先はラゴアにつながっていて、そこでエンジンは止まった。「これがラゴア ピラーニャさ!」、オッサンは呟いた。辺りを見廻すと鬱蒼としたジャングルが水辺まで迫り、大木によって光を遮られたそこは薄暗く、なんとも不気味な所だった。
 そこで俺はマリアの「ミスカルナ」を投入した。このシイラ用ペンシルは14cm36gというサイズを誇るだけあってぶっ飛びでハイアピール。バスロッドでは少々持余しの感があるが、この不気味なラゴアではこんな豪快なルアーが何かを起こしてくれる予感がした。
 その距離約35m、岸際に無数に存在する倒木を次々に撃っていった。アタリはそれほどなかったが、全てが美味しそうに思えるストラクチャーの数々に集中力が途切れることはなかった。そして、一際大きな木が横倒しになり、半分ほど水没しているポイントに到った。ルアーを岸スレスレに落し、倒木に沿わせて激しく引いてくる。そしてルアーが木の脇を通り過ぎようとしたその時、「ドッパーン」と水面は炸裂した! 我を忘れるほどではなかったがかなりの大物、ロッドがギシギシと軋んだ。オッサンは素早くオールを握ると魚めがけて漕ぎ始めた。魚までの距離を3mにつめると大きな頭が水面を割った。ボート際まで寄せボガグリップで抜き上げると「70cm5kg」、見事な魚体のアスーだった。1匹目としては上出来過ぎるそのサイズに、オッサンと顔を見合わせてニヤリと笑った。
 それからしばらくの間、俺はキャストをするのを止めタバコを吸った。アマゾンでタバコを吹かすのは本当に気持ちがいい。吹き出すとネットリとした空気に煙が溶け合い、タバコが特別美味く感じられる。今朝の敗北感は煙りと共に消えていった。
 しかし、のんびり小舟に揺られていたその時、水面を黒い影が「スゥスゥー」と横切るのが見えた。「ん!なんだありゃ!?」、良く目を凝らすとそれはワニではないか! その距離約40m、奴はまだ俺に気づいていない。絶好のチャンスは再び訪れた。アマゾンに来たら簡単に釣れるだろうと思っていた外道の王様「ワニ」。しかし、実際は警戒心が強くほとんど狙うチャンスはなかった。ワニを釣るなら今がラストチャンスだと思った。
 俺は力任せにロッドを振り抜き、「ミスカルナ」をワニの先3mに落した。「ボッチャーン」と大きな音が起ったが、ワニは驚きもせず「スゥー」と近寄り、そして「バァグゥ!」と食いついた。その後意識はぶっ飛んだ。気が狂ったようにガンガン巻いた。そして我に返った時、奴は足元にいてギラギラした目で俺を睨んでいた…。
 どうやってランディングしたらよいだろう? そのワニは思っていたよりちょっと大きかった。「ワニ狩り」の時のように首根っこを掴むのは無理に思えた。しかし、助けを求めようとオッサンを見上げると、目は「あの日のように首根っこをムンズと掴んでやれ!」と言っていた。その瞳の奥底に「そんなもん掴みたくないなぁ…」という本心を盗み取った俺は覚悟を決めた。
 ラインのテンションを保ち、ワニを横向きの状態にさせた。素早く首を鷲掴みにし一気に水から抜き上げた。一瞬ビクビクっと首を振り抵抗されるが、指に力を込めるとおとなしくなった。

 その夜、上機嫌の俺はカイピリーニャに酔った。長年の夢だったワニを釣ったことで、「ピラルクー」と「8kgのピーコック」のことは一時忘れることができた。しかし、酔いもだいぶ回ってきてそろそろ寝ようかと思ったその時、オッサンがフラリとやって来た。そして一言「行くぞ!」と呟いた。「行くって、こんな夜中に何処に行くのよっ!?」
ファーストヒットは70cm5kgのアスー! ワニ107cmをハンドランディング! 写真撮影はもちろん「変形シャドー持ち」

