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モンゴル釣行1 2001年9月
そして怪物は横たわり、俺は狼のように吠えた! Part1
 「うおぉぉぉぉ〜!!」、空に輝くまん丸のお月様を見あげ俺は吠えた。目の前に横たわる巨大な魚、1mをはるかに超えるそいつの名はタイメン。夢にまで出てきた魚だ。こいつを手にするために16日もかかった。といっても16日間釣りをしていたわけではない。この場所にたどり着くのにそれだけの時間が費やされたのだ。日本を出る前、知っていたことは「モンゴルのチョロート川には巨大なタイメンがいる」、ただそれだけ。行きあたりばったりの旅はこの夜クライマックスを迎えて、すべての労力が報われた…。
モンゴル共和国 Mongolia(2001年)

首都ウランバートル  面積156万7000Ku
人口241万人  日本との時差-1h(サマータイム時は同じ)

英語がまったく通じない、交通が不便、6〜9月以外は氷点下の世界になる気候など、個人旅行向きの国ではない。その分旅行者が少なく自然は大変豊か。釣りや乗馬、キャンプなど、アウトドア好きの人にはパラダイス!

 乗合ジープに揺られること24時間、湖のほとりの小さな村「タリアト」に到着した。ウランバートルから西に約630km、見わたす限り広がる草原にぽっかり浮かぶタリアトはこの世の果てのような寂しさを漂わせていた。しかし、モンゴルに来てから1週間、怪魚「タイメン」を釣るために続く旅は大きく前進し、その魚が棲むというチョロート川まで数十kmの所まで辿り着いた。そしてこの湖にはもう一匹の怪魚「ノーザンパイク」が棲んでいる。この日は湖のほとりのキャンプに泊まり、酒を飲みながら明日から続くであろう爆釣ロードを想像し独りでニヤついていた。

 翌日、朝早く目が覚めた。9月の初めだというのに寒くてしょうがない。ゲル(モンゴルのテント風住宅)の外では風が「ビュウ、ビュウ」と鳴っている。ストーブに薪を入れ火をたいた。しかしこの薄暗いゲルで暖まっていてもしょうがない。俺は朝飯を食べ、ロッドを握り外に飛び出した!
 キャンプからほんの50mでテルヒンツァガーン湖だ。岸から続くシャローは強風のため波立っていた。おまけに向かい風。ミノーでは釣りにならないので、サクラマス用のスプーン(21g)をチョイスする。大遠投し水草の間をゆっくり引いた。何度投げてもアタリがないためトゥイッチを加えたり、ルアーの色を変えたり、四方八方攻めてみるがウンともスンともいわない。おまけに風はますます強くなり、手が冷たくて感覚がなくなってきた。そこで一度キャンプに戻り、日が差して暖かくなるのを待つことにした。
 風に追われるようにキャンプへ続く道をとぼとぼと歩く。「モンゴル、釣れねーよ!」、ブツブツ言っていたその時、後ろから 「パッカ、パッカ」 と馬の近づく音がする。振り向くと白人の男が白い馬に乗ってやってきた。男は 「ハロー」 と言い、そして 「釣れたか?」 と尋ねた。その後、「名はデビッド、フランスから来た」 「馬に乗って旅をしている」 「馬は遊牧民から100ドルで買った」 「旅を始める前は数学教師だった」 と話は永遠と続いた。俺は上の空だったが、 「ホォー」 と興味深そうに頷いた。しかし、その男が 「食料は釣った魚だ」 と言った時、妖気を感じたゲゲゲの鬼太郎のように鋭く反応した。「Are you Fisherman ?」 「Yes !」 と男は答えた。「Let's fish !」、そして俺達は午後から一緒に釣りをすることになったのだ!


