スーツは「洋服」です。靴と同じくヨーロッパのものです。同じヨーロッパ人が作り上げたものですから、靴も服も同じ志向性を持っています。ヨーロッパ諸語の言い回しで、靴を「履く」のも服を「着る」のも同じ語を使うことが多いのは、そのあらわれです。例えば英語では、服を「着る」のも、靴を「履く」のも、帽子を「被る」のもみな同一表現でPut onです。同じ思想で身につけるもので3つの違った付け方ではないわけです。まして服を「羽織る」など、ひどい表現と言えます。

 靴は足を入れれば履けます。はき方は難しくありません。同じ思想でつくられた”洋”服も、靴をはくように袖を通して身につければそれで終わりです。着方は難しくありません。これに対して和服(着物)は直線裁ちの平面構成で、着付によって体の曲面にそわせますので着付けが難しく、着付けを学ばないと正しい着付が出来ません。着付の講座や着付の先生があるのは、和服が服として半製品で、着る人が着付によって完成品とするといえます。

 これに反し洋服は完成品で、靴のように成型されているのが本来です。

 さて、良い洋服に要求される属性は、良い靴に要求されるものと本質上全く同じです。同じ「洋」の思想から発しているからです。

1.
クリーン(きれい)に仕上がっていること。
2.
形が良いこと・・・デザインが良いこと。
3.
小さすぎないこと。
4.
大きすぎないこと。
5.
当たるところがないこと。足によくそっていること。
6.
意味のない余分の空間がないこと。
7.
履き心地・歩き心地がよいこと。
8.
型崩れしないこと。
9.
軽いこと。
10.
柔らかいこと。

以下ポイントを順を追って説明します。


 




 これは説明するまでもないと思います。
 熟練した手で丁寧に巧みに縫われて仕上げられていることが大切です。クリーンでシャープな視覚的美しさを出すために採用されている手法をいくつか摘出してみましょう。

 カラー、ラペル、フロント・エッヂ、ゴージ刻みをすっきり仕上げることは服の美観に大きな影響を及ぼします。ラペル、フロント・エッヂを出来るだけ薄く仕上げることによって、この目的が果たせます。

 当社作製のスーツのラペル、フロント・エッヂは縫代の巾が狭く、片側は、わずか3ミリです。

 ほとんどの日本の既製服の縫代は5〜7ミリですので、フロント・エッヂが厚くなりボタッとした感じでシャープさがありません。カラーの縫代も2〜3ミリを残して切落されてしまいます。

 このエッヂを押えるために刺子ステッチをかけますが縫代がわずか3ミリしかありませんので、いやでもその中間に、多くても端から2ミリのところに針を落して刺さなければなりません。

 これはある程度の量産を行わなければならない既製服工程への要請としては、ちょっと驚異といえます。

片方の縫代を3mmにカットしています。
端より0.15mmの処にAMF刺子ステッチ


 3ミリ縫代のフロントと、同じく短い縫代の身返しとを毛抜き合わせに押えて薄いシャープなラペル、ゴージ、フロント・エッヂのラインを出してあります。

毛抜き合わせで出来上がったシャープなラペル・フロントの線

 毛抜き合わせにするためには、フロントと身返しの地縫いを少しの曲がりも蛇行もなく完全に前端線に合わせて縫わなければなりません。少しでも曲がると逃場がありませんので、大切なラペル、フロント・エッヂ線に凹凸が出てしまいます。大変な注意の集中と熟練を要します。


 3ミリ縫代のフロントと、同じく短い縫代の身返しとを毛抜き合わせに押えて薄いシャープなラペル、ゴージ、フロント・エッヂのラインを出してあります。
 衿刻みの四つのポイントを、きれいに指先で揉み出して揃えてあります。人間の目はパターン認識にすぐれていますので、わずかの違いでも、何となくおかしく不細工だと見分けられてしまいますので、これは一着一着丁寧な作業を要する仕事です。
 プラムの服は上衿のポイントもラペルのポイントも縫代を極端につめてきれいに中が掃除してありますのでとてもすっきりしてみえます。


