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  • 短編小説 はじまりの朝


          岡田 流明


    「君はこれから養護施設に預けられる。みんななんらかの理由で親がいない子供が生活している所だよ。」
    そしてついに養護施設に入るときが来た。養護施設は思ったより大きかった。 沙絵は幼稚園を大きくしたような場所だと感じた。廊下を通されて、園長の部屋に着いた。
    「今の時間施設の子たちは普通の子と混じって学校にいっているわ。子供達が戻ってきたらあなたを紹介するわね」
    園長は優しい口調で話し、施設の中を案内してくれた。
    養護施設に入るまえのイメージは、暗くて怖いイメージなどをもっていた。友達など作れるのか不安だった。
    施設の子供達は続々と帰ってきた。施設の職員は明るく挨拶をしてくれるし、沙絵を紹介してくれた。子供達は学校から帰って来ると、手洗いうがいをした。そのあと公文の問題をやりはじめた。よく見るとお互い教えあったりしている。

    今日は慌しく時間が過ぎて、これから仲間になる子供達とは話す時間があまりなかった。そんな一日目の夜だった。
    四人部屋にある上下のベットでやえは布団に入った。
    となりのベットから声が聞こえてきた。たしか鏡子という子だ。

    「ここの感想はどう?」

    突然聞かれ、沙絵は返答に困った。

    「思ってたより過ごしやすいところね」

    となりの闇から、鏡子がうんうんとうなづいているように思えた。

    「掃除の時間と公文の時間を除けばね」

    沙絵はなおも答えた。
    するととなりから

    「一筋縄ではいかない連中もいるから気をつけることね」 と言われた。

    幾日かたった夕飯時のことだった。
    低学年グループの一人が、突然手を銃の形にしてしゃべった。

    「俺はテロリストだぞ!!、、、、だだだだだだ」

    場はその行為に乗せられて打たれて死ぬ者があり。ただぼーぜんと事の成り行きを見るものもいた。グループの反対側の男の子が立ち上がると

    「我々は、断固としてテロに対抗する必要がある」

    などと言う。

    (やめて、やめて)

    沙絵は心の中で叫んだ。
    沙絵はぐっと唇をかみ締めていた。
    変装テロリストの銃の乱射は続く。
    そこへ女の子が立ち上がって言った。

    「やめなさい。まわりの迷惑になるよ」

    その女の子は鏡子だった。

    場は二人の争いになって、大きく盛り上がった。

    「とにかくみんなで生活してるんだから、迷惑になることはやめてください」

    男の子はそういわれて少しシュンとなった。居たたまれなくなったのか、別の部屋にいってしまった。

    沙絵は鏡子のそばにきた。

    「ありがとう」

    鏡子は腰に手を当てながら

    「人が傷つくのは見たくないから」

    と答えた。
    鏡子は沙絵がテロで両親を亡くしたことを覚えていた。
    沙絵は慣れよう慣れようとして精一杯施設で生活をしたのだった。


    二年後。沙絵は小学6年生になった。
    沙絵は学校で、こんな宿題をもらってきた。
    将来何になりたいですか。それについて原稿用紙何枚でもいいから書いてみるという宿題だ。
    沙絵は何を書こうか頭を悩ました。スチュワーデスは英語が喋れなきゃならない。

    およめさんは、いまどきじゃないかな。とか色々考えた。
    最終的に電車の運転士になろうかと思いついた。きちっと正確な時間で電車を走らせて、お客さんを目的地まで運ぶ仕事。いいなぁ。
    そのときふと、いなくなった両親のことを沙絵は思い出した。
    もし両親が生きてくれていたら、どんなにかよかっただろう。
    お医者さんが両親の傷を治してくれていたら、このような施設にはいる必要はばかっただろう。病気やけがで苦しんでいる人を救いたい。素直に沙絵はそう思った。

