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2008.1.12 もしもロックスターが小説を書いたら(向井秀徳編) |
「長州liquor」 坂が多いこの街には、さまざまな人間が生活している。たとえば、電信柱の陰から客を引く遊女であったり、その遊女を買おうとするやくざであったり、潜入捜査のためそのやくざと行動を共にする刑事であったり、その刑事にまんまとおびき出される女衒であったり、猫であったりした。やくざは「貴様刑事でありましたか」というような意味の怒鳴り言葉を吐いた。「はいそうです」と刑事は言った。女衒は、びびっ、ていた。猫は人類がおりなす種々のDORAMAに見向きもせず目を光らせ暗闇に紛れる。遊女は猫と一緒にどこかへ行ってしまった。街は夢見がちだった。そんな街で俺は街を見ていた。 夜である。ピア・ニカを吹きながら通りを歩いていると、下り坂に出くわす。下り坂は、俺をおののかす。底が見えない。俺はピア・ニカを吹くのをやめ、ポッケから酒を取り出した。サントリーのオールドを酒瓶に詰めておいたのである。グビイと酒をやると、下りの恐怖から開放される。「ダルマ!」と俺は叫んだ。そして転がった。酒を浴びながら転がった。ボブ・ディランの声真似を披露しながら転がった。するとド、と何かにぶつかった。 見ると大仏である。背丈は人間と変わらない。地蔵よりはでかく、ねぷたより小さい。街はこのような大仏まで日常に浸透させていたのか。俺はピア・ニカの「ラ」音で驚きを表現した。同時に大仏がこんな俗世間の往来を行き来してよいものなのか考えた。しかしそれを大仏に言ったところで「オイは大仏タイ」と返されれば口をつぐむほかない。俺は黙っていた。大仏は先ほどまで俺が立っていた坂の上を大仏らしいやわらかな大仏の目で見、ていた。 「そこに何があるのですか」と俺はピア・ニカの「レ」音と「ソ」音と「ソ・シャープ」音を駆使して訊いた。大仏は答えなかった。ただ坂の上を眺めるだけだった。「その目は見えているのですか」と俺はピア・ニカの「ド」音と高い「ド」音で訊いた。大仏はやはり眺めていた。視線は街を通り抜けて坂の上の雲まで届いていそうなほどであった。「DONDAKE!」と俺はピア・ニカを駆使せず言った。大仏は悠然としていた。俺は酒をゴボオと飲んだ。 用意した六本の酒瓶があと一本になろうとしていたとき、それまで微動だにしなかった大仏の眉間に、赤子のふるう彫刻刀でつけられたようなほんのわずかな皺が入った。俺はそのころ既に頭から酒をぶちかぶる段階に移行していたが、何事かと思い仏の視線の先を追った。坂の上に、少女。俺が見た遊女と同じように、客を待っているようだ。遊女と違うのは、年齢だった。アルコール分が眼球に直接触れているため正確に判断はできなかったが、おそらく、またハイスクールで少年と乳繰り合っているのが相応ではないか。しばらくするとやくざが来て、少女を買っていった。この街では見慣れた光景だった。 「悲しいのですか大仏」と俺は言った。 「断腸の思いです」と大仏は初めて口をきいた。 「そんなときは酒です」と俺は言った。 「酒は飲みません」と大仏は言った。 「じゃあラーメンです」と俺は言った。 「いいですね」と大仏はにこやかに大仏的笑みを浮かべた。 |
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