 デビッドのリールはミッチェル、太いラインに特大のメップスアグリアを結ぶ。やはり釣具はメイドインフランスだ。俺はステラ3000にナイロンの16lb。ルアーは21gのサクラマス用スプーン。バリバリのジャパニーズだ。ジャパン対フランス。日本が嫌いで飛び出した割にナショナリストな俺は、密かに心の中で勝負を挑んでいた。
 湖は朝とはうって変わって穏やかだった。俺はキャンプから借りた胴長をはき、ウェーディングで沖のブレイクを狙いロングキャストを繰り返した。デビッドは岸辺に立ちキャストを繰り返すが、タックルが悪いためだろう15mぐらいしか飛んでない。「やはりジャパンの圧勝だな!」 とほくそえんだその時、ロッドが急に「グン」と引きこまれた。結構でかい。引きはシーバスの60cmぐらいだろうか?モンゴルで初めてのまともなサイズ、慎重にファイトし3分ぐらいで足元に寄せた。姿を現したのは念願のノーザンパイク! 「これがパイクかぁ?すごい牙だな!」 「バス持ち」などをしたら指に牙が貫通するかもしれないね…。ランディングに躊躇していると、後ろからデビッドがいきなり大きな石を頭に向かって振り下ろした。そして「プカッ」 と浮かぶパイク。「俺のパイクに何をするんだよ!」と振り向くと、「でかしたタケ。今夜の夕飯だぁ!」 デビッドがニッコリして呟いた。やつは白人には珍しいキャッチ&イート派だったらしい。「まあいいか」 久しぶりに魚料理が食えると納得する俺だった。
 その後デビッドは83cmを釣り上げた。どうやら暖かくなりパイクがシャローにあがってきたらしい。しかし驚いたのはデビッドのファイトスタイル。ドラグなど使わずガンガン巻く、まさに肉食人種の釣り! だが実際海外の釣りにおいて、繊細な釣りより大胆なストロングスタイルが勝ることが多々あり、バカにはできないのだ。

 さて、夕飯は湖のほとりでとることになった。キャンプのモンゴル人に作ってもらったパイク料理が次々に並ぶ。その席には二人の他にルーシーという女の子が加わった。彼女は釣りをしてる最中に出会ったこれまたフランス人だ。麦わら帽子の彼女は両手いっぱいに荷物を抱え、一人で歩いてここまで来たらしい。「草原を女一人で歩き旅!?」、やはりフランス人には変態が多い。しかし彼女のアジア人的な振舞いやルーシーという名にぴったりの明るくアニメチックなキャラクターは「白人イコール横暴」という俺の偏見を変えた。その日俺達はパイクを腹いっぱい食べ、ワインで乾杯した。
(左写真)70cmのノーザンパイク!右に写るのがおフランス野郎「デビッド」。テクニックやタックルには全く無頓着だが開拓者!俺の好きなタイプの釣り師である。 
(右写真)テルヒンツァガーン湖に隣接するトルギンホゴー火山火口部。

 翌日3人で湖に出かけた。俺とデビッドはビックサイズを狙いキャストを繰り返し、ルーシーはひとり水泳を楽しんだ。この日は朝から天気が良く、風も無い絶好の釣り日和だった。
 それは釣りをはじめて30分後のこと。沖に向かってキャストしていたシーバス用ミノーが目の前まで泳いできた時、水中に大きな影が現れた。アワセる暇もなくドラグが「ジィージィー」鳴った。「Big One !」 大声で叫ぶとデビッドとルーシーが駆け寄ってきた。昨日のパイクとは比べ物にならないパワー。ドラグの滑り出しの良いステラを使っていなければ直ぐラインブレイクしていたかもしれない。繊細なジャパニーズスタイルの見せ所、俺は慎重に慎重に闘った。「寄せては逃げられ」を繰り返し、大騒ぎしているうちにギャラリーが集まってきた。これはカッコ良く決めねばならない。しかしどうやって捕まえようか? ネットもギャフも何もない。エラを掴もうにもパイクはのたうちまわっている。そうこうするうちラインがパイクの体に巻きつき絶対絶命に…。デビッドは今夜の飯を逃してなるものかとナイフを取り出し、「刺し殺す!」 とのたまう。俺がその無謀な案に同意しかけた時、ギャラリーの中からモンゴル人が出てきて、むんずとパイクを掴み抜きあげた。あっけにとられる俺達。彼の手にはフックがしっかり食い込んでいた。しかし、モンゴル人は気に留める風もなく「ブチッ」と針を引き抜いた。モンゴル人の大胆過ぎるランディングにジャパニーズスタイルはぶち壊されたが、結果オーライ、目の前には馬鹿でかいパイクが横たわっていた。

 その夜、ルーシーがパイク料理を作ると言い出した。フランス料理? こんな辺鄙な所で世界三大料理の一つを食えるとはつくづくラッキーな日だ。ルーシーの指示で俺は牛の糞を燃料に火をたいた。ルーシーはナイフを器用に使い鱗をはぎハラワタを取り出しパイクを火にくべた。しばらく経ちパイクが好い匂いをだし、これからどう料理するのか期待が高まったとき、ルーシーは 「さあお食べ」と一言。 「え! ル、ルーシーよ。これは一体?」 「それで終わりなのか?」 「What's this ?」 「It's French」と答えるルーシー。「ルーシーよ!これはフレンチじゃない!焼き魚といって原始人でも作れる料理だよ」 やさしく教えてやるが、彼女はただ微笑むだけであった…。
(左写真)94cmのノーザンパイク!
このクラスになると、この魚の単調ファイトもかなりスリリング。
(右写真)パイクを料理するルーシー。出来上がった「焼き魚」は塩もかかっておらず、ちょっと生焼け。しかし、二人ははおいしそうにバクバク食べていた…。