    看護婦はどうだろう。看護婦さんの勤務は忙しいし専門的な知識も必要だと思った。でも頑張って勉強をすればなれないこともない。そう思った沙絵は 作文を書き出した。

    学校でできた作文を発表する時間があった。
    教師はよくできた作文だけを発表する
    といったので、沙絵は自分がもし読むことになったら恥ずかしいなと思った。

    教師はできた作文を教卓の上に置いた。
    何人かの発表を聞いているとみな立派に将来のことを考えていて優れていると感じた。

    「つぎは沙絵ちゃん」

    と教師はいった。
    沙絵はびくっとしたが、もうここまできたら自分を隠しても仕方がないと諦めて、作文を読み上げることにした。
    休み時間が来たときに、ある男子が沙絵の作文について何か言ってきた。

    「あいつが看護婦になんかなれるわけないよ。親もいないし」

    沙絵の耳に入るようにわざと声を大きくして男の子は言った。
    (夢を持つのは自由でしょ、なれるかわからないけど、)そう思った。

    「この前の算数の時間の問題、沙絵は全然できてなかったしな。」

    男の子は更に駄目押しを言う。

    「馬鹿は無理なんだよ」

    沙絵はいいかえしてやりたかったが、それほど自分に自信がなかったので言い返せなかった。

    沙絵は、放課後もさっきの男の子の言葉を気にしてショックを受けていた。
    廊下を歩いていると保健室があった。ふらっとそこにはいると、保険女医の一条先生がいた。

    「どうしたの?なにかあった?」

    「いえ、ただなんとなく。あの、、、すこしここにいてもいいですか?」

    一条先生は笑顔を作ってくれた。
    沙絵は、保健室を見回した。独特の匂い。軽い消毒液の香り。

    「先生」

    「なぁに」

    「先生はどうして保健の先生になったんですか」

    先生はもっていた書類から目を離して沙絵を見つめた。

    「なにか技術をもった仕事につきたくてね、養護教員の免許がとれる大学にいったの」

    「いつごろから先生になりたいと思ったんですか。」

    「高校生のときかな」

    「なにかきっかけがあったんですか」

    「そうねぇ、それほど深くは考えなかったけど。」

    「そうなんですか」

    「どうしてそんなことを聞くの?」

    沙絵は少し恥ずかしかったが、作文のことを話してみた。

    「そっか沙絵ちゃんのご両親のことがきっかけで看護婦になろうと考えているわけか」

    「はい」

    「わたしだってね、じつをいうと資格を生かせる仕事がしたいと考えていただけであまり深く考えて職業を選んだわけじゃないの。だから今から真剣に仕事のことについて考えている沙絵ちゃんは立派だと思うわ」

    そういわれると沙絵の表情はすこしずつ明るくなった。
    「でもね、」先生はぎしっと椅子に体重をかけた


    「目標や夢って思うことは簡単だけど、思い続けることがすごく難しいのよ。」

    そう聞いて、沙絵はさっきすぐ自信をなくした自分を思い出した。

    「思い続けるの難しいな、すぐ不安になっちゃう」

    先生は、きりっとした表情を沙絵にむけた。

    「だけどね、不安になるってのも悪いことじゃないの。不安だからそのために努力するっていうことができるとおもうの」

    沙絵はそうかぁと首を傾けた。

    「沙絵ちゃんも高校生くらいになったら、自分が目標としていることを、当たり前のようにしている人たちの中に勇気をだして入ってみるといいわよ」

    先生はいつもにこにこしながら、自分が考えもしなかったような言葉を沙絵にプレゼントしてくれた。


    一条先生の言葉は、沙絵にずっと響いていた。
    そして沙絵は高校三年生になっていた。
    養護施設でも一番の年長になっていた。そしてある日沙絵たちは、施設の行事で養護老人ホームに来ていた。施設では半年に一度ボランティアで老人たちのお世話をすることになっていたのである。
    沙絵は、看護の仕事に興味を持っていたためにこういった仕事が好きだった。 お昼が終わって、おじいさんとおばあさんたちの休憩時間になった。
    沙絵はつえであるいている一人のおじいさんが目に付いた。おじいさんはつえを足の上に置いて椅子に腰掛けた。
    そこで沙絵はおじいさんの隣にいってお話しをしようと思った。
    おじいさん長生きの秘訣はなんですかと沙絵は聞いてみた。