 オッサンは「フフフッ」と笑って「ピラルクーを狙うのさ!」と答えた。「ピラルクーを夜釣りで狙う!?」、その響きに何かが起こりそうな予感を感じた俺はハンモックから飛び起き、ボートに飛び乗った。
 ボートは闇の中を走り出した。周囲をライトで照らすが小さな灯かりでは何処を走っているのかさっぱり分らなかった。行き先も分らぬまま夜の闇を走り抜けるのは好きだ。期待と不安がゴチャ混ぜになり、気分が高まってゆく。時折、光に反射してワニの目が怪しく光った。
 途中、エサにする小魚を捕るために寄り道をした。オッサンは口に咥えたライトで水中を照らし、左手でオールを漕ぎながら右手で小魚を次々に突いていった。その中国雑技団も真っ青の荒技に俺の目が飛び出たのは言うまでもない。それからボートは20分ほどノロノロ走り、入り組んだワンドの最奥に止まった。オッサンはボートから降りると「ついて来い」と手招きをした。草木が乱雑に生えるジャングルを10分ほど歩くと視界は開け水辺にでた。オッサンは急に足音を忍ばせ、小声で「ここだ」と言った。そこはラゴアから続くワンドが大量の水草によって入り口を塞がれ、孤立した沼を形成していた。しかし、水中ではラゴアとつながっていて魚の出入りはあるようだった。
 しかし、オカッパリで夜釣りか…。辺りにはワニがウヨウヨしているのに…? しかも、数は少ないがアナコンダまで棲息しているらしいじゃん。あの「スネークハンター」の隊長は夜の水辺でアナコンダに襲われ重傷を負ったよね…。本当に大丈夫なの?
 俺が不安に駆られていたその時、闇夜の静寂に「ゴボォン」という音が響いた! 「あの音は何っ?」、オッサンは「ピラルクーだ! 静かにしろ」と囁いた。
その音はまるで「悪魔の呼吸音」だった。
モンゴルの大物タイメンがTOPルアーにアタックする音にも似ているが、この音はもっと生々しく底知れぬパワーが宿っているような気がした。俺はアナコンダの恐怖を忘れ、その音の持つ圧倒的迫力に熱くなった。
 その音を聞くや否やオッサンはそそくさと準備をして仕掛けを投入した。釣り方はいたってシンプルなもので、「鯰用フックに「カラ」という小魚を背掛けにし、水草際にキャスト。ドラグをユルユルにして待つ」というものだった。「こんなので本当にピラルクーが釣れるのかよ!?」、俺は半信半疑だった。しかも、オッサンが雷魚ロッドで釣りを始めた為、俺に残されたロッドは「バスワン」だけであった。「これでどうやってピラルクーを釣るの…?」、ピラルクーの呼吸音を聞きマックスまで上り詰めたテンションが少しだけ低下した。
 そして、しばらく静寂の時が流れた。「静まりかえるジャングルの中で未だ見ぬ大魚を追う」、テンションが下がったとはいえ、その緊張感はなんとも言えないものだった。時折ピラニアと思われるフィッシュイーターがエサに食いついた。その振動がロッドを持つ指に伝わると、その度に「ピラルクーか!?」と緊張が走った。
 しかし、その緊張感は長くは続かなかった。日が沈んだとはいえ、熱帯のジャングルは蒸し暑かった。草むらの中でジッと息をひそめていると汗がダラダラと流れてきた。その匂いに蚊が集まり、しばらくするとそこら中で「プゥ〜ン」という音が聞こえ始めた。肌が露出している所は隙間がないほど刺され、「痒さ」で気が狂いそうになってしまった。これにはオッサンも参ったようで「ボートに戻ろう」と言い始めた。そしてピラルクーの夜釣りは呆気なく1時間ほどで終了した…。
 オッサンはボートに戻ると「今度は大丈夫だ!」と言い、エンジンをかけた。「今度は」って…。「このオッサン、まだやる気なの?」、蚊と睡魔に襲われ、テンションの欠片も残っていなかった俺はウンザリしてしまった。しかし、オッサンの自信満々な態度に、もう少し付き合ってみようと思った。
 ボートが二度目に止まった場所は、幅25m奥行き50m程のワンドの入り口だった。オッサンはエンジンを止めるや否や山から3m程の枝を2本切り出してきて、ワンドの両岸に立てた。そしてボートから巨大な刺し網を取り出しワンドの入り口を塞いでしまった。そして自信満々に「ちょっと待ってろ!」と言い残し、俺を岸に降ろすと一人でワンドの奥に漕いで行ってしまった。「ま、まさか? オッサンはピラルクーの追い込み漁をする気では…?」 「これは凄いことになったぞ! もしかして捕れちゃうかも?」、一人取り残された俺はドキドキしながらオッサンの行動を見守った。しばらくするとオッサンはワンドの奥に到達しオールで水面を叩き始めた。
 しかし、闇夜にこだまする「バシャバシャ」という音で俺は我に帰った。例えこれでピラルクーが捕れたとしてもはたして嬉しいだろうか? 確かに真近であの魚を見てみたい気がするが、やはり自分のロッドで釣り上げるまでは幻のままでいい。また、この方法で本当にピラルクーが捕れるのかも疑問であった。水平に張っただけの網、しかもワンドの入り口を全て覆い尽くすほど大きくはなく所々で隙間がある。網を少しずつ移動させピラルクーの居場所を狭めていかないと無理じゃないかなぁ…。
 案の定約1時間後、オッサンは苦笑いを浮かべながら戻ってきた。息を弾ませ、Tシャツは汗でベトベト、いつもはスーパーマンの様に輝いて見えたその姿もなんだかマヌケに見えた。俺があまりに「ピラルクー、ピラルクー」と言い続けた為に、オッサンは何が何でもピラルクーを捕らなければならないと思いこんでしまったようだ。疲れ果てしょんぼりと肩を落とすその姿に申し訳なく思った。この夜、「あの呼吸音」と「オッサンの悔しそうな姿」が頭から離れず明け方まで眠ることが出来なかった。「ピラルクーはやはり幻なのか…?」