 そして、3人で釣りをして酒を飲み歌った3日は過ぎ去り、別れの時がやってきた。俺はチョロート川へタイメンを釣りに、デビッドは次の町で馬を売り中国へ、ルーシーは歩いていけるとこまで行くらしい。ルーシーがとことこ歩き出した。デビッドが 「バカな女だ!」 とひと言呟いた。俺は馬のケツを叩き走りだす。しかし、「アァァァー」 速い速すぎる! そっちには崖がある。俺がたどり着くのはチョロートか、あの世か? 馬に聞いても 「ヒヒーン」 と答えるだけだった…。

・・・・・・・

 「これがチョロート川なのか…?」 見渡す限り広がる大草原、突然に現れた大地の裂け目。そこにはあまりにも美しい川が流れていた。ここまで来るのに既に16日が経過していた…。
 8月25日、日本から中国の北京に飛び、モンゴルビザを取るため一週間の足止め 〜 そこから国際列車に揺られること31時間 〜 首都ウランバートルに着いたはいいが、モンゴル語が分からずバスのチケットも満足に買えない 〜 親切なモンゴル人に拾われ、居候してモンゴル語の勉強に励むこと5日 〜 乗合ジープに揺られ24時間後、湖のほとりの小さな村タリアトに到着 〜 そこからチョロート川は60km離れていると聞かされショックをうける 〜 馬に乗ったフランス人デビットが風とともに現れる 〜  彼から馬の乗り方を習い、モンゴル人から2頭の馬を借りる 〜 馬を走らせること8時間。野犬に追われ、ケツの皮がすりむけ、馬の暴走に死を予感し…。太陽が西の空に沈む頃、やっとたどり着いたチョロート川。
 その夜は川の上の崖にテントを張り、死んだように眠りについた。

 次の朝目覚めると昨夜まで一緒だったデビットは消えていた。「Good Luck !」 と一言、置手紙を残して…。フランス人らしい感傷のかけらもない別れ方。釣り友達で乗馬の先公、風とともに現れ風のように去っていった男デビット。シブすぎる! 「真の旅人よ、またどこかで会おう!」 
 しかし別れを惜しんでいるひまはない。目の前にはチョロート川が流れている。崖を下り、さっそく釣りを開始した。14lbラインに7cmミノーを結びファーストキャスト。ただ巻きに軽くトゥィッチを加えゆっくり巻いてると、突然「ゴンッ」ときて、ドラグが「ジィージィー」 鳴りだした。川の流れにのせて慎重に岸によせるとレノック(コクチマス)だった。メジャーをあてると63cmのランカーサイズ。大騒ぎしながら写真をバシャバシャとりまくった。しかしそれは祭りの始まりにすぎなかったのだ! その後、スプーンに小型ミノーにシーバス用ミノー、何を投げても釣れてくる。みんな50〜60cmぐらいのグットサイズだ。「ここは地球最後のパラダイスだ! 俺だけのパラダイスだ! ヘヘヘッ!」 楽しすぎて頭が変になっていた俺は一人つぶやいた。しかしそのとき、浮かれた俺を叩きのめす悪夢が迫っていようとは夢にも思わなかった…。
(写真) 
63cmのレノック!
この他に40〜62cmが42匹。
アタリ&バラし50回以上!
4時間の釣果

 川の流れが 大きな岩にぶつかり深場を形成する絶好のポイント。8cmミノーが深場から目の前のシャローにさしかかったその時、巨大な黒い影が近づき 「パクッ」、とたんにロッドがしなった。「タイメンだぁ!」、 アワセを一発くらわせると水面から飛び出しジャンプ、「ドボーン」とすごい水飛沫があがった。「でかい!でかすぎる!」、1mは余裕でオーバーしている。ラインは14lb、ロッドはスーパーで買ったお子様用(1500円)でフニャフニャしている。小手試しに使ったお遊びタックル、しかし後悔している暇はない。 タイメンは左・右へと暴れまくったあげく、目の前の深場でステイしている。かなりの時間が経過しているのに全く疲れている様子がない。まるで何事も無かった様に悠々と泳いでいた。
 やはりこのタックル、そして「14lb適正のドラグテンション」ではこいつを疲れさせることもできない。俺は意を決しドラグをギリギリまでしめ、ポンピングアクションで魚を動かすことを試みた。ラインを巻いては出され、魚を寄せては逃げられ、10分あまりが経過したその時、急にラインのテンションが消えた。「切れた!」 その場にへたりこむ俺。ラインはベロベロに伸びきっていた。魚にいいように遊ばれ、何もできなかった。ランディングする自分の姿をイメージすることができなかった。タイメンとのファーストファイトは完敗に終わった…。