 プラムの服のボタン・ホールの穴かがりは、今の時点の日本の既製服の中では一番きれいで縫目が細かく丁寧なものの一つです。

 クリーンでスカッとした印象を与えるため無視出来ないポイントです。



 プラムの服は胸ポケットの処理にまで細心の注意をはらっていることが、下の写真でお判りいただけるでしょう。
 




 プラムの服のカラーは純正鎌衿です。総ハンド仕立てのイタリアン・クラシカルの服作りのカラーを既製服工程で実現しています。

着用時の肩、首回りクリーンである

 上衣は首廻りで着て背骨に全重量がかかる服が正しい良い服です。背骨は重い頭と上体を支えて重さを感じない強い構造ですので、重い素材の冬服も椎骨に重量がかかる限り重さを感じません。鎌衿は何よりもそのためのものです。

 首廻りにカラーが吸着くような形で上衣の重量を背骨にかけるのが鎌衿の大きな目的です。


 ギャバジンや麻地など韋伸びのない布地が素材の場合、カラーを切替える(バナナを入れる)ことは正しい手法ですが、鎌衿を作るために素材の如何を問わず切替カラーを行うのは、安易な解決といえましょう。

プラムの服のカラーは古典的な平ごての上で、純正鎌衿ごろしでプレスしてあります。一般のものの5倍の手間と時間のかかるプレスです。
 




 天空に届けとばかり高く高くのびる石造りのゴチック建築を可能にしているのは迫持の力学構造です。この技法をスーツの肩作りに導入したプラムの服の肩は迫持構造になっていて重力に逆らって肩峰を持ち上げます。

 このイラストレーションは、ゴヂック寺院のアーチづくりを描いたものです。
 プラムの服の肩は、この構築方法と全く同じ原理を採り入れてつくられています。

●ノーマルな肩の持主が着た場合、上衣の肩峰が浮いて体の肩峰との間に0.5〜1センチの空間を作ります。

標準の肩

●なで肩の持主が着た場合にも、普通に想像されるよりは上衣の肩峰が落下せず、体の肩峰との間の空間はより増大し、著しい”抱き落ち”は生じません。

なで肩


●いかり肩の持主が着用した場合には、極端な「衣絞掛け肩」でない限り上衣の肩峰のアーチの中に体の肩峰が収容されて、肩峰が当らず背面の「つき」じわが出るのを最大限に防ぎます。

いかり肩
 




 プラムの服の袖付は一着一着ハンドのしつけ縫で仮付してから本縫されています。
 又プラムの服のアーム・ホールは肩・腕の動きを研究した結果、導出された独特の”そら豆”形です。機能性にすぐれたこの形は日本で初めてのものです。

大きい服なら誰でも作る


VENETOはタテ地の目が直線です

タテ地の目がネック方向に曲る
 肩峰が当たらず、前肩が当たらず、腕を動かした時Omeroが当たらず、運動が楽な上衣が機能的ですが、体にフィットして機能的な服を作るのは困難です。
 そこで大方の日本のスーツは、内径を大きくすることによって逃げるのが普通です。

 ●胸廻りを大きくする。
 ●アーム・ホールを大きくする。袖を太くする。

 これでは楽にはなりますが、体や腕の動きにfollowして服や袖が動くのではなく、体・腕が服の中で泳ぐことになり、洋服の本来の思想から外れて、”洋袋”→羽織に近づき、シェイプはがたがたになり、洋服本来の美しさ、体の動きにつれての美しいドレープによる本当の洋服の美しさは望むべくもありません。易きにつく怠惰なメーカー姿勢と言えましょう。