 それから2日が過ぎ、最後の出撃の朝を迎えた。俺は高台から川を眺めオッサンが目覚めるのを待っていた。この日の釣りが終われば翌日にはマナウスに帰らなければならなかった。8年間思い続けてきた「夢の一時」は終わってしまうのだ…。
 8kgオーバーをバラした後、2日ほど徹底的にラゴアを攻めてみたが結果は惨憺たるものだった。1日やってピーコックは5匹程度、最大で53cm。それにアロワナやタライラーが十数匹混ざる程度だった。魚がスレてしまったのか、それとも俺の攻め方に冴えがなくなったのか? 大型ペンシルを使った「明るく激しいトップウォーター」は爆発の予感が感じれなくなった。そこでこの日は全く違うことをしようと思った。あえて今までとは逆の小型ペンシルを使った「暗〜くセコいトップウォーター」である。使用するのはブラジル製・DECONT社の「Z-90」。このルアーはサンパウロでネルソンさんに選んでもらったもので、9cm17gとアマゾン用としては小型の部類。「チャッカチャッカ」と地味な音を発し、小刻みに首を振る。これを今まで実績のあったポイントに撃ちこんでゆき、じっくりネチネチと攻めようと思ったのだ。
 そして、いつもの様に川辺にオッサンが現われ出撃の合図を送ってきた。俺は坂を駆け降り「ボンジーヤ(おはよう)」と挨拶をした。いつもはこの瞬間がたまらなく嬉しいのだが、この日はなんだか寂しかった。「これで最後か…。」
 釣りを開始して30分、半信半疑で「Z-90」を使い続けた。今まで使ってきたアピールを大きく意識したTOPルアーに比べ、このルアーは小さく地味で動かし辛かった。ネチネチとアクションを加えていると、なんだか日本でバス釣りをしているような錯覚に囚われた。しかし、ワンド奥の立ち木が密集するポイントを攻めていると、木の陰からイキナリ追ってきて「ドォッパーン」とモノ凄いアタリがあった。ノリはしなかったが、この一発が何かを変えた。その後、自分の戦略を信じ、1投1投全てのキャストに集中した。
 するとどうだろう、続けざまに「66cmのパッカ」と「70cmのアスー」が釣れた。いずれも障害物をネチネチと超タイトに攻めた結果だ。最後を飾る魚にはあと1歩足りないが、このサイズが釣れると充実感がある。
 そしてランチの時間が迫った11時過ぎ、岸辺の激シャローに倒木が密集しているポイントを攻めていた。「Z-90」をブッシュの奥に投げ込み小刻みに首を振らせると、一瞬水面が揺らぎ「バシャ」とでた。ブッシュから強引に引き出しディープに誘導すると水面でバタバタと大暴れ、釣れてきたのは自己最大のアロワナ75cmだった。
66cmのパッカ。 70cmのアスー。 75cmのシルバーアロワナ。

