チビ子
チビ子との出合い

私は以前東京の青梅に住んでいたので、奥多摩によく遊びに行っていたのですが、その日は鳩の巣駅で下車しハイキングコースを散策していました。川を渡り岩で作られた階段を上り終えると、目の前に休憩所があったので、木で作られたベンチに腰掛けていると、突然生後6ヵ月位の仔猫が鳴きながら僕の足元にやってきました。
山の中に捨てられてずっと鳴き続けていたのでしょう。仔猫なのにガラガラ声で「アーオ、アーオ」と鳴いていました。すぐにベンチの上に上がってきて私の膝の上に乗り甘えてきました。山の中なので夜は完全な闇の中にたった一匹で過ごしていたせいか、安心しきって眠っていました。
よく見ると頭の毛が少し抜けていてその部分に小さなきのこが3本生えていました。「うそー」と思いながらよくよく見てみるとそれはダニでした。中でも一匹は直径8ミリ位の大きさのダニでしっかりと頭にくいこんでいました。
私の腕の中にいるこの小さな猫をなんとか助けてあげたいと思ったのですが、ペット禁止のアパートに住んでいたので後ろ髪をひかれる思いでその場を後にしました。仔猫は私の後を追いかけてきたのですが、休憩所を出ると立ち止まって私の姿を見ながら「アーオ、アーオ」とずっと鳴いていました。仔猫のことが心配で遠くの方から様子を眺めていると、休憩所に来る人来る人に鳴きながら近づいて助けを求めていました。
アパートに帰っても仔猫のことが心配でずっと心を痛めていたのですが、その日は土曜日だったので、もしかしたら心優しい人がいて拾ってくれるのではないかと密かに期待をしていました。
場所が場所だけに食べる物もなく、万一誰にも拾われなかったら死んでしまうのは確実だったので、日曜日にペットキャリーと猫カンを買って月曜日に再びあの場所へ行ってみました。僕は内心仔猫がいないことを期待していました。たとえ私が飼ってもアパートの小さな部屋で一人ぼっちで留守番をさせておくことになり、けっして猫の幸せにはつながらないと考えていたからでした。
岩の階段を上り終え、恐る恐る休憩所を見渡して見ると・・・いました。なんと誰にも拾われずに仔猫はまだそこにいたのでした。私の顔を見ると一足飛びにやって来て足にまとわりついてきました。急いで猫カンと水をやり10分位して仔猫をペットキャリーに入れて帰りました。でもその道中が大変でした。急な岩だらけの階段を慎重に、汗だくになりながら降りて無事駅に辿り着いたのですが、電車の中では青梅駅に着くまでずっと鳴きっぱなしで、人の目もありとても恥ずかしかったです。
何とかアパートに到着し急いでピンセットで頭のダニを取ろうとしたのですが、しっかりと食いついていて引っ張り上げると頭皮まで一緒に上がってきたので、諦めて暫くそのままにしていました。仔猫は頭が気になるらしく何度も後ろ足で掻いていましたがあれ程食いついて取れなかったダニを自分で取ってしまいました。でもダニの影響で頭の毛が抜けてしまい、直径1センチ位の円形ハゲができてしまいました。
よほど疲れていたのかそれから3日間爆睡し、4日目にようやく目を覚ましました。それからは片時も僕のそばを離れず、トイレに行く時もついてきて、ドアを閉めると扉の向こうで悲しそうな声で「アーオ、アーオ」と鳴いていました。こんな可愛い仔猫を捨てた飼い主を見返す為にも、この仔猫を出来る限りの愛情を持って育てていこうと決意しました。

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おてんば娘

私はこの猫を「チビ子」と名づけました。最初は大人しいメス猫だと思っていたのですが、それが大きな間違いだったことがすぐにわかりました。夜眠るまで走り回り、午前二時か三時には起きだしてカーテンを一気に駆け上がり、下りられないので私を呼ぶのです。それを20分位繰り返し疲れて眠りにつくのですが、朝四時半頃になると再びこの「小型怪獣」が眠りから目を覚まし、私を起こしにかかるのです。
最初は甘えた声で鳴いたり、私の顔を軽く引っ掻いたりしているのですが、無視していると顔にかみついてきて、それでも布団を頭からかぶり無視し続けていると、今度は足元の方にまわり足を引っ掻き、かみつきにかかってくるので、さすがに寝てはいられません。
そうこうしているうちにアルバイトにいく時間になってしまい、身支度を整え部屋を出て行く時には当の本人は遊び疲れて熟睡し、夢の中です。その時はさすがに少し腹が立つのですが、可愛い寝顔を見るとつい許してしまいます。それが毎日続き私は寝不足の日々を送る生活が続くのでした。