 又洋服は制作の過程で、前身頃上部の韋地の目をどうしても伸ばしがちになります。
 ヨコに服を伸ばすとタテ地の目がネック方向に曲る。
   ↓
 上衣が後ろに引かれ、肩が当たり、後身頃に”しわ”が出る。袖付線が体のアーム・ピットの外にはみ出し、袖付線が当たり袖が上腕に巻きつく。
   ↓
 服を大きくし、袖を大きくして逃げを打つ。となると、もう最低の服です。

 年ごと、シーズンごとの流行の変化につれて、大き目の服が好まれたり、タイト気味の服が好まれたりしますが、服作りに要求される事の本質は不変です。
 




 プラムの服は湿度によって呼吸します。
 
IWSの宣伝文句の通りウールは生きていますので、吸湿すると毛織物は伸び、乾燥すると短くなり、絶えず動いています。

 プラムの服は日本の通常の晴天時の湿度(45〜60%)の時を基準に作られていますので、その時の状態が最も美しい。
上下10%前後の乾湿の変動に伴う素材の動きによる服のdeform-ationは吸収されて現れないようにshock adsorberが構造的に計算されて組込まれていますのでほとんど変化はありません。

 それ以上の湿度の変動は
 乾の場合・・・フロントやポケット・フラップが、やや反り気味になりますが、normal湿度になると元に戻ります。
 湿の場合・・・大問題です。例えば、湿気る洋服箪笥の中に長時日放置した場合、湿度変化に伴う動きの激しい素材(ギャバジン、タッサー等)で作られた服はプラムの服といえどもdeforma-tion(変型)をおこして、どうしようもなく見えます。

 だが一寸待って下さい。あわててプレスしようとしないで下さい。
乾燥した通気の良い室内にハンガーを移して1〜2日放置して、芯も含めて服全体の湿り抜きをして下さい。フロントが刺子ステッチで押えてあるプラムの服は元の状態に復して、まず再プレスの必要はほとんどないのに驚かれるでしょう。

 これが純正イタリアン・クラシカルによる本仕立の真髄です。あわてて家庭などで素人がプレスすると服をこわしてしまいます。
 まずはそのまま湿気抜きをして下さい。ほとんどの日本のスーツは、湿度によって型くずれ(deform)したら不可逆的で、自分の力では元に復しません。

 フロントに刺子ステッチのないプレイン・エッジのプラムの服も基本的には同じように復元しますが、フロント・エッジが水に濡れたズボンの折目が消えるように(素材によって程度の差はありますが)膨らんだのだけは復元しませんので、フロント・エッジをプレスで押えて折目を作ってやて下さい。

 刺子ステッチは視覚的な飾り目的だけでしてあるのではありません!

 


 出荷時にはプレスで押えて消してありますので目立ちませんが、日がたつにつれてプラムの服の見返しにはヨコ方向に凹凸が目立ってきます。この”いせ”はわざと入れてあるもので欠陥ではありません。目的は大気中の湿度の増減につれて伸縮するフロントをいつもクリーンに張って形を保つためです。
 毛織物はHYGRAL EXPANTIONといって大気中の湿度が増えると水を吸って伸び、乾くと水をはき出して縮み絶えず呼吸して動いています。

 プラムの服のフロントは極立ってクリーンですが、これは千差万別の表素材の物性を一つ一つ吟味の上必要とされる見返しの”いせ”の量を計算し、素材が異るごとにその量を変えて、正しく入れられてあるからです。見返しはフロントをクリーンに張るための”ばね”です。見返しに正しく入れられた凹凸(いせ)は良い服の一つのしるしです。
 



 裏地は毛織物でなく、湿度によって伸縮しませんので、見返しとフロントの呼吸を妨げないようゆとりが取ってあるのです。
 




 余分の空間がなく、ぴったりと腰、下腹部・ヒップを包むはき心地の良いシート設計。
 歩行の時、左右の脚部がプーリー(同軸滑車)を支点に動くように、滑らかに前後に動き、とても快適です。大腿部でズボンを押して前へ出すという”当る”感覚が殆んどありません。
 





芯裾えの検査

前身、見返し合せ検査

袖付の検査

三面鏡の前での着用検査