 その後、ランチをとるためにオッサンの家に戻った。午前の釣りに満足した俺達はのんびりしたもので、腹いっぱいランチを頬張り軽いシェスタをとった後、15時過ぎに釣りに出かけた。オッサンの息子がボートを漕ぎ、俺とオッサンは交互にキャストをしていった。二人とも気負いは全くなく、美味しそうなポイントがあると譲り合ってキャストをした。オッサンと釣りをするのはこれが最後だと思うと寂しさがこみ上げてきたが、俺はそのゆったりと流れる時間を心から楽しんでいた。しかし、のんびりムードをぶっ飛ばすその瞬間はやって来たのである!
 それはラゴアから細長く続くワンドの最奥に達した時のことだ。ふと岸辺を見ると一際美味しそうなポイントが目に飛び込んできた。そこは3本の木が折り重なる様に倒れこみ、複雑なストラクチャーを形成していた。ルアーを投げ込むのは至難のポイントに思われたが、ブッシュの最奥からルアーを通せるオープンスペースが1箇所だけあった。「このコースは絶対に出る!」、そう感じた俺はすぐさまキャストの態勢にはいった。しかし、ロッドを振りかぶろうとしたその時、オッサンと目があってしまった。どうやらオッサンもそのコースを通そうと思っていたようだ。少しだけ間が開いて、オッサンはアゴを突き出し「お前が投げろ!」と合図を送ってきた。
 そして、俺はルアーをブッシュの最奥、太い木の根元に完璧に落した。すぐにドックウォークを開始し、間もなくルアーがブッシュから抜ける瞬間、「ブォシュ!」と飲みこむ様な感じのアタリがあった。強めに1度アワせると、その魚はブッシュに向かって潜り始めた。「アロワナか!?」 「デカいアロワナだなぁ…」、俺はそんなことを思い強引に魚を引き出した。しかし次ぎの瞬間、巨大なピーコックが水面を割って空中に踊り出た!
 それを見た時、俺は全身が凍りついたように動くことも叫ぶこともできなかった。「ドォパ〜ン」と魚が着水し、オッサンが「グランデ!」と叫び、その後つぶやく様に「ムイト グランデ」と言い直した。俺は正気を取り戻し強く二度フッキングをした。そこまでは確かに覚えている。しかし、その後の記憶はぶっ飛んでしまった…。
 そして我に帰った時、巨大なピーコックはボート際でバタバタと暴れていた。オッサンがすぐさま駆け寄り、ボガグリップを口にはめ込んだ。そしてその巨体が水面を離れ高く持ち上げられた時、俺は叫び、オッサンが大声で笑った。「うおぉぉぉぉ〜!」 「ワッハハハッ!」
 そしてオッサンは俺にそのピーコックを手渡した。それを受け取りその重みが両手にズシリと伝わった時、「遂にやったのだ!」という喜びが溢れてきた。アマゾンは最後の最後に大きく俺に微笑んでくれたのだ。

 そして日が沈み、アマゾン最後の釣りは終わってしまった。寝床に戻った俺はオッサンと酒を飲み交わした。8kgオーバーを釣った興奮は何時間経っても冷めることはなく、俺はブラジルに来てから一番美味い酒を味わった。
 ふと空を見上げると、小さな光が北の空から南に飛び去るのが見えた。「あれは多分マナウス発サンパウロ行きの飛行機だろうなぁ。二日後に俺が乗るはずの時間帯と一緒だもんな…。」 そう思うといよいよ「終わったんだぁ」という気持ちになった。そして「やり残した事」は本当に無いのかと考えた。確かにあのピーコックは最後を飾るのに相応しい魚だった。しかし、心残りがあるとすれば「ピラルクーだなぁ。やっぱり釣りたかったなぁ…」
 そんなことを独りで考えていた時、オッサンが口を開いた。「明日の朝、もう一度ピラルクーを狙おうぜ! マナウスには昼過ぎに向かっても間に合うさ!」。それを聞いた俺はオッサンの目を見てニヤリと笑った。オッサンもそれに答えてニヤリと笑い返した。
遂にこの手に落ちた18ポンドオーバー。82cm8200gのピーコックバス・アスー!

 夜明けとともに目が覚めた。俺は居ても経ってもいられず船着場に向かった。するとオッサンは既に出撃の準備をしており何やら大事になっていた。オッサンが用意したものは「幅25mの刺し網」と「ピラルクー用の銛(オーパに登場したものと同じ)」、そして俺達の乗りこむボートにはカノア(小舟)がロープで括り付けられていた。「何をする気なんだろう? また勘違いしているような気が…」。俺はオッサンのヤル気満々な姿に何も言えずにボートに乗りこんだ。
 しばらく低速で流すがピラルクーは中々見つからなかった。それもそのはず、ここで釣りを行なって12日間
その姿を見たのはたった2回だけだった。最終日だからといって劇的に現われてくれるほど現実は甘くないのだ。
 最終日にボーズというのも寂しいものだ。そこで俺達は「ピーコックを釣りながらピラルクーを探す」といういつもの作戦に切り換えた。これが本当の最後、俺は一番好きなSスプークを選び景気よく水面を掻き回した。その度にピーコックやアロワナが激しくアタックしてきて少しだけ鬱憤を晴らすことが出来た。そしてしばらくするとオッサンの使っていたスイムベイトに50cm半ばのピーコックがヒットした。その魚は激しく暴れ、釣り上げたときにはスイムベイトのボディーが吹っ飛び、骨組みだけになって帰ってきた。最後の最後までアマゾンは驚きを与えてくれるのだった。ただ、あと一つ願いが叶うなら…。