    「長生きの秘訣は悪いことをしないことだよ」

    おじいさんはそう答えた。
    沙絵は悪いことをしないことと長生きが関係するなんて考えたことがなかった。

    「おじいさん、ここにいる看護婦さんのことをどう思いますか?」

    「ここにいるのは、看護婦さんではなく、介護士さんじゃよ。でも仕事の内容は近いものがあるだろうな」

    「介護士さんはおじいちゃんにとってどんな存在ですか?」

    「あのね、普通というのが一番いいんだよ。普通の食事、普通の生活、普通の睡眠。
    これが偏るのがよくない。それを手助けしてくれるのが介護士さん。ここの介護士さんはその点ではとても頼りになるよ。」

    「そうですか。実は私、看護士を目指しているんです。それで介護をする人がおじいちゃん達にどう思われているのかとても気になったんです。」

    「そうか、じゃぁ努力しないといけないね。目標を持ったときはあせっちゃいかん。」

    「はい、そうします」

    沙絵は笑顔で答えた。
    そして老人ホームへのボランティアは終わった。
    そして沙絵にとってもっとも苦しい看護婦になるための勉強がはじまった。
    いまでも小学校の時分の男の子の声が聞こえてくる。お前じゃ看護婦になんかなれない。そんな頭の中で響く声を振りほどきながら沙絵は机に向かった。沙絵の受ける看護専門学校の一次の試験科目は、国語、数学、英語だった。 沙絵は必死で勉強した。保健の一条先生に相談に行くと、先生は一次をまず通過すること。そして二次試験の面接までいってしまえば、沙絵の看護婦に対する熱意を見せれば、パスできるのではないかと励まされた。 年が明け、一月の半ばに一次試験が行われた。倍率は6倍あった。
    そして一月の終わりに一時試験の結果が発表された。
    沙絵はひとりで試験の結果を見に行った。なんだか絞首刑にされる罪人のように あしどりは重かった。受験番号は151番。
    結果が書かれた掲示板をまえにした。1番からずーと数字をながめていった。 149、155。沙絵の受験番号はなかった。


    不合格。


    沙絵は全身の力がぬけた。自分の前に大きな壁があって全然前に進めない。
    そんな絶望感が頭をよぎった。

    わたしってなにをやってもだめなの?両親もいないしだからだめなの?

    頭のなかをぐるぐる否定的な言葉が流れて、沙絵はぐったりして養護施設にかえった。
    次の日、小学校の保健室にいって一条先生に結果を報告した。 なんとか笑顔を作った。

    「先生落ちちゃったよ。でもしかたないね、勉強あんまりできなかったし」

    「来年もまたがんばってみるよ。」

    「沙絵ちゃん」

    一条先生はじっと沙絵を見つめていた。

    「もう一度がんばればいいよね。」

    沙絵の手は震えていた。

    「沙絵ちゃん、泣きたいときは泣いていいのよ」

    「先生、、、」

    沙絵は目を閉じて、一条先生に胸にもたれかかった。すすりなく声が先生の腕の中から聞こえてきた。

    「辛いよ、先生」

    先生は黙って沙絵を抱きしめていた。



    受験に失敗して2週間はほとんどショックで何も出来なかった。
    でも、それからまた立ち上がって沙絵は歩き始めた。
    まず、看護士に必要な知識の根本から勉強を始めて、やる気をつけた。
    そして受験科目の勉強も必死になってやった。



    受験の日がやってきた。ベストを尽くせばよい。楽しんで受験をすればいいじゃないか。そんな晴れ晴れとした気持ちになっていた。



    結果発表の日。

    合格していた。

    でも沙絵の挑戦は始まったばかり。一日一日が輝くような日になるように過ごそうと決めた沙絵であった。



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