問題児

チビ子はメス猫なので避妊手術を受けさせることにしました。獣医さんの所に一晩預けて帰ったのですが、翌朝引取りに行った際に獣医さんから面白いエピソードを聞かされました。獣医さんが夕方診察室にいた時受付の方で「こんにちわ」という声がしたので行ってみると、誰もいませんでした。
声の主はチビ子だったのです。奥多摩の山の中でずっと鳴き叫んでいて声帯をつぶしてしまった為、すっかりだみ声になっていて、おまけに普通の猫のように「ニャーオ」という鳴き方ではなく、「アーオ」とか「オワーオ」というへんな鳴き方をするので「オワーオ」とだみ声が重なり合って「こんにちわ」に聞こえたみたいです。
避妊手術が無事終わり、お腹の包帯が痛々しくみえるチビ子でしたが、1日も経つと口を使ってあっという間に全部取ってしまいました。それでも一週間位は大人しくしていましたがほっとするのも束の間で、今度は糞の中にたくさんの条虫がうごめいていました。
急いで獣医さんの所に連れて行き、条虫はいなくなったのですが、カーペットに輪ゴムのような物が落ちていたので拾ってみると死んだ回虫でした。トイレの中にある糞を調べて見ると、たくさんの回虫がうごめいていました。再び急いで獣医さんの所に行き薬をもらって何とか回虫はいなくなったのですが、何日かして糞の中を見てみるとまたしても条虫がうごめいていました。薬を貰いに獣医さんの所に行くと、こんな猫は初めてだと言われました。
僕もこんなに手のかかる猫は初めてでした。それでも頭に三匹のダニをくっつけて助けを求めに来た姿を思い出すと、放っておけない「問題児」です。

チビ子の移転

チビ子と暮らして半年が経ち1才位になったのですが、相変わらずのおてんばぶりで私は睡眠不足がたたり胃腸をこわしてしまいました。エサを食べ終わると必ずベランダに出る姿を見てストレスがたまっているのではないかと思い、チビ子を茅ヶ崎の実家に預かってもらう決心をしました。
両親は犬や猫があまり好きではなかったのですが、捨て猫と聞いて快く引き受けてくれました。実家に二日間私も一緒に居てあげて青梅に帰ったのですが、すぐにチビ子も家を飛び出していなくなってしまいました。運悪くその夜から翌日にかけて大雨が降り、二日経っても音信不通で両親もあきらめかけていたそうですが、三日目の朝方チビ子は実家に戻って来ました。二日間寂しい思いをしたせいか、急激に両親に甘え始めたそうです。
それからは青梅に居た頃のおてんば娘の本性を出し始め、ソファは爪とぎの道具と化しました。外が大好きで食事と眠る時以外はほとんど外で過ごしています。その為生まれたばかりの子スズメはチビ子のかっこうの獲物となり、家の中にくわえてくるそうです。その度に母に怒られるのですが言う事を聞きません。
母が二階から様子を見ているといつも鳩を追いかけ回し、時には5羽のカラスに囲まれて大立ち回りを演じて、血だらけになって帰ってきたこともあったそうです。さすがのチビ子怪獣もカラスには勝てません。
それまで動物に全く無関心だった父も自分の膝の上に乗せて可愛がっています。チビ子は24時間お構いなしの生活をしているので、夜中の1時頃帰ってくることも多く、一部屋だけガラス戸が一年中少し開いています。そして朝4時頃再び外に出て行くのでその度に雨戸を閉めたり、玄関のドアを開けたりしなければならないので両親の身体が心配なのですが、当のチビ子はそんなことはおかまいなしに女王様ぶりを発揮しています。
今年の夏(2004年)に帰省した時にチビ子の肛門から条虫が飛び出していたので、病院に薬を貰いに行きました。実家に来て7年になるのに相変わらず皆に迷惑をかけているチビ子ですが、皆に可愛がられていて本当に幸せな猫です。