 日は高く昇り終わりの時間が迫っていたが、焦りはなかった。諦めたわけではなかったが、ピラルクーが現われるのは奇跡に近いと思っていた。しかし、終了予定時間まであと1時間余りに迫ったその時、前方約50mで「ザッパ〜ン」という音が響いた。オッサンは直ぐにロッドをオールに持ち替え、その場所に向かって漕ぎ始めた。奇跡は起こった。あとは俺が奇跡を起こす番だ! ルアーをTOPからラパラのファットラップに付け替え、ルアーが届く距離に到達するの待った。
 時間にして恐らく1分ぐらいだろう、ボートはピラルクーの跳ねた地点から20mの距離に達した。オッサンがボートを止めると、俺はすぐにキャストを開始し辺りを丹念に探っていった。そして、10投ほどした頃だろうか? 正面30mの水面が突然「ザッパ〜ン」と割れた。驚きのあまり一瞬動きが止まったが、俺はすぐさまそこにルアー投げ込んだ。ファットラップが着水しリーリングを開始した途端に「グゥ−ン」とロッドが持っていかれた。俺は渾身の力を込めフッキングをし思いっきり巻き上げた。すると「ザバッ〜!」と水面が割れ銀色の魚体が姿を現した。「ピラルクだぁー!!」 しかし、その瞬間にラインはテンションを失った…。
 しばらく口も利けないほどショックを受けた。オッサンが「ペケーニョ(小さかったよ)」と慰めてくれるが、うわの空で「うん…」と頷いた後、言葉が出てこなかった。確かに1mほどの小型サイズだったがそんなことはどうでもいい。最後のチャンスを逃してしまった。「もう終わった…」、俺は溜め息をついて空を仰いだ。しばらく放心状態で釣りを続ける気にはなれなかった。タバコを吹かしぼんやり辺りを眺めていた。しかし、煙りを吸いこみ吹き出そうとしたその時、70m程離れた小さなワンドで「ザバッ」という音が鳴った。「また現われたぁ!」、しかも今度のは相当でかい! 俺はロッドを持ち立ちあがったが、興奮のあまり煙りに咽た。
 しかし、オッサンが俺を制した。銛を取り出しカノアに乗り移ると「ちょっと待ってろ」と合図した。そしてオールを手にし、その方向に向かって漕ぎ出した。「やっぱりアレをやる気なの?」、ガックリときたが仕方がない。今度はオッサンの番だ。俺はその行く末を静かに見守った。
 オッサンは恐るべき早さでそこに到達し、刺し網でワンドを封鎖した。そしてカノアでその中に進入し、銛で水中を突き始めた。何度も何度も水面を突き破り銛が突き立てられた。そして刺し網で囲われた範囲は徐々に狭まってゆき、一部屋分のスペースになった。
 俺はタバコを吹かしながらその光景をぼんやり眺めていた。と、その時。刺し網で囲まれたスペースの中で「ザバッ〜ン」とモノ凄い水飛沫があがった。「ヤツはいるっ!!」 俺はタバコを投げ捨て立ちあがった。一気に緊張感が増し胸が高鳴った。オッサンは前にも増して鋭く早く銛を突き立て始めた。そして俺は固唾を飲んで「その瞬間」を待った。
 しかし、である。ふいにある思いがまた心を過ぎった。

 「止めてくれ…」 「俺はあの怪物を自らの手で捕りたいんだ!」 「いつか必ずあの魚を捕る為に帰ってくる。だから止めてくれ…」

 そして…、その瞬間はやってきた。最後の一撃が放たれ、そしてオッサンがこっちを振り向いた。首を2度横に振った。全ては終わった。しかし、帰ってくる理由はできた。


 
「オッサン! 俺は約束するよ。いつか必ず帰るよ! そして…」。


世界怪魚釣行記