 満月に照らされた断崖を恐る恐る下って川岸にでた。後ろからモンゴル人がぞろぞろついてくる。今朝タイメンに敗れ、フラフラ歩いている時に出会ったウランバートルの大学の野外研修生だ。彼らに3歳児レベルの拙いモンゴル語で大物をバラシたことを言うと、今夜一緒に釣りをしようと言ってくれた。その後、崖の上に立ち双眼鏡で川を眺め、みんなでタイメンを探した。すると一人が「トムトル(デカいタイメンだ!)」と叫んだ。話を聞くと150cmぐらいの大物が泳いでいると言う。双眼鏡を覗くが日本人である俺の目にはなにも見えない。しかし、急流が大きな岩にぶつかり深場を形成する典型的大物ポイント。150cmは大げさだとして、メーターオーバーがいても不思議ではないと思った。

 
そして深夜、そのポイントに立った。モンゴル人が言うにはタイメンの大物は夜中によくでるらしい。タックルはシマノ社アンタレスにPEの26lb。今回の遠征では最強のものだ。フロッグ(トリプルフックをつけ改造)を結び、ドックウォークで誘った。すぐに 「バコッ」 とレノックのアタリがあった。そして何匹かのレノックを釣ったあと、ひときわでかい捕食音が響いた。ロッドがしなりドラグがでる。しかし直ぐに竿先が軽くなった。「バレた!」。恐らくタイメンの鋭い歯がフロッグに食い込み、フッキングが完璧ではなかったのだろう。そこでモンゴル人のススメもあり、モンゴル製のネズミルアーにチェンジした。これは首都ウランバートルの市場で買ったもので、全長12cm重さ約1ozのトップウォーター、浮力材にネズミの毛皮を縫いつけただけのなんともモンゴルらしいシンプルな代物。しかし開高さんの著書「オーパ」にも登場しており、この国のルアーマン(数えるほどしかいないと思うが…)から絶対的信頼を得ている。たぶんこの大きさではレノックのアタリはないだろう。アタックしてくるならタイメン以外にはない、そう信じてキャストを開始した。
 しかし何度キャストしようが一向にあたりがない。見た目はネズミそのものだが、水に浮かべると全然泳がないこのルアー。あきらめムードが漂いはじめ、俺は半ばやけくそ気味にロッドを振り続ける。だが、上流側の「流れがひときわ激しいポイント」にロングキャストし、着水と同時に強くジャークをくわえた時、「ゴボッ」 という音が谷に響いた。とっさにあわせるとロッドが極限までしなり、得体の知れない重みが伝わってくる。そして直ぐに「その重み」がゆっくり動き始め、こっちに向かってきた。それが目の前5mを通過するとき、モンゴル人が握る懐中電灯に照らし出された。「トルゥッ!」 一斉にモンゴル人達が声をあげた。俺はそのあまりの大きさに 「ウキャァァー」 と女の子の様な悲鳴をあげる。「やばい!やばすぎるでかさだ!」 足がガタガタ震えた。モンゴル人の失笑も気にならなかった。タイメンはゆっくりと、そして力強くラインを引き出していった。まるで牛がかかっている様な感じ。26lbとはいえ川には巨大な岩がゴロゴロ、引っかかったら一発で切れるだろう。興奮しながらも、慎重に慎重に闘った。
  どれぐらいの時が流れたのだろうか? タイメンは俺の足元まで寄ってきた。だがどうやってランディングしたら良いのだろうか? ネットもギャフも何もなかった。悩んだ末、エラに手をかける。しかしタイメンは驚いて暴れる。そんなことを何度も繰り返したがうまくいかない。これはもう「釣りキチ三平式ランディング」しかないだろうと思い、意を決し冷たい川に飛びこみタイメンを抱きしめた。奴も最後の力を振り絞り俺を水中に引き込もうとする。「うぉらぁぁぁー!」と火事場のくそ力、タイメンを抱き上げあげ地面にほおり投げた。

 そして怪物は俺の前に横たわった。「うおぉぉぉぉ〜!!」 空に輝くまん丸のお月様を見あげ、俺は吠えた!
(左写真)
115cmのタイメン!
昔からこんなポーズで写真をとりたかったのだ! 
(右写真)
「お、重い!」 撮影後、棒が折れた。
(左写真)
シマノ社アンタレス5と安物ロッド。
タイメンの口元にはモンゴル製ネズミルアー。
(右写真)
腹をさばくと消化しかけのレノックがでてきた。
そのサイズ50cm!